独行法反対首都圏ネットワーク

岩手大学教職員有志の独法化反対声明
(2000.3.26 [he-forum 745] 岩手大学教職員有志の独法化反対声明)

 ML参加者の皆さま、はじめまして。岩手大学教育学部の武田晃二です。いつも貴重な情報をありがとうございます。なにやら状況があわただしくなってきましたね。
 さて、岩手大学では今年に入って33名の教員有志が声明「私たちは国立大学の独立行政法人化に反対します」をまとめ、これに賛同する学内の教職員の署名をもとめる活動をおこなってきましたが、このほど教員の過半数を含む教職員327名の署名が集約されましたので、3月22日に県庁記者クラブにおいて記者会見に臨みこれを発表しました。また、この声明と署名数を全国および県内の関係機関等に送付し、さらに運動をひろげていくことにしています。以下、このことを報じた岩手日報の記事と「声明」全文を掲載します。

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 「岩手日報」3月23日付 国立大の独立行政化に反対声明 岩手大学教職員有志
 
 岩手大学教職員有志(代表・高塚龍之人文社会科学部教授)は二十二日、盛岡市の県庁内で記者会見し、国立大学の独立行政法人化に反対する声明を発表した。学術研究、高等教育機関としての大学に、行財政改革の一環として打ち出された独立行政法人化による効率性を重視した運営はなじまないーとしている。今後、県や各市町村議会に対してアピールしていく。高塚教授ら五人が、趣旨に賛同した教職員の署名が三百二十七人あったことを説明し、声明を発表した。反対理由として、▽大学を国の一般的な事務あるいは事業主体とみなして、効果的、効率的との観点からとらえると、経済的な利益と直結しない研究分野などが軽視され、国民が期待する教育・研究の発展は望めない▽制度的、財政的な保障が不安定になる▽授業料の増加も予想され、経済的理由で高等教育を受ける機会が奪われかねないーなどしている。高塚教授は「独立法人化された場合、状況によっては縮小や改廃にかかわってくる。地方の国立大学がなくなることは文化・学術の過疎化につながっていく。二十一世紀の高等教育システムの議論を抜きにした拙速なやり方は認められない」と主張し、県民の幅広い理解を求める。

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     岩手大学教職員有志の声明
   「私たちは国立大学の独立行政法人化に反対します」
                            
 政府は1997年12月の行政改革会議「最終報告」を受け、昨年の7月、「独立行政法人通則法」(以下「通則法」とする)を制定しました。一方、国家公務員の25%削減に当面した文部省は急遽、国立大学の独立行政法人化をうちだし、新年度早々には個別法の骨格を提示するとしています。
 「通則法」によれば「独立行政法人」とは「公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務および事業」であって「国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」のうち、「民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの」または「一の主体に独占して行わせることが必要であるもの」を「効果的かつ効率的に行わせることを目的」とする法人であるとされています。
 このような独立行政法人が高等教育機関としてその目的や任務が教育基本法や学校教育法に規定されている国立大学になじまないことは文部省自身も認めており、それゆえに個別法制定にあたっては大学の特性をふまえた特例措置等を盛り込むとしています。しかし、そのことによって「大学の教育研究の自主性・自律性」が保障されるわけではありませんし、特例措置の実現すら危ぶまれています。
 私たちは国立大学の独立行政法人化には以下の理由から反対します。

(1)「通則法」は国の行政組織の減量・効率化を図るという「行財政改革」の一環として登場したものであり、これを大学にまで拡大適用することは、大学を国の一般的な「事務」もしくは「事業」主体とみなし、大学の基本的な任務である教育・研究を「効果的かつ効率的」であるかどうかという観点からとらえようとするものです。そのような大学のもとで国民が期待する教育・研究の発展はのぞめません。

(2)国立大学はその時代や国民が要請する諸課題を教育・研究の本性において受けとめつつ、人類の幸福および国民全体の利益にそって学術・文化の総合的な進展に寄与することを固有の任務とするものです。特定の教育研究内容や特定の利益をあげることを志向し経済効率で測定される「独法化」の下では、人間形成にかかわる教育、息の長い基礎的な研究、経済的な利益と直結しない研究分野等が軽視され、教育や学術・文化におけるバランスのとれた発展が損なわれることになり、国全体としてもとりかえしのつかない損失をまねくことになります。

(3)「通則法」は、国立大学を「国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」と位置づけようとしています。そのことは、一方では国立大学の存立基盤である制度的財政的な保障が不安定となることを意味し、他方では中期目標・中期計画の策定さらに結果の評価に基 づく運営資金の交付および組織の改廃等については国が自ら主体となるとしていることから、大学をこれまで以上に直接管理統制することを意味するものといえます。なお、中期目標・中期計画を定めるにあたっては文部科学大臣に各大学からの事前の意見聴取義務を課す、また、評価委員会が主務大臣に意見を表明する際には教育研究に係る事項にかぎって「大学評価・学位授与機構」(仮称)の判断を踏まえる、などの特例措置を盛り込むとしています。しかし、そのような措置によっても「通則法」のもとでは大学の教育・研究の発展を保障するものにはなりえません。

(4)独立行政法人の会計は原則として企業会計原則によることとされ、その結果たとえば、授業料等学生の納付金についても法人たる大学毎で決めるものとされています。授業料は文系でも現在の倍以上になるという試算もあります。国立大学は高等教育を受ける権利を保障する国の制度であることを第一義的使命として存立しているものであり、私たちは経済的理由等によって多くの人材が高等教育を受ける機会を奪われることを見過ごすことはできません。

(5)わが国における国立大学は戦前を含むそれほど長いとはいえない歴史の中でも大学自治の慣行を築きあげ、自主的・民主的な高等教育機関としてその役割をすくなからず果たしてきました。同時に設置形態としての国立大学のあり方について検討すべき課題があることを否定するものではありません。しかしながら、このような検討の余地すら与えないような拙速なやり方で国立大学を廃止することに私たちは強く反対するものです。

 岩手大学は他の多くの国立大学とともに今年創設50年を迎えました。私たちはこの間、教育・研究はもとより、大学の拡充や地域への貢献などにおいて多くの成果をあげてきたことを自負しておりますが、同時にまた改革すべきさまざまな課題があることも自覚しております。私たちはこれらの課題を解決しながら、国民が期待している人材育成および学術研究をこれまで以上に積極的に進めていくことをあらためて表明いたします。

2000年3月22日
        
国立大学の独立行政法人化に反対する岩手大学教職員・327名

呼びかけ人
井上隆義、遠藤元庸、岡田幸助、小野善康、鎌田文聰、菊田紀郎、菊池孝美、菊地良夫、小林英信、古賀潔、小林晴男、佐藤信安、志賀瓏郎、砂山克彦、平 秀晴、*高塚龍之、高橋壽太郎、高畑義人、田口典男、 武田晃二、田中 稔、種倉紀昭、千葉昌弘、中沢 廣、沼田 稔、原 茂雄、藤沢建二、藤原隆男、三浦  修、三宅陽一、村上 祐、望月善次、若尾紀夫(*は代表)



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