独行法反対首都圏ネットワーク

国立大学の独立行政法人化
有馬明人氏、佐和隆光氏 インタビュー(1/24信濃毎日新聞)
(2000.1.25 [he-forum 560] 信濃毎日新聞(2000.1.24) 有馬朗人氏,佐和隆光氏インタビュー)

信濃毎日新聞(2000.1.24 朝刊)

争点 論点
国立大学の独立行政法人化

 国立大学の独立行政法人化をめぐる動きが加速している。行政改革の一環として,1997年に自民党の行革推進本部や政府の行革会議で浮上。一時棚上げされていたが,99年4月に「2003年までに結論を出す」と閣議決定されると,教育,研究の水準低下を理由に法人化に反対していた文部省が方針転換した。特例措置を条件に,事実上,法人化を容認する形の省案を9月に発表した。
 大学関係者にも法人化をにらんだ動きが目立つ。97年時点では反対を表明していた国立大学協会(会長・蓮実重彦東大学長)は,基本的に立場に変わりはないものの,法人化した場合に必要な特例措置を検討。東大では「設置形態に関する検討会」(座長・青山善充副学長)が今月11日,「法人化受け入れを意味しない」としながら,文
部省案を「検討に値する」との報告書をまとめた。
 しかし,大学教員の間には,「効率重視の法人化は長期的視野が必要な教育・研究にふさわしいか」との問題提議がある。もっぱら行政スリム化の面から論議が進む危険性を指摘する声もある。信大理学部(松本市)も99年11月,法人化は「基礎科学教育,研究の崩壊につながりかねない」との声明を出した。
 文部省案をまとめた当時の文相だった有馬朗人氏(参院議員)と法人化反対を主張する京都大学経済研究所教授の佐和隆光氏に聞いた。(山口裕之記者) 

有馬 朗人さん(参院議員・全文相)
研究・教育の自由度向上

―国立大学の独立行政法人化を,文部省が事実上,容認する立場に変えたのはなぜか。

 「私は当初,高等教育や研究は国が面倒をみるべきものと考えて反対したが,国家公務員型の組織で進めればこれは守れる。さらに海外の例などを調べるうち,法人化によって,研究や教育の自由度が高まりうると考えるようになった」

 「内閣ができる限り法人化を目指す方針で,2003年までに政府としての結論を出すことになった。大学の特色に即した法人化を行うため,文部省も大学の事情に配慮した特例措置案をまとめる必要があった。法人化は,特例措置と,教育,研究の国財政負担を拡充することが大前提だ」

―特例措置が文部省案通りに決まるとは限らない。

 「総務庁などは,特例はあまり認めたくはないだろうが,通則法の下での法人化は大学になじまない。文部省,国立大学関係者が協力し努力することが必要だ。また,すぐに何かの役に立つわけでない研究,例えばサンスクリット学など,人類の英知として残す必要がある研究への最低限の費用の保証も不可欠だ」

―法人化の利点はなにか。

 「全体として研究,教育の自由度が高まる。現在のように会計法に縛られなくなるから,事情が変われば費目の変更,次年度への繰り越しなど教育,研究費の使い方がより柔軟になる。高給を出してノーベル賞級の研究者を招くこともできる。今は面倒な講座の改変も容易になる」

―議論が拙速だとの批判がある。

「大学改革は,今まで非常に慎重に行われた半面,なかなか進まないことで日本の高等教育はずいぶん損をしてきた。『時間をくれ』はいいが,それが言い逃れになってはならない。私は『じゃあ今のままでいいのか』と聞きたい」

―法人化は地方の国立大に不利との指摘がある。

 「そうは思わない。交通やインターネットも発達している。バイタリティーのある優れた研究者を集め,自主性を持って頑張るのにいい機会ではないか。ぬるま湯につかって文部省から不十分な金をもらうか,国以外にもあちこちから資金を集める活力を持ち競争に勝って行くかだ―と考えてほしい」

佐和 隆光さん(京大経済研究所教授)
貴重な学問消える恐れ

―国立大学の法人化になぜ反対なのか。

 「大学改革に関する議論の結論が法人化だったならともかく,まず法人化ありきで始まっている。文部省は行革で法人化を迫られ,初めは職員も少なく反対の声が小さい博物館や美術館の法人化を決め,今回やむなく国立大の法人化を受け入れる形になっているように思える。それも文部省によれば,国立大事務職員を国家公務員のままにし,職員の天下りの一つとして維持した。主客転倒だ」

―法人化でどんな問題が生じるのか。

 「法人化すれば,文部省が設ける評価委員会が各大学の活動内容を評価することになる。評価委には,専門研究者だけでなく官僚OBや産業界の人が入るだろう。そうすれば,こんな製品ができた,特許を取れたという『有用性』が学問評価の尺度になる可能性がある。経済的な面ですぐに役に立たないような学問は徐々に消えていくのではないか。また,効率の悪い地方国立大はつぶせ―ともなりかねず,学ぶ権利の平等性が失われる危険性がある。効率の概念を研究や教育に持ち込むべきではない」

―現実には法人化に向けた動きが加速している。

 「非常に深刻な問題だ。国家権力や金を持つ産業界が大学に土足で入り込み,研究を選別することになりかねない。産業におもねる研究者に研究費がきても体制批判の研究者には金がこない,ということもある得る。法人化は,一般の人が考える以上に大きな問題をはらんでいる」

―国立大学は今のままが望ましいのか。

 「そうは思わない。日本の大学は年功序列,権威主義が根強く,若手研究者の意気をそぐなど問題は多い。その結果,個々には一流の研究者がいても,大学・学部という組織としての学問研究で優劣を比べれば,欧米よりはるかに遅れている。今の大学は機能不全。直すところは山ほどある。だが,法人化で何が良くなるのかわからない」

 「国立のままでも改革できる部分は多い。例えば各地の国立大を都道府県に移管し,ある程度は県民の税金をつぎ込み重点学部をつくるといったやり方で大学の個性化・創意工夫を進めるなど,改革の方法はいろいろ考えられるはずだ」

【独立行政法人】
 国として必要だが,国が直接行う必要のない事業を実施する機関で,行政組織のスリム化政策の一環として取り上げられている。既に,2001年4月から国立博物館,国立公文書館などの59機関が独立行政法人として発足することが決まっている。
 独立行政法人になると,自発的,弾力的な運営が可能になる一方,目標を設定して業績評価を受けなければならない。役職員が「国家公務員型」の場合と「非公務員型」の場合がある。
 全般の在り方については通則法で▽主務省内に法人の効率化を評定するための評価委員会を設置▽主務大臣による法人の長の任命―などを定めている。
 1997年末の政府行革会議最終報告は,国立大について「早急に結論を出すべきではない」とした。しかし,国家公務員を10年間で25%削減する―との行革推進方針で,12万人を超える教職員がいる国立大の独立行政法人化が再びそ上に上った。
 文部省は法人化に当たって,大学の特殊事情への配慮を理由に,▽中期目標を主務大臣が定める際,事前に各大学からの意見聴取義務を課す▽評価委員会は「大学評価・学位授与機構」(仮称)の評価結果を踏まえる▽学長の任命は大学からの申し出に基づいて主務大臣が行う―などの特例措置を求めている。今後の政府・与党調整でどう決着するかは不透明だ。



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