独行法反対首都圏ネットワーク

信州大理学部教授会
「国立大学の独立行政法人化に対する理学部の意見」とその報道
(1999.11.12 [he-forum 345] 信州大学理学部教授会意見)

信州大学教職員組合連合会書記長代行の小林(信大理)です。

 信州大学理学部教授会は,1999年11月9日(火),「国立大学の独立行政法人化に対する理学部の意見」を決議しました。11月11日(木)に学部長および評議員が記者会見を行い,12日(金)の信濃毎日新聞,毎日新聞地域欄,読売新聞中南信面,朝日新聞地方面,市民タイムスに記事が掲載されました。声明文では「危機感」が表明されているものの「反対」の言葉はなく,場合によっては特例法容認ともとれる内容になってしまいました。声明文の文案を詰める際に種々のプレッシャーがかかり,有志の声明ではなく教授会の声明にこだわったためトーンの低い文章になってしまいました。力不足を感じています。これをきっかけに各大学の教授会レベルでの声明が出されることを期待しています。
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信濃毎日新聞(11/12朝刊)

独立行政法人化
強い危機感表明
信州大学理学部

 信大理学部(松本市)は11日,文部省が進めている国立大の独立行政法人化に対して「基礎科学教育・研究の崩壊につながりかねない」と強い危機感を示す声明を発表した。独立行政法人化問題で学部独自の声明を発表したのは,信大では理学部が初めて。信大全体では,評議会内に委員会を設けて対応を検討している。
 永井寛之理学部長が会見し,教授会の意見として声明を発表。声明文では「基礎研究の成果が実用化されるまでには長い年月を要する」とし,独立行政法人化された場合,3−5年の中期目標を定めて成果が評価されることに「『経済効率が悪い』と評価されると基礎科学の衰退にもつながる」と指摘した。
 永井学部長は「法人化に反対するということではないが,そのまま受け入れるわけにはいかない」とし,今後,同学部長が参加する信大評議会のワーキンググループの中で訴えていく方針。文部省に意見書を提出することは検討していないという。
 同学部は,研究内容がどの程度教育に生かされているか,外部の学識経験者がチェックする外部評価を導入するなど「学部内の改革は自ら進めている」(永井学部長)としている。
 同問題では国立大学理学部長会議も10日,同様の内容の声明を発表している。
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毎日新聞(11/12朝刊,長野県地域欄)

国立大学法人化「基礎科学の衰退に」
信州大学理学部長 反対声明を発表

 国が検討を進めている国立大学の独立行政法人化問題で,信州大学理学部(松本市)の永井寛之学部長は11日,同学部で記者会見し,「大学になじまない制度であり,教育研究機関である大学の特性を崩壊させる」などとする声明を発表した。
 独立行政法人は国の省庁再編の一環で,行政機関の「企画立案部門」と「実施部門」を分離して相互の効率化を図るのも。2001年4月から国立博物館など国内89の機関での実施がすでに閣議決定されており,国立大学を巡っては,文部省が9月20日,大学の自主性を尊重する特例措置を盛り込むことを条件に,法人化を実施する考えを国立大学長会議に提示している。
 会見で永井学部長は,理学部で扱う基礎科学の重要性を指摘したうえで,「効率化に主眼を置く独立行政法人化が実現すれば,営利に直結しない研究を扱う理学部は効率の悪い学部として改廃の憂き目に遭い,基礎科学という学問の衰退につながる」と話した。
 声明は今月9日に開いた同学部教授会で意見を集約したもので,永井学部長は「過去にない強い危機感を抱いている。われわれの考えを広く一般に知って欲しい」話し,今後インターネットなどを通じて声明を公開する方針。
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読売新聞(11/12朝刊,中南信面)
政府の独立行政法人化
信大理学部が反対表明

