独行法反対首都圏ネットワーク

金沢大学「意見書」
(2000.4.7 [he-forum 789] 金沢大学「意見書」)

青木健一@金沢大です。

 3月17日の北国新聞で報道された、いわゆる金沢大学「意見書」の全文を資料として閲覧可能な様にテキストファイル化しましたので、以下に付けます。なお、原文の折り返しが約90文字なので見にくいかも知れません。最初に、既にこのMLにも流されていたと思いますが、思い出しやすいように、
 北国新聞の記事のコピーも付けておきます。
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北国新聞 平成12年3月17日(金曜日)

 独立法人化で意見書 金大「地方の後退招く恐れ」 文部省に提出
 国立大で全国初

 金大は十六日までに、政府が検討している国立大の独立行政法人化に関する検討結果をまとめ、全国で初めて、文部省と国立大学協会に正式に意見書を提出した。意見書には、法人化が教育・研究・文化の面で地方の後退を招く恐れがあり、政府が進める地方分権化にそぐわないとする指摘などが盛り込まれている。同大は法人化をめぐる地域との関わりについて、今後さらに議論を重ねる。

 意見書で、金大は法人化問題の検討が、この受け入れを意味するものではないという姿勢を示し、大学の自主性・自律性がそこなわれるならば法人化はありえないと強調している。

 法人化は効率性を追求する競争原理の導入につながり、地方の大学は都市部の大学に比べ、授業料収入や産学連携の相手企業の規模などの点で不利になり、教育や研究の質にも影響を及ぼすとしている。

 鴨野幸雄金大法学部長は、地方の大学が結束を強め、方策を練る傾向にあることを示した上で「法人化により、大学が差別、選別される恐れがある。地方は、文化の過疎圏になってはいけない。結論を急がず、広く意見を求めたい」と話した。

 金大は四月二十二日、金沢シティモンドホテルでフォーラム「国立大学の地域に果たす役割」を開く。同大が独立行政法人化をめぐって、地域における役割を問い直す機会として企画した。大学、産業、行政の関係者と一般市民によるパネルディスカッションなどが予定されている。

------ 以下、資料全文

国立大学の独立行政法人化問題について

平成12年3月8日
金 沢 大 学

 本学は,国立大学の独立行政法人化の内容の検討,問題点等の把握及び本学における今後の対応について検討することを目的として,平成11年9月24日,学長の下にその諮問機関として独立行政法人化問題検討委員会を設置した。
 国立大学の独立行政法人化問題を検討していく上では,現在成立しているところの独立行政法人通則法によるものと,文部省が,その特例措置として作成した平成11年9月20日の「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」によるものとがある。
 独立行政法人化問題検討委員会は,大学における教育研究の自主性・自律性の確保とその高度化・活性化のために,それぞれの持つ基準はどのような意味を持つものかを検討することとした。10回にわたる検討の結果,国立大学の独立行政法人化問題について,以下に示すような大枠での結論に達したものである。

I 独立行政法人通則法に基づく法人化

 通則法は,現下の行財政改革の実現のために,国家行政組織をスリム化させ,企画・立案機能を本省に残し,実施機能を独立行政法人に分離させて,それぞれの機能の高度化かつ効率化を図ることにそのねらいがある。大学における教育研究は長期的展望に立って自主的に企画立案して実施するものであるから,この通則法をそのまま大学に当てはめることはとうてい認められないものである。

II 文部省の「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」に基づく法人化

 文部省は,平成11年9月20日「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を提示し,各国立大学に通則法をそのまま適用するのではなく,通則法に対する特例措置を盛り込んだ法律の制定を示唆し,各国立大学に対して,これに対する速やかな意見表明を求めている。
 これに対し,本検討委員会は,次のような基本的意見を表明したい。

1 方針
 「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」に基づく法人化問題を検討することは,本検討委員会が金沢大学の独立行政法人化を受け入れることを意味するものではない.独立行政法人への移行が,大学の自主性・自律性を阻害し,教育研究の高度化・活性化に有用でないことが判明するならば,金沢大学として独立行政法人へ移行することはあり得ないことを明記しておきたい。

2 業務
 法律で全大学の共通事項を規定することは良いが,法令で,各大学ごとの業務を規定することになると,大学の序列化に結び付くおそれがあり,大学の個々の業務は各大学で決定できるようにすべきである。
 山資についても,TLO等への出資についての自由度を十分認めるべきである。
 業務方法書の主務大臣認可については,大学の自主性・自律性を阻害しないような運用を求めるものである。学生定員の認可制はやむを得ないとしても,充足率等は大学の運営に任せるべきである。

