独行法反対首都圏ネットワーク

下記の文は、東職傘下の理学部職員組合機関紙「理職速報」に掲載されたものです。現在、深谷先生に完成稿を依頼しており、それが届いたときは完成稿と差換えます。

独立行政法人化における労働組織・労働条件について

<<独立行政法人化問題の学習会の記録>>

講師:深谷信夫 茨城大学教授(労働法)

主催:東京大学職員組合、後援:独法化反対ネットワーク

1999年12月9日(於社会科学研究所会議室)

 12月9日夜、茨城大学の深谷信夫教授(労働法)をお招きして、「独立行政法人化における労働組織・労働条件について」と題した学習会が開かれました。非常に重要な内容と問題提起を含むものでしたので、ここにその概要を紹介します。なお、内容に関して、重要な誤りについては深谷先生からコメントを得て訂正しましたが、細部にわたっては、なお記述が不正確な部分が残っているかもしれません。その点については、近々、深谷先生御自身の手になる解説が東職のホームページに掲載される予定ですので、そちらも合わせて御覧下さい(http://www.asahi-net.or.jp/~bh5t-ssk/)。


【講演の概要】

§1.総論的問題

1.現行法と独立行政法人化

 大学の独立行政法人化(独法化)に関する議論をみていると、あたかも「独立行政法人通則法」によって大学の独法化が自動的に可能であるかのような論調が目立つ。
 しかし、『ジュリスト』1161号の山本隆司論文は、現行の教育基本法、教育公務員特例法(これらは「独立行政法人通則法」よりも上位の法律)のもとでは、通則法の描く内容で大学の独法化はできない、ということを明らかにした。この点を議論の出発点として確認しておく必要がある。この問題との関連で、教育基本法を含めての教育改革を目指すという教育改革国民会議の動向がきわめて重要となっている。

2.経営形態論の位置

 現在おこなわれている議論の中には、「国立大学は将来にわたって国立大学であらねばならない」かのように、「国立大学」という経営形態が過度に強調されすぎているものがある。この点を強調し過ぎると、「すべての私立大学も国立化せよ」と主張しなければ整合性がとれなくなり、足元をすくわれる可能性がある。圧倒的に私立大学の比重が大きい日本の現状の中で、国民にどう訴えるかを考えるべきである。“国立大学を守れ”=“守旧派”のレッテルを貼られるようなやり方ではいけない。私立大学も含めて、日本の大学組織のあり方をどうすべきかという視点での問題提起が必要だ。

3.官公労働運動の目標

 官公労働運動にとって、画一的な全面スト禁止の打破と、人勧体制の打破の二点は悲願だったはずである。その観点から独法化をどう見るか。上記の悲願を前提とするのか、しないのか。行政機関が独立行政法人化された場合、特定型には「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」(「国営企業等労働関係法」)が、非特定型には労働組合法が適用される。これは戦略的には一歩前進ではないのか。すくなくとも国家公務員法のがんじがらめの縛りからは解放される。そこでは労働組合の主体性、真価が問われる。単に独法化によって労働条件が悪化する可能性がある、という視点だけでは不充分ではないか。もちろん、労働条件を改悪させないことは重要であるが、官公労働運動の戦略から問題局面を位置づけることも必要ではないか。

§2. 大学の独立行政法人化を考える際の問題点

0.独立行政法人における労働組織について(予備説明)

 国家公務員と民間のシステムの中間に特定独立行政法人(公務員型)と非特定の独立行政法人(非公務員型)がつくられた。労使関係について見ると、特定独立行政法人には「国営企業等労働関係法」が適用される。非特定独立行政法人については、民間企業とまったく同様に労働組合法等が適用される。賃金や定員管理(解雇)の面では、特定独立行政法人の場合には、公務員ではあるが、定員法の対象からはずれる。即ち定員は法定事項ではなくなる。定員をどうするかの権限は法人の長に移る。非特定の独立行政法人については、賃金や定員管理は民間と同じ扱いである。

1.大学は特定独立行政法人になることが想定されているのか?

 現在、先行して独立行政法人化された機関のうち、「非特定」にされたのは4つだけであり、圧倒的に「特定」が多かった。しかし、大学はすべて特定独立行政法人になるという明文規定はない。我々としては、大学=「特定」を前提としないで考えておく方がよい。元々は(自由党も、あるいは民主党ですら)大学の民営化論が出発点であったことを肝に銘じるべきである。「特定」の場合、国家公務員の定員からはずれるが、身分は国家公務員であり、国からの財政的な支出に変化はない。独立行政法人となった国立大学に、将来にわたって同じ規模で国家財政が注入され続けるとは考え難い。
 独立行政法人国立大学は、学費を徴集することを前提に構想されている。先行的に法人化された59法人に類似の組織は存在しない。この面からも、国立大学の独立行政法人化のイメージを勝手に固定させて議論をすすめてはならない。

2.特定独立行政法人化の場合

 労使関係は「国営企業等労働関係法」によるとされる。賃金の関係については、国家公務員法における縛りからはずれる。したがって、給与表等は国家公務員の俸給表に準じたものであっても、実際に給与表を適用するにあたっては現行の公務員の給与関係とは異なるものが出てくる可能性がある。この点で、交渉事項として、組合の役割は増えることになる。
 
