独行法反対首都圏ネットワーク

国立研究機関の法人化
行政と情報交換を 起業支援の仕組み必要(2/26日経新聞)
(2000.2.26 [he-forum 638] Nikkei Shinbun 02/26)

『日本経済新聞』2000年2月26日付
サイエンスアイ
国立研究機関の法人化
行政と情報交換を 起業支援の仕組み必要

国立研究機関の独立行政法人化を目前に控え、各省庁とも法人をどう運営するかの検討を進めている。この過程で様々な課題が指摘されているが、中でも根源的な課題は、いかに行政目的に沿った研究を行うかと、研究成果をどう社会に生かすかの二点である。
独法化すれば所長らの裁量権が広がるし、予算面でも自由度が大きくなる。と同時に所長ら経営者の責任は重くなり、研究所の将来は経営者の肩にかかってくる。所管官庁の指示に従っていれば済むというわけにはいかず、独自の判断が求められる。
独自の判断と、行政目的に沿った研究をどう両立するかが問題になる。建前をいえば、所管官庁の大臣が中期目標を定め、これに従って研究機関が計画を立てることで整合性をとることになっている。
しかし、どこまで具体的に中期目標を立てられるかという心配があるし、時間の経過とともに目標とニーズがかい離することも考えられる。建前は建前として、研究所の経営陣と行政がどれだけ密接に情報交換できるかが、これまで以上に重要になってくる。
◎ ◎
もう一つの課題が、成果の生かし方である。多くの研究所が産業界を強く意識し、共同研究や技術移転を考えている。これまで以上に共同研究をやりやすくしたり、技術移転のためのメカニズムを用意したりするのは意義のあることだ。しかし、それだけでは不十分と思われる。
研究者が自らベンチャービジネスを起こし、研究成果を産業化するメカニズムを用意する必要がある。研究者の考え方にもよるが、自分の成果に愛着を持つ研究者は多い。成果を移転するよりも、自分で活用する方に強いインセンティブが働く可能性が強い。
また、新産業を生むような革新的な技術に対して、日本の産業界は臆病になる傾向が強い。これまでも日本の成果が米国などで評価されて初めて日本で認められるという例が多かった。共同研究や技術移転だけでは、革新的な技術が埋もれてしまう心配がある。
ベンチャーの場合には、十社に一社が成功すれば大変な好成績である。革新技術を実用化するのにも同様なリスクを伴うが、成功率十分の一以下というリスクを承知で投資する経営者が日本に多くいるとは思えない。やはり、研究者が自ら起業するしかない。
日本には多額のベンチャー支援の資金があるが、そのほとんどが融資であり、投資ではない。回収を前提にした融資では冒険はできない。研究機関がベンチャーを起業する研究者に投資する仕組みが欲しい。
◎ ◎
さらに、一研究機関では負担しきれない投資が必要な革新技術が生まれる場合もあるだろう。これについては、政府が投資する「国有ベンチャー」の仕組みが必要だろう。国が投資をし、一定期間後に評価をする。失敗なら事業を断念するし、成功なら株を民間に売却する。
技術開発は基礎研究から応用研究、開発へと順を追って進むものでは必ずしもない。国が研究すると、実用化は民間という意識があるから、ダイナミックな技術開発が進みにくくなるきらいがある。これを避けるためにも起業支援の仕組みが求められる。
(論説委員 鳥井弘之)



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