独行法反対首都圏ネットワーク |
藤田宙靖氏への公開質問状
(1999.12.12 [he-forum 471] 公開質問状)
藤田 宙靖 様
はじめまして。北海道大学大学院理学研究科数学専攻の辻下徹と申します。
政治情勢を熟知されている藤田様が、国立大学に独立行政法人化を受け入れることが今は最善の道だ、と説得されようとご努力されているのは<厳しい政治情勢を知らず呑気なことを言っている大学人>の将来を憂えてのこととはよく理解しております。
しかし、藤田様の議論には、経済界の人達がグローバリゼーションの国難に強い危機感を持って挙国体制を強く説き、大学ももちろんその国難に取り組むべし、と叫んでいる背景が出てきません。独立行政法人化が、経済界が主張している大学の創造的破壊を達成する実に見事な方法となっている、という点に気付かれていないのかと懸念します。
よくご存知のように、独立行政法人という制度設計の趣旨は「不安定性」にあり、文部省案のような特例法を以てしてもこの不安定性は無傷である以上、大学の独立行政法人化の主効果は大学の「創造的破壊」にあることは自明です。創造的破壊というレトリックを外せば、単に、研究者の共同体を破壊し、研究者を使い捨ての駒としてプール化し、優秀な研究者を優秀な時期だけ働かせて、研究費を無駄なく効率よく国家や企業のために使う、ということを目指していることは自明のように思います。
独立行政法人化後に研究者が置かれるこのような境遇について、政治的必然性という論点を一旦離れたとき、研究者として藤田様がどのようにお考えなのか、それをお聞きしたいのです。そのような問いが、今の情勢では無意味であったとしても、独立行政法人化が大学にとって何か良いものであると思われているのかどうか、それを知りたいのです。
また、細かい点ですが次の点についても教えてください。
(1)次のようなものは独立行政法人の性格を変えてしまう「大幅な変更」であり特例法の特例措置になり得ないのでしょうか、あるいは、特例法の範囲で可能なのでしょうか。
(1-a) 中期目標期間を10年とする
あるいは、石井紫郎氏(国際日本文化研究センター)が提案している
(1-b)「教育研究の内容に関する目標・計画・評価については、大学評価・学位授与機構の定める方式によるものを以て、通則法に定めるものに代えるものとする」を通則法の最後に付け加える。
もしも、上のような修正が「特例法」とは呼べないとする場合には、この修正を行った独立行政法人大学は、「大学法人法」と分類されるのでしょうか。
思うに、国立大学協会の第一常置委員会の中間報告で用いた特例法という言葉には、上のような大幅な変更も含めていたと理解しておりますので、もしも、そうでないとすれば、藤田様が、国立大学協会の中間報告で用いた用語の意味を変更してしまったことになるように思います。
(2)藤田様の九大との懇談会の論説では、
> とりわけ問題は、先に触れた、「法人の長の任命権」「中期目標・中期計画」「主務
> 省及び総務省におかれる評価委員会による評価」の三点にあると言えよう。
> そこで、これらの制度は、どのような意味を持つものであるのかを、独立行政法人と
> いう法制度の本来の目的との関係から、再度検討してみることとしたい。
と述べながら、総務省による評価については何も触れておられません。しかし、上で述べましたように独立行政法人の不安定性の核心は、総務省による非学術的評価の可能性と、それが、学術的評価に優先するという点にあります。なぜ、これに触れられなかったのかが理解に苦しむ点です。触れることを忘れられたのでしたら、その点について検討点をお教えください。
(3)定員削減の件ですが、これは既に大学の人達は、独立行政法人化したときに、「定員」概念はなくなるが、全体としては定員削減と同じようなことが起こることは覚悟しています。ただ、独立行政法人化後は、50%削減されるところと、20%増えるところがある、というように濃淡が出るために、それぞれの大学・部局で意味が異なってくるわけです。従いまして現状では大学人の間では、定員削減の脅威はすでに独立行政法人化への誘因としては機能しなくなっています。
また、国立大学に留まるとき、独立行政法人化するときに浮くはずの13万人の内、たとえ30%(4万人)を国立大学が負担するとしても、残りの70%(9万人)は、どの省庁が負担すると思われているのでしょうか。
以上の点につきまして、ご回答頂ければ幸いです。これは報道機関の一部にも送付しておりますので、公開質問状とお考えください。
辻下 徹
北海道大学大学院理学研究科数学専攻