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「国立大学」が消える日 迫る独立行政法人化 (5)
資金格差 地方の不安大きく
(2000.2.16 [he-forum 616] Tokyo Shinbun 02/16)
『東京新聞』2000年2月16日付
「国立大学」が消える日 迫る独立行政法人化 (5)
資金格差 地方の不安大きく
独立行政法人についての条件案を明らかにした文部省は、一九九九(平成十一)年十月から十一月にかけて、国立大学をブロックごとに分けて説明会を開催した。トップを切って行われたのは、もっとも反対の強い九州地区だった。
十月四日、長崎大での九州地区説明会で、文部省側は、のっけから戸惑いを感じることになった。
「意見交換のスタイルで始めたら、たちまち進め方にクレームが付いて行き詰まった。普通は考えられないことだが、百近くの質問に全部答えてくれと言われた」と、説明に当たった文部省大学改革室長・杉野剛(三八)は明かす。
―独法化でなければならない理由は?
「この問題を検討しないで済むような段階ではない。定員削減の一〇―二五%という問題もあり、腹を決めないといけない」
―今より予算も増えるのか、国立大学は元気になるのか?
「おっしゃるとおりだ。これまでのように護送船団方式で(一律に)はやれないが、各大学の努力いかんにかかっている」
文部省は、この問題が高等教育政策と無関係の「定数削減」から生じたことを素直に認めた。その上で、予算面や組織の運営面などについて大学側の不安を取り除くよう説明に努めたが、結局独法化路線への理解は得られなかった。
独法化しても屋台骨が揺らぐ心配が少ない旧七帝大などの「強い大学」と異なり、それが存亡の危機につながりかねない地方大学には、強い不安がある。
最大の問題は、国から安定して得られた資金が細る可能性が強いことだ。
「予算配分が増える大学や学部もあるが、一部に多く出せば他は減る。文部省の評価とその配分が結びつけば、官僚統制が強まり、自由な学問は衰退するだろう。地元の産業基盤が小さい地方大や小規模大にとっては独法化では展望がなく、国立大のままで改革を進めるべきだ。中央だけでなく日本全体の均衡ある発展が重要だ」。独法化に反対する鹿児島大学長・田中弘允(六五)は、そう強調する。
国立学校財務センター教授の天野郁夫(六四)らが昨年まとめた調査では、そんな大学・学部間の温度差が鮮やかになった。
国立七大学の教員を対象としたこの調査で「『一部』または『すべての』国立大は設置形態を変更すべきである」と答えたのは、旧帝大の東北大が四〇・七%でトップ、最低は佐賀大の二三・七%だった。逆に「現状の形態を維持すべきだ」としたのは、佐賀大が四一・四%で一番多く、香川大と山形大(三三・一%)が続いた。最低は東北大の一八・五%で、広島大(二〇・三%)、九州大(二二・五%)がこれに次ぐ。
専門別では、人文科学系、社会科学系、教育学系に「現状維持派」が多く、医・歯・薬学系、工学系では「変更派」が多かった。
天野は「独法化が問題になる以前の調査だが、国立大の中でも旧七帝大などの研究大と地方大、文系と理系とで考え方の違いが浮かんだ。(外部資金などが得やすい)工学系などは『今より自由な方がいい』という考えなのだろう」と分析する。
鹿児島大のほか、宮崎大や富山大では、教職員の有志で募金を集め、地元の新聞に独法化に反対する意見広告を出した。「授業料や民間資金などで賄えるのは四分の一。国の資金が途絶えたら、赤字分は大学を縮小するか授業料を値上げするしかない」。宮崎大学長の二神光次(六三)は苦しい台所事情を明かす。「うちの学生の三割は奨学金をもらっている。値上げをすれば、教育の機会均等が保障できなくなる」
新制大学が発足して五十周年だった昨年、全国の大学で記念事業のための募金が行われた。大学の資金力の違いは際立っていた。「太平洋側では十億以上集めた大学もあるが、日本海側で三億を超えたところはない。まわりの企業など、バックグラウンドの違いは大きい」。北陸地方の学長の嘆きは、多くの地方大の置かれた状況の厳しさを象徴している。
(文中敬称略)
国立大の設置形態はどうあるべきか
大学名 現状を維持すべきだ 変更すべきだ の順(%)
東北大 18.5 40.7
山形大 33.1 26.1
新潟大 27.6 32.1
広島大 20.3 36.8
香川大 33.1 28.8
九州大 22.5 38.0
佐賀大 41.4 23.7
全体 24.5 35.2