独行法反対首都圏ネットワーク

鹿児島大学長「創立50周年記念式典祝辞」
(2000.3.21 [he-forum 716] Kagoshima Univ.)

『鹿大広報』No. 152 Jan/2000
 http://www.kagoshima-u.ac.jp/pub/koho152/

創立50周年記念式典祝辞 学長 田中弘允

(前略)
12世紀にヨーロッパに発生した「大学」は、世界中で様々の変遷や発展をとげ、社会の中でなくてはならない存在となりました。それは、大学が知の中心であるばかりでなく、社会の発展に不可欠であるからであります。大学の役割には、文化の批判的継承、知的創造、豊かな人間性と幅広い教養をもつ社会人の育成、社会活動があります。

これらの重要な役割を果たすには、時代・社会の要請に充分に対応することが必要でありますので、大学の機能は、時代とともに進歩しなければなりません。このことは、もちろん教育、研究、社会活動のいずれにおいても必要なことであり、私どもは創意、工夫、研究する心と大きなエネルギーでもって、これらの問題を解決しなければならないのであります。しかも、これらの進歩・改革は、他者からの力によってなされるべきものではありません。なぜなら、学問や教育にとって自由こそが最も重要であるからであります。幸運にも学問に携わる機会を与えられた教官や、それを支える役目を担う事務職員が、主体性を持って前進しなければならないからです。

したがって、私ども鹿児島大学は、本学独自の構想を策定し、その実現に全力をつくさなければなりません。

以上の基本的な考えを鹿児島大学について具体的に述べてみたいと思います。

まず教育では、学生が来たるべき21世紀の社会において自己実現に必要な職能、豊かな教養と人間性、社会的役割の認識を身につけることを目指したいと思います。

研究では、伝統的学問体系における独創的研究、社会的・地球的課題の研究、地域の活性化のための研究などのさらなる発展が必要です。これには、「鹿児島学」が重要な部門として含まれなければなりません。

社会活動では、地域に開かれた大学として、本県特有の諸産業の発展や開発、ベンチャービジネスの創出などがあり、リサーチパークの設置なども必要となります。

これらのほかに、鹿児島大学は国家や地域における知の中心として、より積極的な役割を果たさなければならないと思います。それは、社会の枠組やあり方への積極的な参加であり、発言であります。例えば、わが国の高等教育・研究のあり方について充分検討し、あるべき姿を社会に提言すること、あるいはよりよい民主主義国家をつくり上げるために必要な政策提言を行うことなどがあげられます。

また、鹿児島地域における大学等の有機的連携の計画・実行、あるいは幼児から小中高校を経て大学までの教育、または生涯にわたる教育の総合性の検討なども行うべき課題です。

さらに、現代の物質文明社会における過度の経済効率の弊害も重要な課題として取り上げねばなりません。われわれの社会では今や人間性はだんだん失われ、職業に生甲斐を求めることができない人々は失望しつつあります。物質文明の申し子である時間泥棒によって、自らの貴重な時間が奪われ、人間らしさが失われています。私どもは、これらのことを明確に認識し、社会へ働きかけ、あるべき姿へと変えていかねばなりません。私どもこそ先頭に立って進まねばならない立場にいると思います。

さて、本日はおめでたい席ですので、やや躊躇するのでありますが、ここで私どもにとって困難な問題に触れなければなりません。本学は、開学以来、自己改革を進めて参っており、その成果は、着実にあがりつつあります。しかしながら、最近持ち上がった独立行政法人化が、もし鹿児島大学に適用されるという不測の事態が出現すれば、私どもの努力は道半ばにして残念な結果に陥ることになると思われるのであります。

国立大学の独立行政法人化は、従来のシステム即ち国税等からの財源をもとに各地の国立大学に教育資源の再配分を行い、日本全国の均衡ある発展を達成してきたシステムを廃止し、高等教育・研究を市場原理に任せることを意味します。その結果、大企業や人口が少なく、研究助成金等を得にくい地方の大学では、入学金や授業料等の値上げは避けられず、地方に住む子弟はいくら優秀でも進学できないことになります。また地方大学の教育・研究の質が低下することは明らかです。したがって地方が、文化的、政治的、経済的に破壊されることが強く懸念されるのであります。

高等教育・研究は、21世紀わが国土の均衡ある発展のために国によって保証されるべきシビル・ミニマムであると思うのであります。

私どもは、上に述べた諸課題を皆さんの御協力を頂き、地域社会の一員として解決していかなければなりません。そのためには、鹿児島大学独自のアイデンティティを明確に定め、自らの足でしっかりと鹿児島の大地を踏みしめ、目は遠く地球の隅々にまで、また、宇宙の果てまでも見据えなければなりません。私ども鹿児島大学は、人文社会学、理工学、農水産学、生命科学等幅広い教育・研究領域をもっています。また鹿児島は、本土の南の玄関口に位置しており、東南アジアに近いこと、自然に恵まれていること、日本の食糧基地であること、離島が多いこと、2つの世界的なロケット基地があること、自然災害が多いことなどの特徴をもっています。今からおよそ450年前にはザビエルが上陸し、種子島に鉄砲が伝わり、日本全国に大きな影響を与えました。また、西郷さんに代表される鹿児島の先輩達は、明治維新の原動力となったのであります。

これらの特徴即ち「学問の総合性」、「地理的特性」、「歴史的特性」は、本学の独自性を支えるものであり、これを基にした今後のさらなる発展が期待されています。次の50年において、本学が大きな発展をとげ、世界で、地球上で、また鹿児島でなくてはならない存在であり続けるよう全教職員、学生共々全力をあげて努力したいと思います。これをもちまして、式辞といたします。ありがとうございました。



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