独行法反対首都圏ネットワーク

「国立大学」が消える日 迫る独立行政法人化 (6)
分裂の危機 国大協"沈黙"
(2000.2.17 [he-forum 622] Tokyo Shinbun 02/17)

『東京新聞』2000年2月17日付

「国立大学」が消える日 迫る独立行政法人化 (6)

分裂の危機 国大協"沈黙"

文部省が独立行政法人化案をブロックごとに学長に説明する全国行脚を終えようとしていた一九九九(平成十一)年十一月一日、国立大学協会は、理事会を開いて対応を協議した。
「どこを最大の争点とするか、まずそれを固めていかなければならないが、固められるかどうか若干気になるところだ。国大協にすべてゆだねられても不可能なケースもある」。会長の東京大学長、蓮実重彦(六三)はやや弱気な発言で口火を切った。「最終的には多様な意見を踏まえてまとめたいが、細かなことを逐一挙げて発言する時期は終わったと思う。いつだれに向かってどこで何を言うかについては、もう少し時間を頂きたい」
利害が対立する九十九国立大学を一つにまとめるのに苦慮した蓮実は、議論を大枠に絞ることで着地点を見いだそうとしていた。
同月十七日、東京・神田錦町の学士会館で開かれた総会では、案の定、種々の意見が飛び出した。
〈立場の弱い大学は文部省の意向に従わざるを得ず、結果的に独法化は規制強化につながる〉
〈独法化はすでに回避できないところまで来ている。やり方によっては道が開ける可能性がある〉
〈もう戻れないと言う見方はペシミスティック(悲観的)に過ぎる〉
〈悪くするとこれまで築き上げてきたものを崩壊させかねない。声を大にして反対を主張すぺきだ〉
〈この機会を逆にチャンスととらえて、特例法を作ることも考えていかないといけない〉
議論は白熱し、三人に一人の学長が発言に立った。独法化を懸念する声が目立ったが、「条件付き受け入れ派」も少なからずいた。
「スキーム(独立行政法人通則法)」には反対と言ってきたので同意いただけると思うが、個々の内容に対し賛成、反対の旗色を鮮明にすることは、独法化の方向に国大協が一歩踏み込んだと見なされる。それは今取るべき態度でない」蓮実は初日の議論をこう締めくくり、「会長談話」を出すことを約束した。
その晩、蓮実は徹夜して文案を練ったという。二日目の十八日早朝、総会に先立って集められた二人の副会長らは、学士会館の別室でなおキーボードに向かう蓮実の姿を目撃した。
総会二日目も、学長たちの議論は尽きなかった。蓮実は「国立大に残ったとしても苦しいだろうし、独法化も通則法をそのまま適用したら、多くのものを失う。結論をこの場で出すのは不可能だ」と総括し、東北大学長の阿部博之(六三)が委員長を務める委員会で、高等教育や学術研究の将来に欠かせない基本要件をまとめることが決まった。
「国立大学の独立行政法人化の議論を超えて高等教育の将来像を考える」。そう題した談話で、蓮実は「設計図が不完全な場合、建築物は必然的にゆがんだものとなる」と、通則法の枠組みに大学を強引に当てはめる"無謀さ"をあらためて批判した。しかし「事態は、賛成反対を唱える以前の段階にとどまっている」として、はっきりとした態度表明は避けた。
総会後の記者会見で蓮実は「首都圏の大学と地方の大学に温度差がある。ことによったら分かれるという予感がないわけではない」と不安を漏らした。

十一月下旬、阿部は九十九の国立大学長らに、高等教育や学術研究の将来像を考える際に必要な基本条件について意見を求める文書を送った。二つ以内、一つに付き三行以内でまとめるという条件を付けた。
独法化する際の条件案を求めたわけではないが、多くの学長は、三―五年の「中期目標」を大臣が各法人に指示する―とされている点など、独法化の基本構造を問題視する意見を寄せた。
委員会はこれらの意見を集約した資料を作成した。委員には原点に返って国立大学の理想的な在り方を発信すべきだとする意見があったが、検討はここで打ち切られた。
「国大協として九七年六月に一度、(国立大の在り方について)考えを出しているが、それから変わっているわけではない。資料は蓮実会長らが有力政治家に会ったときの説明資料にしており、ほかの使い道は考えていない」(阿部)。分裂を恐れる国大協は、二〇〇〇年の幕が明けても沈黙を破れず"待ち"の姿勢を続けるだけだった。

(文中敬称略)



目次に戻る

東職ホームページに戻る