独行法反対首都圏ネットワーク |
安易な民営化 再考を
立命館大教授 玉村 博巳さん
(1999.11.6 [he-forum316]京都新聞7月19日付)
少し古い記事ですが。
-------------------------
Kyoto Shimbun 1999.7.19
安易な民営化 再考を
立命館大教授 玉村 博巳さん
「安直に民営化論が出すぎている」と話す玉村教授
―国立大の独立法人化の話が出ています。民営化論が、かつてのJR、NTT以来、根強く続いていますが。
「民営化や規制緩和は世界的な潮流です。米国や英国で一九八〇年代から始まり今も続いているのですが、八〇年代と九〇年代ではかなり内容が違っています。欧州では八〇年代は競争分野を民営化し、九〇年代に入ると公益分野の交通や通信が対象になっています」
―欧米の民営化は成功していますか。
「一般競争分野が対象だった八〇年代は、政府に民営化による膨大な株式売却益が入り、うまく行きました。だが、九〇年代の交通、通信分野になると、国が全く責任を負わなくていいのか、と反対も出ています。欧州各国ではこの時期に、社会民主主義政権も生まれている」
―日本の場合は。
「日本は三公社の民営化を八〇年代に始め、公益事業の民営化では欧州より早かった。民営化は、公企業を民間企業にするわけで一種の規制緩和です。そして今、公企業以外のさまざまな分野の規制緩和に乗り出している。九〇年代の規制緩和の指針になったのは、九三年に出た経済改革研究会の『平岩報告』で、経済規制の原則的廃止、社会的規制を必要最低限に抑える、と打ち出しています。その路線が今も続いている」
公共で何をやるか財政難でも必要
―民営化がもたらした成果は。
「以前は、民営化が万能で、規制緩和で経済停滞も打破できる、と言われてきましたが、今は、そうした考えを見直す傾向が強くなっている。米国では規制緩和の結果、貧富差が拡大した。日本でも地方の第三セクターが行き詰まっている。今は、国、自治体はどこまで責任を持つべきなのか、と考えられています。環境など国の介入が必要な新たな領域も、出てきています」
―なぜ民営化論が盛んになったのでしょうか。
「財政状態の悪化からです。日本の財政危機は欧州よりはるかに厳しい。この危機が解消されるまで、民営化や規制緩和の話は続くと思います。しかし、赤字企業を民営化すれば赤字が解消されるわけではない。JRの場合は、不採算部門を切り離し、負債を別会社に回しただけです」
―欧米では。
「米国は元々、公企業がほとんどありませんが、公益事業の規制はやっている。欧州は戦後、計画的に経済復興するために基幹産業を国有にしたため、公益事業はすべて国有です。日本は、欧米の中間に当たるといえます。米国でなぜ、規制緩和が進んだかというと、公益企業がうまく機能しなくなったからです。公益事業の独占を認める代わりに料金を規制していたのですが、逆に言えば、企業努力を求めない方式とも言えます。経済悪化への対策として、そうした規制を一切やめました」
―民営化や規制緩和について今後、どう考えていけば。
「公益事業の性質も、時代により変わります。何を公共でやらなければならいのかを、考える必要があると思います。日本では、財政状態が悪化しているため国の支出を減らすことに目が向き、安直に民営化論が出すぎていると思います」
―教育や文化の分野にも民営化がなじむのでしょうか。
「文化振興や教育に国がどう関与するかという、国のあり方と関わってくる話です。民間でやっていても、国の予算を投入する手があります。単なる経営形態だけの話ではありません。民営化するのはいいが、経済状態が悪化した時、どうするのかという問題もある。必要なものは公的に支えなければならない。安易な民営化はいけないと思います」
------------------------------------------------------------------------
たまむら・ひろみ 1945年、大阪府出身。大阪市立大商学部卒業、同大学大学院経営学研究科単位取得。立命館大経営学部助教授を経て、同学部教授。企業論、公益企業論専攻。著書に「転換期の民営化政策」「脱日本的経営の検討」(共編著)「民営化の国際比較」(編著)などがある。
------------------------------------------------------------------------