 政府が進めている国立大学の独立行政法人化について,信大理学部(永井寛之・学部長)は11日,「現在想定されているのは経済効率優先の法人化であり,基礎科学研究中心の理学部として受け入れられない」として反対を表明した。
 同大では,97年に,当時の小川秋実学長が「高度技術研究を担ってきた国立大学の基盤が崩れる恐れがある」などとして反対姿勢を示すなどしているが,理学部は「実用化まで10年以上かかる基礎科学を受け持っているため,経済効率の悪い学部として改廃の憂き目に遭う可能性がある」(永井学部長)という危機感から,9日の教授会で改めて意見を表明することを決めた。
 このほか,同大では今年9月,独立行政法人化に関するワーキンググループを評議会内に設置。各学部の代表らが法人化の影響などについて検討を進めている。
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朝日しんぶん(11/12朝刊,地方面)
独立行政法人化
信大理学部が危機感募らす

 信州大学理学部の永井寛之学部長は11日記者会見し,理学部教授会が国立大学の独立行政法人化についてまとめた意見を発表した。行政法人化は大学になじまず,基礎科学教育・研究の水準が低下するなどど危機感を募らせている。
 意見は(1)教育研究機関には効率性や経済性のみで測れない部分があり,なじまない(2)理学部は営利に直結する研究とは縁遠い。経済効率の悪い学部として改廃されれば基礎科学の水準が低下する -- などと懸念している。
 行政法人化をめぐっては,信大を含めた全国の32大学でつくる国立大学理学部長会議が基礎科学の衰退を憂慮する声明を発表している。信大では評議会がワーキンググループを設けて検討している。

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市民タイムス(11/12)

「基礎科学教育の衰退」
独立行政法人化問題 信大理学部が見解

 信州大学理学部(永井寛之学部長)は11日,国立大学の独立行政法人化問題に対して,「経済効率のみを重視した通則法では,基礎科学教育の衰退につながる」とする学部としての意見をまとめた,と発表した。同大ではすでに評議会として,独立行政法人化に反対する声明を出しているが,学部単独の意思表示はこれが初めてとなる。
 11日に記者会見で永井学部長は「現在の通則法では,短期間に成果の出ない学部などは『経済効率が悪い』と縮小される可能性もある。理学部で行っている基礎科学は,もともと営利に直結する研究とは縁遠く,実用化にも長い時間がかかる学問。それを経済効率のみで評価されると,基礎科学の衰退にもつながりかねない」と説明。「法人化自体への賛成,反対でなく,通則法を再考してほしい」と話した。
 政府は,国立大学の独立行政法人化について平成15年までに結論を出す方針。法人化されると,予算や運営に自由裁量が認められる代わりに,自発的な経営努力が求められることになる。信大は昨年11月に,大学として法人化に反対する声明を出しているほか,現在は評議員などで構成するワーキンググループがこの問題について検討を始めている。
 
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国立大学の独立行政法人化に対する意見
信州大学理学部教授会 1999年11月9日

1. 大学になじまない制度
 全国の国立大学のあり方が、今大きく変ろうとしています。政府が国立大学を独立行政法人とする方針を打ち出したためです。そもそも「独立行政法人」とは、行政機関の「企画立案部門」と「実施部門」を分離し、大量反復的な業務を効率的に行うため「実施部門」を法人化して国の機関から分離しようというもので、もとはと言えば財政赤字削減のため、公務員の数を減らす一方策として考え出されたものです。 大学は行政機関ではなく教育研究機関ですから、二つの部門は分離不可能であり、教育研究には決して効率性や経済性の追求のみでは測れないものがあります。従って、いまの「独立行政法人通則法」は、学問の自由、大学の自主性、継続的な知の蓄積といった大学の特性を踏まえたものではなく、国立大学にふさわしいものとは言えません。しかも、この数年間、各大学で多大な時間と労力をはらって点検評価し、大学改革がやっと実を結びつつある矢先に、大学内部のこれまでの改革努力の方向性を根底から覆すような「独立行政法人化」の方針が唐突に表面化してきました。

