独行法反対首都圏ネットワーク

「国立大学の法人化」に寄せて/福井大評議員・教育地域科学部教授 黒木哲徳
(2000.3.14 [he-forum 684] Fukui Shinbun 01/28)

『福井新聞』2000年1月28日付

「国立大学の法人化」に寄せて
福井大評議員・教育地域科学部教授 黒木哲徳

地方の産業・文化 窮地に

いま、行財政改革の一環として国立大学を法人化することが検討されている。これまでわが国の高等教育への公的財政支出は国内総生産比でみると、先進諸国の中で最低で、アメリカの三分の一、イギリスなどの二分の一であった。いまだに建物の老朽化やビーカーの代わりに牛乳瓶を使うような状況は解消されていないが、乏しい予算の中で国立大学は教育と研究の重要な部分を支えてきた。ところが、法人制度では主務大臣が各大学からの聴取に基づき、業務上の目標を決め、収益性が悪ければ、廃止されることにもなる。従って「もうかる教育」「もうかる研究」が優先され、採算性の低い基礎的な学問研究や学科・学部はつぶれる可能性が大きい。もし授業料で採算をとるとすれば、文科系では年間百数十万円、理科系で二百数十万円、医学系で四百万円とも言われている。
現在、都市圏を除いた大学生の六〇%は国立大学に在籍している。その理由は授業料と信頼度にある。国立大学の授業料は、この三十年間でなんと四一・三倍という異常さだが(消費者物価は三・三倍)、地方の安い生活費になんとか助けられている。今でも親の負担は大変なので今後、ますます少子化傾向を加速しかねない。授業料の高騰で学生が集まらなければ、授業料据え置きで学生定員を二〜三倍に増やすしかない。そのことは少子化の今日、地方の私立大学をも危機に追い込む。そもそも教育や研究には非常にお金がかかる。ヨーロッパの国々では授業料無料か低額であり、教育は経済より優先し、平等に教育を受ける権利を国が保障するという確固たる精神がある。ましてや、この高度文明社会を維持し、発展させるには高等教育は欠かせない。一部の人が高等教育の恩恵に浴すれば済む時代ではない。アメリカは高等教育を全員が受けられるように、さらなる公的財政措置を講ずると宣言している。
ところで、国立の多くは総合的な大学であり、地方にあってもさまざまな分野の教育や研究のできる機会が均等に保障されてきた。しかも、教育や研究が時の権力や経営者によって左右されず、公平に保護されるという前提によって国立大学の教育や研究の質が形成され、どの地方にあっても差別化されない高等教育の水準が保障されてきた。その意味で、福井大学も子供たちや若者の希望と信頼を紡いできたと思いたい。工学部では地元企業との共同研究も盛んになっているが、それは企業がもうかる研究のみを期待しているからではなく、地道な基礎研究の成果への信頼に基づくものだと考える。
教育地域科学部ではこれまで、教員養成において地域に貢献してきた。今また、新しい価値を創造できる地域のリーダーを養成しようとしている。教育や研究は人類の平和と福祉に貢献するためにある。高齢化社会や高度情報化社会にあって新しい価値を確立し、それを普遍化するには多くの人的資源を必要とする。国民のための開かれた大学を目指してなお一層の努力は必要だが、このような時期にあって効率性や採算性と、地方の国立大学をてんびんにかけるやり方は地方の産業や教育・文化を窮地に陥れ、国の発展を衰退させる危険なかけである。県民の皆様のご支援を得てなんとしても国立大学の法人化について再考を求めたい。



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