独行法反対首都圏ネットワーク

改革揺らぐニュージーランド
河内洋佑氏インタビュー記事(1/22東京新聞)
(2000.1.28 [he-forum 567] Tokyo Shinbun 1/22)

『東京新聞』1月22日付

核心

改革揺らぐニュージーランド
効率優先 はびこる拝金主義
元オタゴ大学リサーチ・フェロー 河内洋佑氏に聞く

財政好転も福祉・教育切り捨て "頭脳"流出も
日本の国立大 独立法人化 十分な議論を

大胆な行革と規制緩和の成功例とされていたニュージーランドの改革が揺らいでいる。昨年十一月の総選挙では、最大野党の労働党など中道左派が、与党国民党などに勝利し、九年ぶりに政権を奪回した。市場のなすがままに任せ、より「小さな政府」の実現を目指した与党の政策に国民が突き付けた「ノー」という意思表示だ。なぜ改革路線が挫折したのか。また教育改革はどうなったのか。ニュージーランドで二十六年間暮らし、国立オタゴ大学の教員を長く務めた河内洋佑・中国科学院アドバイザーが来日したのを機に、"生活者"から見た改革の実態を聞いた。(社会部 加古陽治)

―政権の交代は、現地で歓迎されているのか。

「私の友人たちは皆、これからは良くなると喜んでいる。所得税の上限が三三%から三九%に上がることになったが、それでも教育や社会保障が良くなるならいいと言っている」

―規制緩和の成功例とされ、大勢の政治家や地方自治体が視察に訪れたほどもてはやされた改革なのに、実際に暮らしていても良さは感じなかった?

「最初は所得税が減っていいと思った。しかし、代わりに消費税(一二・五%)が導入され、各種の控除も一切なくなった。医療費が猛烈に高くなり、自費で保険に入らないといけない。結果的に中・低所得者層には増税となった。福祉サービスの低下もひどい。公立病院では手術のために二年待ち、三年待ちが普通になり、友人の一人はその間に亡くなった。知人の家族は、緊急入院したら男女同室の大部屋に押し込まれ、仕方なく民間の病院に頼んだら、現れたのは断った病院の医師で、手術の場所はその公立病院が貸し出した手術室だったという話もある」

―国の財政は一九九四年以降、歳入が上回り好転しているようだが。

「国営企業を売ったことが大きい。鉄道は米資本、航空会社はオーストラリアと日本、銀行もオーストラリア資本になった。今では主な公共サービスの多くは外国資本だ。トップの給与は大幅にアップしたが、大規模な合理化が行われ、電話会社では三分の二が失業した。治安は悪化し、警察官が大幅に増員された。郵便局が三分の一に減らされたため、地方に住んでいる人は、貯金の出し入れや送金をするにも、数十キロ離れた本局まで行かないといけない。のんびりした国民性だったが、今では拝金主義がはびこっている」

―高等教育や学術研究の分野ではどうか。

「まず研究所の改革が行われた。化学研究所や物理工学研究所は株式会社となり、金にならない基礎部門は廃止されたり、縮小されたりした。数学研究所はフィールズ賞を輩出した名門だが、採算がとれないため破産。世界的な実績のある人も含めて科学者が何人も辞めさせられ、中にはタクシーの運転手になった人もいる。若くて有能な研究者は米国や香港など海外に移った」
「大学も効率化の対象となった。前は入試がなく転校も自由にできる代わりにどんどん落第させ、約六割しか卒業できなかった。今は大学間の学生の取り合いが激しく、なかなか落とせないため、学生のレベルが低下した。文学部ではギリシャ語やラテン語のクラスが廃止された。優秀な高校生は皆、商学部を希望し、科学者になろうというものは大幅に減った。学費の高い歯学部は四分の三がマレーシア人(華僑)ら留学生になり、大学は"優良輸出奨励賞"を受賞した」

―日本でも行財政改革の流れのなかで、国立大を独立行政法人化する見通しが強まっているが。

「どこかニュージーランドに似ている。日本の戦前戦後の空白や中国の文化大革命時の空白など、教育・研究の基盤がいったん失われると、立て直すのには長い時間がかかる。独立法人化してどうなるのか、十分な議論をしないまま話が進むことを心配している」


 かわち・ようすけ 中国科学院中国鉱物資源探査研究センターアドバイザー。1997年までニュージーランド国立オタゴ大リサーチ・フェロー(教官)。26年間にわたって同国で暮らし、84年以降に同国で進められた、大胆な規制緩和を体験した。一時帰国後、国際協力事業団(JICA)の派遣で中国に渡ったが、友人のネットワークを通じて、現在も改革の行方に関心を持っている。専門は地質・鉱物学。67歳。



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