独行法反対首都圏ネットワーク

北海道教育大学村山紀昭学長のあいさつ
(1999.11.20 [he-forum 385] 北海道教育大学学長あいさつ)

北海道教育大学村山紀昭学長のあいさつ
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試練の時代の中で ―学長就任にあたって

 8月27日に仕事を始めてから2ヵ月近くになりますが、まさに嵐のような中でのスタートでした。
 27日に文部省に出かけて挨拶回りをし、翌週明け31日には独立行政法人化に関して緊急に開かれることになった道内学長会議、そこでの生々しい話の整理もつかないうちに9月になってすぐ代議員会、続いて知事、道経連戸田会長などの表敬訪問、各分校訪問も始まり10日には岩見沢を訪れ市長と懇談、そして13日、20日に「歴史的」な国大協臨時総会と文部省招集の学長・事務局長会議・・・。息つく間もない状況はまだ続いております。
 独立行政法人化については、6月17日の全国学長会議での文部大臣発言が報道されたときに方針転換を予想してましたが、急テンポの進展はそのときの想像を超えるものでした。
 独立行政法人化は日本の国立大学始まって以来の大転換です。ここで詳しく論ずることはできませんが、その基本は、国立大学を国の直接の事業から法人として外に出すことによって、一面大学の自主性を発揮できる形をとりながら「効率性と競争」の流れの中に置くことです。
 そのために、大学は何よりもまず独立採算制ではないが「企業会計制」にもとづく「経営体」たることが求められます。同時に予算の基本的な部分が国の資金によるものであることから、厳密な「アカウンタビリティー」が不可欠とされ、5年毎の中期計画によるチェックと大々的な大学評価システムが導入されます。そしてこのような経営体としての実質をつくるために、大学の運営体制についても執行機能の強化など大幅な変化が想定されております。
 これらは、わが大学の進路と将来にも重大なハードルとなることは間違いありません。
 第1に、「定量的な」成果という効率性原理がそのまま適用されるならば、少子化のもとで困難な就職状況をかかえる教員養成大学・学部が最も厳しい条件に置かれるということです。義務教育教員の各県を単位とする地域毎の「計画養成」というこれまで自明としてきたプリンシプルが維持されるのかどうかが問われます。
 この点では、地域に密着して成果を上げてきた教員養成の存在価値とともに、教員養成こそ「定量化」になじまない、時間と手を尽くした教育作用が必要な分野だということを繰り返し主張しなければならないでしょう。遅まきながらではありますが、11教育大学長会議のもとで近くこれらの問題を検討する「専門委員会」が各大学2名の参加で発足する予定です。
 つい最近、創立50周年の準備のために50年の歴史を少し見てみました。学生規模をとっても昭和24年の970人規模のスタートからピーク時の1、910人、そして5、000人削減後の1、210人と、本学が社会の変動の中で大きく変遷したことを今の時点で改めて感慨深く感じました。効率化と自主自律の拡大の狭間で法人化がわが大学の確かな存在基盤を築くことができるのか、はたまた極度に不安定な環境に置かれることになるのか、われわれが超えるべきハードルの原理に関わる問題でしょう。
 第2に、法人化は本学に、一層直接的な難問を提起します。いうまでもなく本学特有の5分校体制の問題です。法人化が具体的制度的に分校というシステムにどんな関わりを持っているかについてはまだ不明なところが多い状態です。しかし、学生規模の量的側面からしても分校システムという制度的な面からしても、現状のままの維持は到底望めないと言わざるをません。
 5分校体制の問題は、5、000人削減のときから特別委員会等で本学の将来展望に関わる重要問題として課題になっていたのですが、法人化という状況の中でいよいよ切実性を帯びてきたと言えるでしょう。この問題については、今、将来計画特別委員会で精力的に議論を開始しつつあるところです。
 先日同窓会のある幹部の方と懇談する機会がありましたが、そのとき法人化について、「こういう状況ではもう〜分校がどうのこうのと言ってられませんね」と話していました。これはまさに今の状況下でわれわれのあるべきスタンスを表現していると感じました。つまり、今こそ全学的視点から本学の将来展望を追求するということを、飾り文句でなくやらなければならないのだと考えます。また、その解決は、他でもないわれわれ自らの決断と知性による以外にはありません。 事態はそうたくさんの時間の余裕を与えてはいないように思います。私は、法人化の動きを正確につかみながら、この半年一年のうちにわれわれ自身の構想を立てなければならないと考えています。
 しかし第3に、これらの課題がいかに緊急性と重大性を持つにせよ、どうしても欠かせない大事な論点がもう一つあると考えます。それは、分校体制や法人化という大学の「枠組」に止まらない教育研究の中身の問題です。産湯とともに赤ちゃんまで流してしまう愚を犯してはなりません。
 ここで、法人化の大きな揺れの中でも、来年度概算要求などで日本の大学の内容的な転換がかなり大規模な形で進んでいることにご注意いただきたいと思います。それは、ひとことで言えば、学部教育から大学院教育への重点のシフトです。かつ中身は、プロフェッショナルスクールなど、「高度職業人養成」へと向かっております。教員養成についても例外でなく、愛知教育大学、横浜国立大学教育学部では、「学校教育臨床専攻」が「夜間主大学院」として要求されています。
 現職再教育を軸とした教員養成大学のこのような新しい課題について、本学ではまだ方向性を確立しておりません。今年夏の岩見沢で行われた国際シンポジウムでも、カルガリ大学教育学部長が報告していましたように、こうした方向は、教員養成に関する国際的なトレンドのひとつです。教員養成の現代的な課題に内容的にどう取り組んでいくかこそ、実は最もわれわれが英知を働かせなければならない課題であるでしょう。
 まことに大きな課題を背負った時であります。その荷を背負いきれるかどうか定かではありませんが、こんないにしえの言葉がしきりに思い起こされます。
 「ここがロドスだ、ここで跳べ!」
 (平成11年11月10日『北海道教育大学学報 No.450』より)



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