3 目標・計画
 文部省の特例措置は,あくまで金沢大学の自主性・自律性が確保され,教育研究の高度化・活性化の促進のためのものでなければならない。大学の自主性・自律性の確保の点で,「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」は,主務大臣による中期目標の指示,中期計画の認可及び主務省評価委員会による評価等に際して教育研究に係る事項については「大学評価・学位授与機構」(仮称)の専門的判断を尊重して主務大臣が判断するとしており,一定の配慮がみられる。
 しかし,長期的展望を必須とし,大学の自治の核心である教育研究に対し,主務大臣が大学の中期目標を「指示」したり,中期計画を「認可」したりすることは,たとえ各大学からの事前の意見聴取義務を課すことや,「大学評価・学位授与機構」(仮称)の意見を踏まえるとしても,なお,憲法で保障された大学の自治の観点からみて疑問が残ると考えるものである。
 確かに,国民の公金によって支えられる国立大学には国としての何らかの関与が必要であることは理解できる。この点,文部省と大学(国立大学協会)とも,これの在り方を検討すべきではあるが,少なくとも中期目標の指示,中期計画の認可というような事前の抑制によって,大学の自主性・自律性を阻害してはならないといえよう。

4 人事
 学長・教官の人事面では,大学の決定にゆだねるようにするべきである。「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」では,「評議会により実質的な学長選考が行われるよう,学長の選考方法を検討する」とあるが,大学自治の重要な柱である学長選考・教官人事は,教育公務員特例法の下で,従来からの慣行として確立したと言える大学の自主的判断に任せるべきである。なお,これの選考方法については評価の対象とするべきではないと考える。また,法人化した後の事務職員の人事も,学長及び評議会の自主的判断によるべきである。さらに,大学の自主性に基づく給与体系が認められるべきである。
 兼業についても法の枠内で最大限緩和されなければならないと考える。

5 財源の保障
 運営交付金の交付は現行の予算を下回ってはならないこと,さらに国際的水準の教育研究を成し得るように,財政基盤を充実させ,高等教育全体に対する公財政支出を,現在のGDP比約0.5%から,少なくとも欧米先進国並みの1%程度まで引き上げること,また,授業料は国民の高等教育を受ける機会を保障するため,現行の授業料制度を維持すべきである。また,附属病院の収入,寄付金,受託収入及び余剰金等は,運営上,自主的に利用できる形態をとるべきであり,余剰金の存在と次年度の運営交付金の削減とを結び付かせないこと,さらに,国立学校特別会計制度の利点を最大限維持することを求めるものである。

6 評価の在り方
 仮に独立行政法人に移行した場合の主務省の評価は,大学の自己点検評価を最大限尊重し「大学評価・学位授与機構」(仮称)のような第三者評価機関(公正で透明な第三者機関であるべきである。)による専門的判断を十分に踏まえて実施する必要がある。また,第三者評価機関の構成員の存り方についても,各専門分野から支持できる方法がとられるべきである。なお,第三者評価方法は現在確固としたものとはなってはいないと考える。この制度が客観的で信頼に足るものになるには,長期の試行期間が必要である。まして,評価結果が,資源配分や法人の改廃まで含む判断材料とされる可能性があるなら,なおさらのことと考える。それまでの間には慎重な運用のための特別措置が必要である。

7 高等教育における国(文部省)の責任
 人類の文化を充実させるためには,長い期間を要する基礎的科学分野や新領域分野の教育研究を継承し,かつ発展させることが根本的に重要であり,この点で国立大学が人類の文化の進展に多大の役割を果たしてきたことを重く受け止めるべきであろう。このことを考えるならば,通則法にいう期限を限って効率性を追求する原理の導入は,教育研究の前では批判的にとらえなければならないといえる。

8 地方における国立大学の社会貢献の重視
 さらに,国立大学の役割の重要なものに知の社会貢献がある。新制大学創立以来50年間にわたり,地方における国立大学が,質の高い教育・研究,地域貢献の面で果たした役割を再評価すべきである。しかるに,国立大学の独立行政法人化は,効率性という競争原理を導入させることになり,大都市にある大学はいざ知らず,地方にある大学は,授業料収入や規模の大きくない地元企業との産学連携といっても限界があり,従来維持してきた質の高い教育・研究の保障に危惧の念を抱かざるを得ない。このことは,教育・研究・文化の面で地方の後退を招きかねず,地方の国立大学の社会的責任を負い得なくするおそれがあると思料するものである。これは,21世紀の日本社会が地方分権化社会を迎えるべきであるとする国家政策とは矛盾せざるを得ないものと考える。

9 更なる検討
 国立大学の設置形態は,大学での教育と研究の在り方を左右する根本的問題であり,仮に,その変更を行うのであれば国立大学がこれまで果たしてきた成果と改善すべき問題点や独立行政法人化の長所と短所等について十分時間をかけて検討し国民の理解を求めていくべき問題といえる。しかるに,このための時間が非常に短期間であり,そのうえ,「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」においては「検討する」とされている部分が多く,議論が不十分なまま推移していると考える。文部省には,制度設計者として,十分な討論のための時間と,特例措置基準の明確化を求めるものである。

(以上)



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