独行法反対首都圏ネットワーク

富山大について、北日本新聞の特集記事
(2000.3.2 [he-forum 650] 北日本新聞 2000.2.27)

浜本@富山大学理学部 です.

北日本新聞の特集記事を転載します.

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『北日本新聞』2000年2月27日

▽サンデー特報△

独立行政法人化で揺れる富山大

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 国立大学の「独立行政法人化」が現実味を帯びてきた。文部省は四月をめどに国立大学協会(国大協)や政府と網整し、独立行政法人化化に踏み切る見込みだ。県内では富山大の教職員有志や人文学部が反対声明を出すなど、法人化を巡る動きが活発化化している。「教育を行政のスリム化という“効率”で計るべきではない」という根強い反対意見の一方で、大学が競争意識に基づく変革を求められているのも事実だ。(社会部 浜浦徹記者)

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学内で議論沸とう
行政スリム化の一環
実績の評価に難しさも

 独立行政法人化の狙いは行政のスリム化。行政が直接行う必要はないが、完全に民間に委ねることのできない公共的な機関や業務を国から切り離す独立行政法人通則法が昨年七月に成立した。これによって九十の政府機関・業務が十三年から順次法人化することが決まっている。
 法人は民間企業並みの経営手法などを取り入れる。三−五年の中期計画を作成し、所轄省の実績評価を受け、業務継続の必要性や組織の在り方を見直す。

◇行政改革の目玉

 国立大学を対象とするかは、いったん十五年に結論を先送りするはずだった。しかし、小渕内閣が昨年一月に行政改革の目玉として、十三年から十年間で国家公務員の二五%を削減する方針を打ち出したため、十二万五千人の教職員を抱え、郵政省に次いで国家公務員の数が多い国立大の存在が一躍クローズアップされた。
 大学の自主性・自律牲を種保するために、文部省は昨年九月、人事や教育、研究など特殊事情に配慮した特別措置を設けることで、法人化に向かう文部省案をまとめた。国大協は「自主性が保障されているとはいい難い」などとして、反対の立場を守っている。
 富山大の時沢学長は今年一月、全学の方針を学生や教職員に通達した。これによると、通則法による独立行政法人化には反対で、文部省の示した特例措置に対しても五つの条件が必要としている。
 条件は▽中期目標を定める際、大学の自主性、自律性を確保する規定を設ける▽教育研究に支障となる定員削減をしない▽業績評価の基準を明確化―などだ。

◇学部間で温度差

 文部省の特例措置に対しては、成果が実を結ぶまでに長い時間を必要とする人文学部や基礎研究中心の理学部などが反対しているのに対し、応用研究中心の工学部が「受け入れざるを得ない」としているように、学部や教授間で温度差があり、一枚岩とはいえない。
 理学部のある教授は、独立行政法人化された場合の三−五年という中期目標に縛られることを懸念する。「海のものとも山のものとも分からない研究を試行錯誤していくのが基礎研究だ。こうした中から思いもよらない画期的な成果が生まれてきたが、これからは答えの見えている研究しか出なくなるのでは」と話す。
一方、工学部のある教授は「大学全体としては基礎と応用のバランスが取れていることが望ましい」としながらも、「産業界の即戦力となる人材を育てるという工学部本来の意味では、むしろいい機会になる」とみる。別の教授は「大学が自律できるという条件さえ整えば、独立行政法人化も悪くはない」と話す。

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国立大の独立行政法人化構想に至る行政改革の流れ

 96・11 橋本内閣の下、中央政府のスリム化を目指し行政改革会議」を設置
 97・12 行政改革会議が最終報告。国立大については「大学の自主性を尊重しつつ、研究・教育の質的向上を図るという長期的な視野に立った検討を行うべき」
 98・6 2001年からのスタートを目指し「中央省庁等改革基本法」成立
 99・1 小渕内閣の下、自民・自由両党で国家公務員の定数を25%削減することを合意
 99・1 「中央省庁等改革に係る大綱」成立。国立大の独立行政法人化については「大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一貫として検討し、平成15年までに結論を得る」
 99・6 文部省が2000年夏までに結論を出す方針を表明
 99・7 「独立行政法人通則法」成立。2001年から90機関・業務、約7万3000人を独立行政法人化する方針
 99・9 文部省が全国学長事務局長会議で検討案(特例措置等の検討を行う際の基本的な方向)を提示

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 独立行政法人 国の行政機関から一部を切り離し、法人格を与え、民間企業にならった会計制度や経営手法を取り入れるもの。これまでとの大きな違いは▽法人の長は主務大臣が任命する▽大臣が三−五年の中期目標を定める▽業績を評価し、業務を継続させるどうか検討する―など。
 財政負担 「民営化」のような独立採算制は採用されず、国の予算措置を受ける。これまで単年度の執行が原則だったが、企業会計が導入され、翌年度に繰り越しできる。
 職員の身分 「公務員型」の法人職員となり、国家公務員ではなくなる。小渕内閣は国家公務員の二五%削減を公約に挙げており、これを名目上達成するための数合わせに過ぎないとの批判がある。

 中期計画 法人は三−五年の中期計画を作成し、所轄省の実績評価を受け、業務継続の必要性や組織の在り方を見直す。大学の場合、短期間で成果の出にくい基礎研究や、すぐには役立たないが、何らかの形で将来的に脚光を浴びる可能性のある研究が冷遇されるなどといった見方が強い。