2. 基礎科学教育・研究の崩壊
 もしも国立大学が、いまの通則法のままで独立行政法人化されると、大学としての役割である教育・研究の水準は大幅に低下するでしょう。それは主に以下の3つの理由からです。

2-1 学問文化の後退
 国立大学の「独立行政法人化」は、最終的には学問、文化を支えるべき国の機能を著しく低下させます。大学は、現在の学問、文化を受け継ぎ発展させ、それを次世代に伝えていく所であり、また、現在と未来に人類がいかにあるべきかを示す責任を付託された機関です。だからこそ、理学部では目先の利潤や効率性、現時点の流行などにとらわれず、森羅万象さまざまな現象を多面的にかつ詳細に扱ってきました。私立大学がその個性的な学風を活かして、特色ある教育研究をおこなっているのと相補いながら、国立大学には、学問、文化全般を次世代に引き継ぐという使命を持っています。いまの「独立行政法人化」は、大学を実施部門と位置づけ、企画者の短期間の評価・査定に基づいて管理運営する制度であり、国民の文化を支えるという崇高な責務を全うするという大学本来の目標に全くそぐわないものと考えます。

2-2 教育の危機
 「独立行政法人化」は、教育の機会均等をこわすことになります。今や国立大学の学費も多くの国民にとって耐え難い金額になってしまいましたが、それでも相対的に低い学費で学生を受け入れています。そうした国立大学が各地方に分散して存在し大学教育を行っています。しかし、国立大学が法人化されると、経済効率の悪い大学・学部の廃止・統合などがなされる可能性が高くなります。これは、理学部で行っているような基礎科学を学生が学べなくなることにつながります。また、独立行政法人化により国立大学の格付け・種別化が進められれば、一部の大学に高い学費とひきかえに教育サービスが集中化され、低い学費の大学では満足な教育が受けられないといったことになりかねません。なおかつ、大都市の大規模大学が優遇される反面、地方では青年に対する教育機会の低下、学生層人口の流出などといった問題に直面することになると思われます。

2-3 基礎科学の重要性 
 「独立行政法人化」は、日本の基礎科学の水準を低下させることになります。全国32の国立大学に設置されている理学部の場合に即して事態を予想すれば、もともと営利に直結する研究とは縁遠いため、「経済効率」のたいへん悪い学部としてかなりの大学で改廃の憂き目にあう可能性があります。一般に、基礎研究の成果が実用化されるまでには長い年月を要することは自明のことですが、それを「経済効率が悪い」と評価されると、基礎科学の衰退にもつながります。
 1992年に行われたカーネギー大学教授職国際調査によれば,理学系における日本の大学教授の研究業績の全国平均値は主要14カ国中第1位の水準にあります。これの大きな要因として、日本では、アメリカなどの他国と異なり、地方にある小規模大学でも学生教育と結びあわせて研究を行うというスタイルが定着していることがあげられます。こうした雰囲気の中で研究の一線に触れながら教育を受けることで、学生が優れた理学的センスを培うという日本の大学のスタイルが、これまでの日本の科学技術を支える柱の一つともなっていました。また地方の小規模大学の理学部で、地域と連携して特色ある研究がなされていることにもつながってきました。しかし、「効率化」をうたう独立行政法人化では、そうしたことは許されなくなる可能性が高いのです。

3. 私たちは考えます
 大学の教育研究の伝統はひとたび壊れれば、それを再建するには幾世紀にもわたる時間を必要とします。教育制度は、国家の根幹をなすものであり、その設置形態を変革するためには長期的展望に立った議論を尽くすべきであります。私たちは、日本の大学制度、ひいては文化の質を極めて大規模に歪ませるような設置形態を、いまの通則法による独立行政法人化のように短期間に押し進めることには強い危機感を抱いています。
 私たちのこうした意見に対して国民の皆さんのご理解とご支援を賜れば幸いです。



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