独行法反対首都圏ネットワーク

日本天文学会および日本学術会議天文学研究連絡委員会の共同声明(2000.3.7[he-forum 666] Astronomy)

『天文月報』93巻1号(2000年1月)、44-45頁。

 声明文

 国立大学・大学共同利用機関の独立行政法人化問題に関する日本天文学会および日本学術会議天文学研究連絡委員会の共同声明

1999年10月8日に開催された日本天文学会秋季年会での総会において、天文学の研究・教育に大きな影響を与える上記問題について、日本天文学会として日本学術会議天文学研究連絡委員会との連名で声明を出すことが合意されました。
総会での議論を踏まえて、日本学術会議天文学研究連絡委員会および日本天文学会理事会で検討した結果、以下の声明をそれぞれの代表者名で発表いたします。


国立大学・大学共同利用機関の
独立行政法人化の動きに懸念を表明する声明

1999年11月

日本天文学会理事長: 尾崎洋二
日本学術会議天文学研究連絡委員会委員長: 池内 了

 去る9月20日、文部省は国立大学および大学共同利用機関(以下、国立大学と略す)の独立行政法人化に向けて、特例措置等を検討する際の基本的な方向を整理することを表明しました。このまま推移すれば、来年4月には国立大学の独立行政法人化の方策が打ち出され、2003年には設置形態の大幅な変更がなされることが予想されます。現在進められようとしている国立大学の独立行政法人化の流れは、効率優先の考えがその根本にあり、天文学をはじめとする基礎科学や人類の文化に多大な貢献をしている学問が、切り捨てられてしまうのではないかとの危惧を、私たちは抱いています。現在の国立大学のシステムにもさまざまな問題があり、国際化の時代に即した柔軟な体制への変革が必要であることは、研究者の間でも意見の一致を見ております。しかしながら、日本の天文学の研究・教育・普及活動に当たっている者として、効率優先の考えに基づく現在の独立行政法人化の動きには強い懸念を表明します。

 国立大学の行政法人化の検討を、大学における研究・教育の効率性を過度に重視した観点から行うならば、天文学のような、長時間の地道な観測や長い期間をかけたデータの集積が不可欠な分野は生き残れないでしょう。現に、独立行政法人の通則法では、所轄大臣から3―5年の中期目標が示され、それに応じて大学が中期計画を立て、その結果が評価機関で評価され、資源(予算や人員)配分に反映される、となっています。天文学は、独立行政法人に課せられるこのような効率性という枠には収まりきれない学問です。

 宇宙はどのようにして生まれたのか。宇宙の果てはどうなっているのか。地球はどうやってできたのか。誰もがこのような疑問をもったことでしょう。つまり宇宙に関する疑問は、人類が太古の昔より共通して持ちつづけてきた疑問であり、人々の精神世界の充実にとって欠かすことができない疑問なのです。いわば天文学は、人間を人間たらしめる重要な文化の一つと言えるでしょう。効率性とは相容れないのです。しかし、現在推進されている独立行政法人化の流れでは、このような効率性とはなじまない分野から切り捨てられる可能性が非常に高いことを強く危惧しています。

 近年、国民の広い支持を得て、日本の天文学研究者は野辺山電波望遠鏡や「すばる」望遠鏡を建設し、一連の天文衛星を打ち上げてきました。そしてこれらの最先端の装置を用いた観測により日本の天文学研究者は世界的な成果を数多く挙げてきました。その背景には、国立大学および大学共同利用機関という国が設置した研究・教育機関が中心となって天文学の推進を図ってきたことがあります。日本の多くの国民が天文学に注目していることは、毎年10万人以上もの見学者が野辺山電波望遠鏡を訪れることや「すばる」望遠鏡によるテレビ番組が高い視聴率を示していることからもうかがい知れます。国民の宇宙をもっと知りたいという要求に応え、21世紀の天文学研究をいっそう発展させるためにも、研究者の自主性と長期的展望にもとづく教育・研究体制の構築を行なうことが重要であると考えます。



目次に戻る

東職ホームページに戻る