独行法反対首都圏ネットワーク

『効率と公正』 丹後織物工業組合理事長 坂根 徹
(1999.11.9 [he-forum 324] 効率と公正)

織物指導所だより(京都府織物指導所)
1999.9.19 No. 310

特別寄稿
『効率と公正』 丹後織物工業組合理事長 坂根 徹

 かつてある会合で、ちりめんの輸入は「神の見えざる手」であるから、自然のなりゆきであるという発言があり、周囲の失笑を買った。この発言者は不正輸入の噂のある業者であったのである。まさか、アダム・スミスも不正行為までも認めなかったであろう。
 経済政策あるいは行財政一般にわたって、近年、効率と公正という対立軸がよく議論されている。高度の専門的なことは、素人の私にはよくわからないが、私どもの日々の活動においても、この対立軸は適度のバランスが必要とされる。
 個々の企業が効率を追求するのは当然のことであるが、このことが強調されすぎて、場違いなところにも適用されることになった。国立の博物館、美術館が独立行政法人となり、さらに国立大学も俎上に上ってきている。政治的な意図はともかく、過度の実学偏重は、日本の将来に禍根を残すかもしれない。
 政府の経済戦略会議の構成をみると、市場原理に重きをおくエコノミストが中心であり、実際、この人たちの提言が経済政策として、実施されてきている。その一方で、現実の行財政政策は、景気浮揚の名のもとの公共事業がいっこうに減らないように、あいかわらずケインズ的政策である。そしてその背景には、政治家、業界団体の存在がある。いったい政府はどちらの方向をめざしているのであろうか。
 効率を裏付けするのは、市場原理であると思われるが、市場は時々として暴力的である以上、そこには公正さが担保されなければならない。公正さとは、商行為においては、最低限のルールである。我々の業界では、この業界が古くから存在するが故に、商道徳といういい方法で、明文化されないルールが踏襲されてきた。数年前の日米貿易交渉でよく問題にされた非関税障壁の一種であろうが、公正という視点から見て、必要な商道徳は残しておくべきである。商道徳といえば、排他的なギルド的性格も思いうかべるが、商人が長年つちかってきた智恵でもある。
 自由な競争とは、公正な取引を前提として成り立つものであり、業界が縮小する過程では、業者間の競争が熾烈を極めるがゆえ、この基盤が崩れようとしがちなのが、危惧される。



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