独行法反対首都圏ネットワーク

『エコノミスト』「<特集>受験シーズン目前 国立大学が潰れる」
(1999.11.22 [he-forum 389] Weekly Economist '99.11.30)

千葉大学文学部の石井正人です。

 今週号の『エコノミスト』が「<特集>受験シーズン目前 国立大学が潰れる」を組み、五本の記事を載せています。
 ・野田一夫・県立宮城大学学長が国立大学に「喝」
  「99もある国立大学がそのまま存続するはずがない」
 ・有馬朗人・前文相インタビュー
  「反対」だった私が独立行政法人化粧進に回った理由
  「今のままでも潰れるところは潰れる」
 ・国立大「合従連衡」時代が到来 首都圏国立5大学連合結成へ 黒木比呂史
 ・見せかけの公務員削減 中途半端の印象拭えない大学改革 黒木比呂史
 ・大学の独立行政法人化は「知」を死に追いやる蛮行だ 岩崎稔
(因みに岩崎・小沢共編『激震!国立大学 ― 独立行政法人化のゆくえ』の広告もp.97にあります。)

有馬氏のインタビューを、全文ご紹介します。

11/22 石井正人 vivarium@yf6.so-net.ne.jp
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週間『エコノミスト』'99.11.30 (p.72-73)

有馬朗人・前文相インタビュー
 「反対」だった私が独立行政法人化粧進に回った理由
 「今のままでも潰れるところは潰れる」

 国立大学の独立行政法人化に向けた舵取り約だった有馬氏は、1年前までは反対論だった。それが一転して賛成に回った。有馬氏は、国からお金がきちんと出て、決して民営化ではないからだという。

二つの事情変更
 ― 反対から賛成に転向≠オた理由は何か。
 有馬 一九九八年六月、橋本龍太郎前首相時代の行政改革会議で、国立大学を独立行政法人化させようという話が出た。私はヨーロッパから帰ってきたところでびっくりしてそれに反対した。しかし、九月に中間報告が出て、一二月に最終報告が出るなかで、事情が変わってきた。
 私が常々言っているのは、まず第一は、日本では、国や地方公共団体が高等教育に出すお金の少ないこと。 GDPやGNPで比較すると、ヨーロッパや米国の半分にすぎない。どうやって国の捷助を増やすかが大事だ。そこが充実すれば、私学助成全体をよくすることができるだろう。また、今の大学はすべてを教授会で決めるため、教授会やその下郡組織の負担が大きい。もう少し研究・教育に十分携われる時間を増やせるような運営体制をと、その二点だ。
 九八年六月と一二月では微妙な差があった。六月は独立行政法人は民営化への第一歩と言えるものだったが、一二月には変わってくる。すベて民営化路繚なら郵政は反対だろうということで、職員の身分を国家公務員にする「公務員型」という考え方が入ってきた。初めは「非公務員型」だったのが、公務員型が主流になる。それまでは民営化、私学化への一歩だったものが、公務員という身分を残したままで、独立行政法人化が可能になった。それは国の予算で面倒を見ようということだから、私が強烈に反対した理由の一部が薄れてくる。
 独立行政法人の公務員型が許された場合、良いことがある。例えば研究費なども、その年度のうちに無理やり使ってしまわないで、翌年に持ち越すことが楽になる。優秀な人に対しては給料をたくさんあげることができる。国の援助、公務員型を残すことを前提に置きながら、国立大学に自由度を増やすことができる利点がある。私が反対派だということはよく知られていたが、そういう事情の変化があった。

 ― 法人化で、評価を得やすいものだけに研究費が出て、基礎研究の基盤が損なわれるという声もある。
 有馬 今でもそうだ。科研責(科学研究費補助金)の審査の際には評価されている。私も副会長をしていた大学審議会では、(大学が)無評価ではだめだということで、第三者による評価機関を作ろうとしている。国立大学のままで残っても同じことなのではないか。

 ― 独立行政法人化の目的が、本当は、少子化のなかで、地方の教育学部や医学部を統合再編することなのではないかという声がある。
 有馬 全く違った解釈だろう。今だって、国立大学のままでも今の教育学部のあり方でいいのかという疑問が仲間から出ている。いずれにせよ教育学部は自己改革をしなければもたない。国立で残そうと残すまいと、今のままではダメでしょう。確かに学生の数が減ってきており、就職が非常に難しくなっているために、厳しい状況だ。今まで通りの教育学部がもつとは思っていない。独立行政法人であろうとなかろうと、それは関係ない。
 医学部は教育学部と少し違う。お医者さんの数をどのくらいに保つかという問題もあるが、特に(基礎ではなく)臨床の方は、地方でも都市でも、大学病院で患者さんの目を通して厳しく評価されている。医学部はしっかりしている。

「結局変わらない」との批判
 ― 独立行政法人の内容も変わってきたのだとは思うが、九九ある国立大学のうち、独立行政法人化によって潰れるところは出てくるのではないか。
 有馬 独立行政法人になるならないにかかわらず、それは今のままでも潰れる。それなら(潰れたくないから独立行政法人が嫌だというなら)独立行政法人反対だといって、徹底的に(国立として)残ったらいい。我々はすべて(の国立大学に)独立行政法人でやってくれなんてことは言ってない。
 むしろ一番難しい問題は、私が文部省と一緒になって随分考えて、私として最善の努力をしたものが認めてもらえるか、ということ。大学が認めるのではなくて、世間が認めてくれるだろうか。政治が認めてくれるだろうか。
 すでにあれ(独立行政法人化案)は、今までの大学とちっとも変わらないではないかという大変な批判がある。そのままで通るかどうか、これは分からない。私は通らない可能性もあると思っている。私は長い間、大学にいた人間だから、大学として一番いいものを考えたけれども、それが逆にむしろ世の中に受け入れられないかもしれない。世間が大学を見る目は、残念ながら極めて厳しい。

 ― 授業料は完全自由化の世界に入るのか。
 有馬 それはそうだ。私は授業料は安いことを望んでいるし、今までよりもっと安くするくらいの方がいいと思っている。その点の工夫はこれから必要になる。しかし安くする高くするというのは大学のメンバーの人たちの覚悟だろうし、それは皆さんが考えていることを実行すればいい。タダにしたっていい、やっていけるなら。

(聞き手 岩崎 誠 = 編集部)
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