独行法反対首都圏ネットワーク

「国立大の独立行政法人化」富田義典(佐賀大学経済学部教授)
(1999.12.17 [he-forum 487] 佐賀新聞12月10日付)

『佐賀新聞』
寄稿 富田義典
掲載日1999年12月10日 <自>写有
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富田義典(佐賀大学経済学部教授)

〈国立大の独立行政法人化〉

 ことし九月、国立大学の独立行政法人化が文部省により提案された。それに対して、国立大学の学長で構成する国立大学協会は反対を表明し、各大学レベルでも反対声明が相次いで出されている。
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 独立行政法人化されると、大学は文部大臣が設定した研究と教育を含む大学運営の目標を実施しなければならない。目標は五年を一つの期間とし、教員合格者数や特許数など数値で示される。運営の「効率化」も目標に入り、企業会計方式が導入される。

■大学の「改廃」も

 目標の達成度によっては大学の「改廃」もあり得る。大学の運営費用については、公財政から支出はされるが、これまでと比べれば大幅に削減され、授業料収入などを元手とした独立採算の要素が非常に濃くなる。以上の紹介からも、独立行政法人化が国立大学の在り方を根底から変えることは理解していただけると思う。特に問題となるのが、大学運営(研究教育)に効率原則を持ち込み、その達成度により各大学の運営費に傾斜をつけようとする点である。それは自在な発想と、時間を惜しまない自発的努力によって発達してきた学問的探求の歴史をみようとしないものである。「効率」が評価の主たる目安とされ、五年のスパンで評価がされるならば、短期で成果の出やすい研究や高い特許料の得られる研究に偏ってしまう恐れがある。その結果、実学とは縁遠い基礎数学、基礎物理や哲学、文学などが国立大学からスクラップされる恐れがないとはいえない。

■授業料がアップ

 それは、長期的には、高校・中学の科目配置や教育方法にも少なからず影響し、国民の教育体系全体をゆがめることにもつながりかねない。大学ごとの独立採算的要素が強まる以上、これまでの教育内容を維持しようとするなら、授業料(現在年間約四十五万円)を数段アップせざるを得ないという試算もある。影響は私立大学にも及ぶ。独立行政法人大学(国立)への公財政からの支出が格段に減少する中、私立への助成がそのままに維持されるとは考えがたく、私立大学の授業料に影響が出ることは明らかである。元来、日本の高等教育は国立大学、公立大学、私立大学、高専などがそれぞれの分担を有し、有機的に組み合わさって一つの体系をなしてきた。その骨格が崩れる恐れがある。仮に編成を変えるのならば、将来像が示されねばならないが、今のところ何のビジョンも示されていない。今日の社会は環境、教育、高齢化などの問題が深刻化し、環境倫理や加齢経済のような複数の学問領域にまたがる問題探求が必要とされる状況にある。国立大学の多くは文・理併設の総合大学だが、私立あるいは公立の総合大学が大都市圏を除けば数えるほどしかない中、総合大学である国立大学の存在意義は高まり、地方でこそ真価を発揮する時代だ。

■地域の共有財産

 佐賀大学は中規模総合大学として多様な教員を擁し、北部九州、特に佐賀県において各種の審議会、政策立案に深くかかわり、地域のシンクタンクとしての役割を果たしている。また近年は、公開講座や地域の経済・自然環境に関する研究センターの設置など、地域の要請を受けた事業内容の改革も進めている。確かにこうした地方国立大学の改革はいまだ十分ではないが、改革のための本格的な第一歩を踏み出してはいる。今回の独立行政法人化提案は、研究教育への「効率化」要請が大学に画一的な運営を強いる恐れが強く、大学を地域の共有財とすべく始まった大学の自己改革の動きと国民の期待に水をさすことにつながりかねない。



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