独行法反対首都圏ネットワーク |
独立行政法人化問題に関して
佐原真氏(国立歴史民俗博物館)のインタビュー
(1999.12.19 [he-forum 494] ちば民報1999/12/5)
千葉大学文学部の石井正人です。
『ちば民報』1999/12/5の1・2面に独立行政法人化問題に関して佐原真氏のインタビュー記事が掲載されましたので、以下にご紹介します。
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自由な発想がおもしろい
国立歴史民俗博物館館長 佐原真さんに聞く
佐倉市にある国立歴史民俗博物館(歴博)では、多くの人に歴史の面白さにふれてもらおうと工夫を重ねています。そのあり方を大もとからこわしかねない独立行政法人化が、国立大学や歴博のような大学共同利用機関にも適用されようとしています。館長の佐原真さんにインタビューしました。
編集部
−いまやっている江戸モード展で展示されていた振袖はきれいでした。
「江戸時代の有力者や豊かな庶民の奥さん、お嫁さんの普段着や農民の着物もしめしたいんですけど、きれいなものしか残っていないんです。着付けやバーチャルコーナーもつくって、お客さんに参加していただいています。顔写真を撮って江戸時代の衣装をコンピューターで著せてしまう。今の技術ですから、本人が着ているように見えます」
「8月には、朝顔展をやりました。江戸時代には、今では見ることのできない千200種類もの朝顔を作っていたんですよ。朝顔と思えないようなものまでありますよ。そのうちの数十種類の朝顔を咲かせるというすばらしい企画でした。これは、種も配りましてね、喜ばれました。歴史というと政治・経済が重視されるけど、うちの展示は民衆の生活・文化です」
−おもしろいですね。
「国立歴史民俗博物館は、大学共同利用機関といい、歴史学・考古学・民俗学の代表や大学長・研究所の代表などが運営に責任をもっています。だから、全国の研究者の成果に基づいた展示を自由な発想でできるんです。独立行政法人化で国と直結すれば、国がしめす『中期目標』にしたがって仕事をすると、今までのような研究や展示が出来るか心配しています。後進者を育成する大学院としての役割もある。国立ではあるけれど、国の指示で研究・展示をやっているわけじゃない。その内容は、大学と同様で、自主独立の精神がありますね。こういう機関は全国17箇所で、世界的にも注目される研究を進めています」
−いちばん危惧されることは。
「『企画・立案は国がやりましょう。実行するのは独立行政法人でやりなさい』ということです。『企画・立案は頭』、『実行は手足』です。行政として、郵便局でどう郵便を合理的に配るかというときはいいでしょう。学問で頭の部分を取り上げた研究というと、ある問題を計画的に解決する
問題解決型の研究が浮かぶと思いますが、いつまでに何々やろうじゃなくて、やってるうちに、『おうっ、こんなことがあるじゃないか』という問題発見型の研究があります。実はこれが大事なんです。動物行動学の日高敏隆さんという、滋賀県立大学の学長さんが国立大学にいたときに、『今なんの研究をやっているの』と私が聞いたら、『チョウチョウの飛び方が面白い…』という。『何の役に立つのかな』と思っていたら、今、新しい町ができ、公園をつくりますね。ところが、チョウチョウが飛んでこない。なぜか、彼の研究でそれがわかる。『アゲハチョウは梢が続いているところを飛ぶ。モンシロチョウは、草地が続いたら飛んでくる』と。直ちにわれわれの生活と結びつかないようなことでも、研究者の自由な発想で、自由にやることがすごく大事なわけです」
−なるほど。
「公務員削減と言われたとき、独立行政法人化の話が出てきました。橋本内閣のときに10%、第二次小渕内閣で25%削減になった。どういう論理かわかりません。最初に数ありきです。日本の学術研究・教育が、この国際社会の中でどうあるべきか、という議論から考えているならわかるのですが」
「基本的に、歴博だけでなく大学共同利用機関の関係者は、独立行政法人化とはなじまないと思っています。文部科学大臣が『中期目標』を直接決めるには、教育・研究の内容からして、どうしても無理があると思います」
‐はい。
「ヘルマンヘッセがね、ノーベル文学賞を取ったときにね、イギリスで記事がなかな書けなかった。ところが日本じゃヘルマンヘッセの研究をやっている人は沢山いる。すぐにどんな人か言える。すごいことですよね。こういう日本の学問研究、文化を本当に大事にしないといけないと思います」
(別表)全国の大学共同利用機関
・国立民俗歴史博物館
・国文学研究資料館
・宇宙科学研究所
・国立遺伝学研究所
・統計数理研究所
・国際日本文化研究センター
・国立天文台
・岡崎国立共同研究機構
・分子科学研究所
・基礎生物学研究所
・生理学研究所
・学術情報センター
・国立民族博物館
・メディア教育開発センター
・高エネルギー加速器研究機構
・核融合科学研究所
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