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主体性尊重し修正
“護送船団”やめ“自己責任”

文部省大学改革推進室 杉野 剛室長に聞く

 昨年七月の中央省庁改革関連法案として成立した独立行政法人通則法。文部省はこれに対し、国立大に対する特例措置を求める案を示している。同省大学改革推進室長の杉野氏に、独立行政法人化によって国立大に何を期待するか聞いた。

―昨年九月、文部省が通則法とは別に特例措置などの方向性を示した理由は。

 「独立行政法人になると、予算の使い方や組織の作り方などで国の規制から外れる。通則法では、各大学の自由な運営が可能になるというメリットの一方で、文部省が学長を選ぶなどの国立大にとって無理な面もあるため、大学の主体性を尊重できるよう、制度設計を修正する方向性を考えた」

―三−五年(文部省案では五年)という短期間の目標を立て、大臣の下に置かれる評価委員会が成果を評価する。すぐ成果が出ない基礎研究が冷遇されるという不安の声が強い。

 「基礎研究そのものが国立大の重要な役割の一つであり、評価方法をどう考えていくかがカギになる。文部省では評価委員会に大学関係者も加えるなど評価システムについて研究中だ。短期間にすべての成果を出せ、といった効率重視の評価にならないよう国立大に合ったやり方を考えたい」

―大学の自律性・自主性は保たれるか。

 「中期目標をつくる際も大学の意見を尊重する。ただ大学の運営費に国民の税金が六割を占めている以上、国としても最低限のチェックは必要だ。やり方によっては独立行政法人化はかなりいいシステムになる」

―将来の大学像・あるベき姿を聞きたい。
 「日本に六百ある大学すべてが同じタイプになるのは好ましくない。それぞれが特徴を生かし多様化していくとともに、大学間で競争し世界的に通用する研究や人材を生むことが大切だ。そのためにはこれまでの護送船団方式のイメージから脱し、法人格のあるそれぞれの大学が、自由かつ自己責任を持つことが必要。現在の国立大の在り方に国民が満足していないという現状があり、どうすべきか、各大学、教官も考えてほしい」

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独自性ある研究減る

 富山大教職員の会・世話人代表 別本明夫教授(人文学部)

 ―会発足の理由は。

「国立大が抱えている問題を広く県民に知ってもらうため、地元紙に意見広告を出す目的で昨年十月に発足した。参加しやすい有志という形を取り、これまで二度、意見広告を出した。参加は三百十七人に上った」

―大学は今、どんな状況にあるのか。

「富山大は教養部を廃止した平成五年ごろから、改革、改革と追いまくられてきた。独立行政法人化の問題はこうした改革の成果が見えないうちに、行政の効率化だけを目的に新たにわき起こってきた」

―どう受け止めているか。

 「研究があまりに専門分野に閉じこもったり、教授という権威に甘んじたりするなど、大学人が市民の視点に立ち戻らなければならないという反省はある。しかし、いま国が行おうとしている独立行政法人化では、オリジナリティーのある研究がなくなり、授業料も上がることなどが懸念される。大学だけでなく、県民にとってもプレスにならない」

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国の管理強化を懸念

富山大教職員組合委員長 立川健治教授(人文学部)

―組合の取り組みは。

 「教職員の労働条件や教育研究の環境を守るため、学長に独立行政法人化に関する議論の場を設けるようたびたび申し入れてきた」

―国の政策をどうみるか。

 「今のままの国立大にさまざまな問題があることは認めるが、大学改革の問題が議論されないまま、行政改革の問題へたすり替わっている。国家公務員の定員削減の数合わせとして国立大が対象になった。国や政治家に文教政策の見通しがないのが残念だ」

―大学の自治は守られるか。

 「企画立案機能を文部省に委ね、大学は実施機能だけをもつ独立行政法人化は、大学の独立よりも国の『管理統制』を強化するだろう」

 ―教育環境にどう影響するか。

 「法人化され、経営がうまくいかなくなると授業料の値上げが想定される。現状の約五倍になるという試算もある。公立、私立大にも悪影響を与え、教育の機会均等をも崩していくだるう」

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国立少年自然の家
13年度に移行
企業会計導入へ

 県内では、既に国立立山少年自然の家が十三年度、国立療養所富山病院(婦中町)、同北陸病院(城端町)が十六年度、富山陸運支局の整備課が十四年度以降に独立行政法人化することが決まっている。多くがどう変わるか、分からないまま、国から細部の指示を待っている段階だ。
 全国十四の国立少年自然の家は、独立行政法人通則法と、個別法の独立行政法人国立少年自然の家法に基づき、一つの独立行政法人組織となる。
 主な変更点は、同法人に役員理事長、理事、監事が置かれる。翌年に予算を繰り越しできる企業会計スタイルとなるほか、代表への人事権付与、三−五年の中期計画を立て国によって実績を評価されることなど。
 同自然の家の菅原政寿所長は「勉強会や研修会を開き、国の指示に迅速に対応したい」と話している。

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写真1 独立行政法人化問題が学内にさまざまな論議を呼んでいる富山大
写真2 教授らが独立行政法人化に向けた意見や情報の交換を目的に1月に立ち上げた「富山大改革情報ネットワーク」

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以上.



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