独行法反対首都圏ネットワーク

一橋大学長の石弘光氏の見解
(2000.4.2 [he-forum 774] 石弘光氏の見解)

一橋大学長の石弘光氏と千葉商科大学長の加藤寛氏の対談の記録です。
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テレビ東京 加藤寛のカンカンガクガク

放送日:2000年 3月18日(第25回)
ゲスト:石 弘光
(一橋大学学長)
テーマ:国立大学のありかたと税制のありかた

(加藤)
先日、新聞に「国立大学の嘆きと苦悩」という一面広告がありました。これは国立大学が独立行政法人化になることを問題として取上げたものですが、私はどうもよくわからない。文部省の支配から逃げられ、自由にカリキュラムも組めるのに、なぜ反対なのですか。

(石)
先生みたいに単純に言えないのです。やってみようという人もいれば、苦悩する人もいます。これまで大学には競争原理がまるでなかったのに、それを入れようというのですから。

(加藤)
でも、独立行政法人化しても、依然として国立大学であり、国家公務員のままですよね。

(石)
中期的には、大学を評価し、予算配分を変えるわけですから、評価が恣意的であったり、予算が減らされたりしないか心配なのです。リスクを取って自己責任でやりたいというプラス志向の人と、今が良いというマイナス志向の人がいるわけですね。

(加藤)
東大の林先生が、「日本人がノーベル経済学賞をとれないのは、やる気のある人と無い人と処遇に差がつかない大学制度のせいだ」と新聞に書いていますね。

(石)
国から来た予算を学長が配分できるようになれば、ノーベル賞級の研究者には予算がたくさんつくようになる。今まではボトムアップの合議制ですから、革命的な変化になるでしょう。

(加藤)
そうなると学長は批判をされたり大変ですね

(石)
学長だけでなく分業しながらやっていくことになる。私学と同様に労使交渉も出てくる。キチンと評価されるようになると先生方もノンビリできない。役立たない授業だとして切り捨てられる可能性もあるわけです。

(加藤)
国立大学が研究をし、私学が教育を分担するということも考えられますね。そうなると私学も助かる。

(石)
ご自分に都合のよい考えですね。研究と教育と分化してくる。アメリカもそうなっています。

(加藤)
アメリカでは、自己紹介で、テイーチャー(教師)かプロフェッサー(研究者)かと言う。日本は業績が無い者もいるし、中途半端です。

(石)
やはり、得意、不得意がある。これからは、自主独立、自己責任が大切。

(加藤)
かつての紛争時には、文部省が教授会をバックアップしてましたね。

(石)
文部省は期待できない。しかし、私学ほど資金が無いので面倒なのです。

(加藤)
学長の権限が小さいのでコントロールは難しいですね。

(石)
これからは大学の個性を出して、競争する時代です。少子化で学生が選別してくる時代。学生が来なくなれば終わりです。

(加藤)
一橋大学はよいのですが、地方の駅弁大学はつぶれるでしょうね。

(石)
地方は地方の文化を発信するという自負がある。県や市が支えればよい。

(加藤)
今、各県で県立大学をつくってバッティングしますね

(石)
合併すればよいのです。必要ならば法律も変える。

(加藤)
県が大学を支えるとまた地方税とか言ってくるので、やはり、全部私学にすればよいのではないでしょうか。

(石)
加藤流ですね。民営化を心配している人もいるのです。

(加藤)
私学の方が自由。国立は無理して教育することないのです。しかし、先般発表された国立5大学の連合構想は見事だと感心しました。特色ある大学が連合するのはすばらしい。

(石)
まだイメージ先行で、これから中味を充実させます。単位の互換だけでなく、真に中味のあるものにしたい。

(加藤)
一橋大学の語学教育は東京外語大に任せるのですか。

(石)
そこが難しいところで、合併では無いのです。高度の専門性、独立性を有する連合であり、具体的には共同での市民解放講座の実施、1年間の別大学への留学とか考えられる。ヨーロッパでもエラスムス計画とかあり、教官がお互いに施設を使ったりしています。

(加藤)
東京藝術大学など、芸術の世界に一橋大学経済学部の学生がくるのはどう思うでしょうね。

(石)
一橋の卒業生に医者もいれば芸術家もいる。別の方向に編入することも必要でしょう。

(加藤)
私が国立大学を私学にしろといっているのは、これからは財政的にも苦しくなるからです。税制を21世紀にどうするかということにもつながる。私は、シャウプ博士の勧告以来50年経ったシャウプ税制はやめたらよいと思う。

(石)
日本の税制を変える転機ですね。

(加藤)
シャウプ税制の頃には、消費税が無かった。石さんが、その後シャウプさんに会った時に「ヨーロッパにある付加価値税を知っていたら導入すればよかった」と言っていたそうですね。

(石)
日本では導入が遅れましたが、世界的にも重視する方向です。

(加藤)
シャウプ税制の特長である源泉徴収制度も、確定申告へ移行すべきでしょうか。

(石)
国税庁の役人がシャウプ勧告当時も今も6万人程度ですんでいるのは源泉徴収制度のおかげで、やめれば2〜3倍になる。Eメール化とかいろいろ考えられますが。

(加藤)
背番号制の導入もコストがかかりますね。

(石)
新しいことはどうしても抵抗があるので簡単にはいかない。

(加藤)
先日、石原都知事が「政府税調は10年間何もやっていない」というので「消費税の導入、直間比率の是正などをやったが、あなたは国会議員として何をやったのか」と聞いたら、「国会が悪かったんだ」と言っていましたね。しかし、税は納得してやらねばいけない。

(石)
石原さんみたいにとてつもなく早く決断するのも困りますね。

(加藤)
石原さんも、外形標準課税と言わずに、法定外目的税と言えば良かった。

(石)
それでは自治省がYESとは言わないので古い条文をつかったのでしょう。

(加藤)
地方税もシャウプ勧告に従ってつくったが、地方交付税とかなくして、自主財源などやらねばならない。

(石)
地方も汗をかいて税金を集めねばならない。石原さんに喝采があつまったのは、地方税制に問題があった面もある。

(加藤)
石原さんとは逆に、これからの税制改革は21世紀に向けて、「参加と選択」を訴えたい。

(石)
たしかに、国民に選択を与え、公聴会で意見を聴き、反映すること、つまり「参加と選択」が大切ですね。

(加藤)
石さんは財政審議会のメンバーでもあり、税制も見ている。税制は財政支出の問題でもある。アメリカでは包括財政均衡法の中で、キャップ制と、財源無い国債は発行してはいけない、という原則を盛り込んでいる。

(石)
橋本さんは、キャップを考えていたし、これからは考えていかなければならない。

(加藤)
今は財源が無くても使ってしまう。国民も少しずつ理解しつつあるが、まだ十分に理解していない。

(石)
我々が「参加と選択」など、少しずつ説明していかねばならない。

(加藤)
「入るを量りて出るを制す」となっていない。これが日本の一番の欠点ですね。

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石 弘光(いし ひろみつ)

昭和12年 東京都生まれ。
昭和36年 一橋大学経済学部卒業、
昭和40年 同大学院経済研究科博士課程修了、経済学博士。
一橋大学経済学部助手、助教授、教授を歴任し、
平成5年経済学部長。平成10年より学長に就任。
財政学を中心にした著作で数々の賞を受賞している。



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