3.非特定独立行政法人化の場合

 国鉄の民営化の場合と異なるのは、JRには予算の縛りがあったために、当事者能力が限定されていた。しかし、非特定独立行政法人になった場合、少なくともその法人に予算面での決定権がないわけではなく、当事者能力は存在する。したがって、それに対応して、労働組合の機能は、はるかに広く認められることになる。

4.移行期の諸問題

 独立行政法人への移行期に関する事柄が明らかになっていないことが最大の問題である。
 職員の身分についていえば、移行期に全員が身分保障されるとは限らない。原則的には「特別の事由がない場合には身分が移行する」とされている。しかし第三者「評価機関」の判断が入り得る。職員の身分の移動に関して、国家公務員は身分保障されるというのが基本的理念であって、“生首を切る”という概念はない。そのことと、こんどは「通則法」に従う(即ち国家公務員法の身分保障からはずれる)独立行政法人に移行するということの間には、大きな矛盾がある。
 賃金に関しては、国家公務員法の適用からはずされることになる。しかし一方で、労働基準法は適用しないという国家公務員法の枠組みには縛られている。だとすれば、何を基準に賃金を決めるのか、という点が非常に問題である。
 非特定独立行政法人への移行の場合、労働条件の不利益変更に相当する。国家公務員においては労働条件の保障がなされていたわけであるから、それを一方的に切り下げる形で非特定独立行政法人へ職員の身分を移すことはできないはずである。
 特定型の独立行政法人においては、職員団体に関しては、国家公務員法における職員団体を国営企業等労働関係法における労働組合に「読み替える」という大胆な規定が設けられている。ただし、60日以内に労働委員会の認可を受ける必要があり、認可を経なければ、解散したものとする、という規定になっている。
 総じて、労働条件に関して、移行期において労働条件の不利益変更が発生しないような制度的な保障が明確にされていない。また、移行期において不利益が生じた場合、それをどのように争うことができるかも不明確である。いずれにしても、現状の労働条件がどのように保障されるのか、どのように保障させるのか、この問題が考えられなければならない。


【質疑応答から】(主なものだけ)

 Q.国家公務員は全体の奉仕者ということで身分保障があったが、独立行政法人において国家公務員法の枠からはずれるということは、仕事の性格も変更されるということか。

 A.従来の国家公務員とは別の世界になるということだ。国家公務員法のもとにおけるような身分保障はなくなる。しかしながら、特定型においては一般公務員として扱うとされているわけだから、民間のような整理解雇はできない。


 Q.(1) 国鉄民営化の時との違いは何か。清算事業団のようなものはできるのか。(2) 労働協約締結権ができるということと、依然としてスト権がないという状況との関係は?スト権がないもとで有効な労働協約締結権が行使できるのか。

 A.(1) 国鉄からJRへの移行の場合には、原則として国鉄とJRは別物であり、新規にJRを組織するということだった。大学が独立行政法人になる場合、「原則として移行する」という規定になっているのが大きな違いである。移行期においては、まず独立行政法人の長が任命され、長が設立委員を選び、法人を組織する。その過程で選別がおこなわれる可能性がある。しかし、移行期の段階では、職員は国家公務員法の適用を受けており、身分は保護される。おまえはやめなさい、ということにはならない。
 (2) 労使関係に関しては、国家公務員法とは異なり、団結権は保障される、団体交渉権も保障される、労働協約締結権も保障される。しかし、スト権のない状態での労働協約交渉というのは、最大の問題だ。


 Q.労働組合の代表性の問題について。組合が独立行政法人当局と協約を結んだ場合、それは組合員のみに適用されるのか、職員全体に適用されるのか。

 A.組合が当局と協約を結んだ場合、その協約は組合員のみに適用される。職員全体に適用しようとする場合には、(職員全体に対する)就業規則をつくり、それを適用することができる。ただし、労働協約に違反する就業規則はつくれない。労組法17条によると、3/4以上を組織した組合が結んだ労働協約は、非組合員にも適用できることになっている。ここで、3/4以上という規定が、どの部分を指すのかが問題となる。大学でいえば、大学全体の3/4なのか、部局単位の3/4なのか、等々。少なくとも全組織の3/4ではない、というのが通説である。


 Q.特定独立行政法人の職員は厳密には国家公務員ではない?

 A.厳密に国家公務員である。つまり、通則法によって二種類の国家公務員ができたことになる。条文にはどこにも書かれていないが、これは国家公務員制度の大転換である。


 Q.非特定の独立行政法人になるとした場合、すべて国家公務員でなくなるのか。多様性が生じる可能性はあるか。

 A.ひとつの大学がひとつの独立行政法人になるとは限らない、という点は指摘しておく必要がある。その場合、「特定」と「非特定」が混在する可能性もある。


 Q.定員外職員の処遇についてはどうなるか。

 A.定員外職員というのは、言葉の通り「定員外」、つまり扱いとしては国家公務員ではない。したがって、移行期に「原則移行」といったが、その適用外にある。移行時に新規に採用するかどうかを決めることになる。独立行政法人においては、定員外職員だった人が組合に加入して交渉することができる。


 Q.組合の組織率が低い場合、交渉ができなくなる可能性はあるか。

 A.当局は過半数代表者の意見を聞く義務があるという規定がある。この場合、過半数を組織している職員団体とは、かならずしも組合であるとは限らない。組合以外の組織が過半数の会員を持つ場合もあり得る。また、どの単位で過半数か、という問題も生じる。大学全体か、部局単位か。大学の場合、部局単位の可能性がある。


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