独行法反対首都圏ネットワーク |
大学の独立行政法人化/仮野忠男(毎日新聞論説委員)
婦人之友2000年2月号
(2000.1.21 [he-forum 555] 婦人之友2月号ニュースの言葉)
婦人之友2000年2月号
<ニュースの言葉>大学の独立行政法人化
仮野忠男(毎日新聞論説委員)
国立大学の「独立行政法人」化の是非をめぐる論議が高まっている。大学側に反対論が根強く残っている中で、政府・与党は2000年の春までには独立行政法人化に向けた結論を出すことにしている。年明け以降、賛否をめぐって激しい論争が展開されそうだ。
政府は、2001年1月から中央省庁を現在の1府22省庁から1府12省庁に統合・再編する。それに合わせて、行政組織をスリム化(減量)するため、独立行政法人制度の導入と、国家公務員の25%削減計画を打ち出した。
このうち「独立行政法人」制度は、英国が1988年に取り入れた「エージェンシー(外庁)」制度をモデルにしている。
国がじかに運営する必要のない事務・事業を、国から分離してエージェンシーにすることにより、自律的・効率的な運営、質の高い行政サービスの提供を心がけてもらおうというものだ。英国では刑務所庁、旅券庁など132の機関がエージェンシー化され、一定の成果をあげている。
日本もこれにならい、国立病院や療養所、造幣局、博物館など計89の機関を2001年4月から順次、独立行政法人に移行させる。独立行政法人通則法、同個別法などの関係法律が国会で成立済みだ。
独立行政法人の特徴は、一口で言えば、国の機関ではあるが、民間企業に限りなく近い経営形態をとる、というものだ。
各法人は3〜5年の中期目標(企業で言えば経営計画)をたて、主管官庁による業績評価を受ける。もし目標が達成されない場合、法人のトップが任期途中で交代させられるケースも出てくる。どんな赤字を出し続けても問われることがない既存の特殊法人と大きく異なる点である。
逆に自分たちで努力した結果、経営がうまくいき、儲かった場合は、内部留保したり、職員に臨時のボーナスとして支払ったりすることができる。それだけ広い裁量権を与えることによって、従来の「お役所仕事」を一掃しようという狙いである。
国立大学について政府の「中央省庁等改革推進本部」は、早い段階から独立行政法人化の対象とする、との方針を打ち出していた。
なぜか。ここで国家公務員の25%削減計画が関係してくる。
同計画は、現在約54万8000人いる国家公務員を2010年までに25%(人数にして13万7000人)減らすというものだ(削減といっても、正確には公務員の身分のまま独立行政法人に移す、つまり総定員法の枠外に出すだけのため「数字上のトリックでしかない」という批判もある)。
その問題はさておき削減目標を達成するには国立大学の教職員(12万5000人)を減らさざるを得ない、という事情がある。
もちろん、その背景には、現在の国立大学について「改革の必要性が指摘されていながら、改革は遅々として進んでいない」といった批判や「独立行政法人になって出直したほうがいい」という主張が存在している。
これに対して大学側は「法人になれば教育・研究水準の低下、弱体化を招く」と激しく反対してきた。
こうした中で99年9月、文部省は「大学の自主性を高めて社会に対して責任を果たすには、できる限り自らの権限と責任で運営することが望ましい。個々の大学に独立した法人格を持たせることが適当だ」との見解を表明した。
この見解は「大学の業績評価は、国から独立した第三者機関が行う」など、大学の自主性を尊重するための特例措置が受け入れられれば、独立行政法人化を容認するというものである。
この特例措置を、政府の中央省庁等改革推進本部や与党側が、どこまで認めるかが今後のポイントになる。その結論が出るのは年明け後の2〜3月ごろと見られている。
国立大学が独立行政法人になった場合、どんな影響があるのだろうか。
メリットとしては、国の直轄ではなくなるため、給与支払いも弾力化され、スター教授を高額でスカウトすることもできる。これまでと同様、国からは運営交付金が出るので、これを有効に使うような意欲のある大学は活性化する可能性がある。
一方、デメリットとしては、効率性を優先するあまり哲学や文学、数学、理科などの基礎学問が国立大学から消えていくのでは、との懸念が出されている。
国立大学のありようは、日本の高等教育の将来や日本の学術・文化の進展にも関係してくる。大学関係者の中には反対するばかりでなく、独立行政法人を大学改革のテコに使用という意見もある。21世紀にふさわしい大学に“変身“していくためにも、そうした姿勢での取り組みが必要ではないだろうか。