独行法反対首都圏ネットワーク

名古屋大学医学部保健学科 声明
(1999.12.28 [he-forum 511] 国立大学の独立行政法人化を憂慮する声明/名古屋大学医学部保健学科)

名古屋大学医学部保健学科の小林です。

 私たちの学科(教官総員79名)では、先日(12月15日)の医学部保健学科代議教授会、医療技術短期大学部教授会合同会議で、国立大学の独立行政法人化に関して保健学科として意思表示することを承認し、電子メール等での議論を経て、昨日(12月27日)付けで下記を発表しました。本日、医学部長と名古屋大学総長に届けられました。

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1999年12月27日

名古屋大学総長
名古屋大学医学部長

国立大学の独立行政法人化を憂慮する声明

 名古屋大学医学部保健学科
 (看護学専攻、放射線技術科学専攻、検査技術科学専攻、理学療法学専攻、作業療法学専攻)
  拡大教官会議(専任の教授、助教授、講師、助手で構成)有志
   (学科長 猪田 邦雄)


 私たちは国立大学の独立行政法人化の動きに対し憂慮を表明します。
 本年9月に文部省が国立大学の独立法人化の受け入れを表明しました。私たちは9月27日に名大総長からの説明をうけ、これについて検討してきました。11月16日の記者会見で発表された「国立大学の独立行政法人化に反対する名古屋大学教員の共同声明」には、呼びかけから短期間であったにもかかわらず保健学科内の9割を越える教官が賛同を表明しております。

 独立行政法人化が既成事実であるかのように報じられている場面すらあります。しかし、独立行政法人化の通則法をそのまま適用することは国立大学にふさわしくないことを、文部省も認めているところです。また、それを補うための文部省案によっても、独立行政法人となった大学では、教職員は主務大臣の定めた5年の中期目標のもと、主務大臣の許可をうけた中期計画にしたがい、年度計画を定めて業務を行う必要があります。さらに主務省におかれる「評価委員会」によって定期的に業績評価されるため、短期的・効率重視の研究教育が蔓延するおそれがあります。私たちは、独立行政法人化によって大学における教育研究機能が崩壊することを憂慮せざるを得ません。特に、新しい科学である保健・健康科学の分野にとっては致命的な打撃をうけることを恐れます。下記の諸点に関し十分な議論が必要であり、性急な結論を出されることのないよう、医学部保健学科に所属する教官として、強く要望いたします。
 なお私たちは、国民の期待に応え、真に国民の評価に耐える仕事をするべく努力する決意を表明します。

1.健康科学の確立と医療人養成機関の高度化・基盤整備は国の責任です

 健康科学と医療人養成の教育研究の高度化は、日本ではようやくその緒についたところです。看護学科の新設や、医療技術短期大学部から医学部保健学科への改組(4年制大学化)が数年前から年に数校づつ行われてきており、また大学院がようやく設置され始めていますが、いずれもまだ計画途上です。また4年制や大学院ができたところでも建物・施設・人員などが十分整備されておりません。国の責任において、さらなる基盤整備をすべき状態と考えます。

2.多職種や学際的諸分野の協力を必須とする業務は経済効率による評価になじみません

 医学医療に関わる教育研究にはきわめて多職種の専門家が関わり、医療施設、教育機関、保健所等の行政機関、ボランティアを含む市民との連携、心理学・哲学や芸術も含む多面的・学際的な研究などを必要とします。これを定型的な業務として経済効率をもって評価すべきではありません。個人あるいは組織間の競争を通じて組織・業務のスリム化・効率化を図ることは医療関連の教育研究の崩壊につながり、影響が患者や学生に及ぶことが危惧されます。

3.教育研究は非定型的業務であり、また効果の評価には長期間を必要とします

 一般に教育研究活動は人間の精神活動を対象とする非定型的業務であり、これを定型的な業務として均一化することは、教育研究の自主性、独自性、創造性を損ないます。短期間単位の業績評価は速攻堅実型の時流的研究を選択させることになり、長期にわたる縦断的研究や基礎的研究を排除する恐れがあります。とくに医学医療に関わる教育・研究活動の効果は長い年月を経て初めて明らかになるものです。

4.健康科学分野における評価方法の開発は現在の課題です

 現在、科学的根拠のある医療を実現すべく多くの努力が続けられています。また、生と死、延命、遺伝子治療などのあるべき医療の確立は、21世紀の国民的課題であり、なお未解決の問題が多い状態です。特に健康科学、看護科学やリハビリテーション科学では、評価方法の開発が現時点での課題です。発達途上の科学に対して既存の業績評価法を適用することは危険です。

5.授業料の値上げは医療医学を目指す多くの若者の夢を閉ざします

 医療人を目指す多くの若者は、教育を受ける時点で経済的に恵まれているとは限らず、また、卒業後の生活を担保にこの道を目指すわけではありません。授業料をこれ以上の高額にすることは、ヒューマニズムにあふれ真にこの職業を目指す多くの若者やその家族の夢を閉ざし、入・進学をあきらめさせ、あるいは学業の継続を困難にするものです。

以上



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