独行法反対首都圏ネットワーク

千葉大学評議会第1小委員会
「文部省案と国大協案の比較検討」
(1999.10.24 [reform:02198] 千葉大学における文部省案と国大協案の比較検討)

 千葉大学では以下の文書を全教職員に周知するように各部局長に指示がありました。

10月24日 大学改革情報ネットワーク



国立大学の独立行政法人化問題に関する文部省案と国大協案の比較検討
(第一回討議内容)

平成11年10月15日
千葉大学評議会第1小委員会

 本小委員会は、本学評議会が設けた「独立行政法人化に関する調査研究委員会」(委員長 若桑みどり教授)の最終報告を受けたうえで、本年9月7日付け国立大学協会第1常置委員会の「国立大学と独立行政法人化問題について(中間報告)」と9月20日付け文部省の「国立大学の独立行政法人化の検討の方向(案)」(文部大臣の挨拶も含め)を比較検討するところから、独立行政人化に関する審議を開始した。(以下、それぞれ「国大協案」、「文部省案」とする。)
 本小委員会は、各部局が、上記2案を比較対照した上で、問題点として検討すべきであるとした点について、整理したうえで、個々の問題点について議論をした。
 以下にその議論の内容を項目別にまとめた。これはまだ独立行政法人問題に対して、本委員会がなんらかの意思決定をしたことを意味するものではない。なぜならば、まず文部省案にしても特例措置であるのか特例法であるのか未だ明確でなく、また、「検討する」「配慮する」という事項が多く、明瞭な姿の
ないままの討議をしなければならない状態であったからである。しかし、いま仮に独立行政法人化が避けられない場合、独立行政法人化が含む種々の問題点を指摘し、広く全学の討議に付すことが重要であると考え、ここに第1小委員会の討議内容を整理したものである。

法人について

1  法人格について
 ・文部省案は、法人格を持つことの積極的意義について強調しているが、その利点がいかに保証されるかという点については、明確ではない。文相あいさつでは国家に依存しない大学の一つのあるべき姿をうたっているが、日本の現在の社会環境では実現できる可能性は少ない。

2 「法人単位」について
 ・法人化の単位については、文部省案では、1大学1法人としている。ただし、独法化する場合のスケールメリットの観点から考えると、国大協案のようにいくつかの大学をまとめざるを得なくなる可能性もある。

3 「業務」について
 ・各大学の業務は法令で定めるのではなく、各大学の自主性に委ねることを原則とする。しかし、各大学の業務を「ある程度具体的に」法令で定めなければならないとき、文部省案・国大協案とも、各大学の業務の範囲をできるだけ広くとるとしているのはよいが、ともに範囲をどのように決めるのかが明確でない。これにより、実質上の大学の格付け、選別が行われる可能性があることも念頭に置かなければならない。
 ・法令において各大学の業務の範囲を決める際、事前に各大学との協議が必要と考えるが、この点に関して、文部省案、国大協案ともに不明確である。

4 学生定員について
 ・各大学の学生定員は各大学の自主性によって定めることが望まれる。
 ・しかし文部省案では、5年ごとの中期計画で学生の定員が変更されることが想定されている。それは5年ごとの評価の結果として位置付けられているのであり、評価の結果に基づく大学の廃止、統合、学部改廃などが行われる可能性がある。この点、国大協案では学生定員には触れられていない。

5 法人以外の形態
 ・現在の国立大学が、独立行政法人の形態をとるものや、国立大学にとどまるものや、あるいは公私立大学となるものなどに分化する形態が明確でない。

「組織」について

1 大学
 ・国大協案では、学長、評議会、運営会議、運営諮問会議等の必要な組織があげられるとともに、その機能・役割・位置関係が明確にされているが、文部省案では、機能・役割・位置関係が明確ではない。なお、文部省案・国大協案とも、学長の専決事項の範囲に関する規定がない。
 ・国大協案では、「国家の学術政策への大学側からの関与」を制度的に位置付ける必要があるとしているが、文部省案にはこれにあたる言及はない。

2 評議会
 ・文部省案では、学部・研究科等の設置・改廃は、各大学の判断を前提とするとあるが、この「大学の判断」とは、評議会の議決によるものであるか明確でない。
 ・国大協案では、法人に評議会を置き、それを最高審議機関とするとしているが、文部省案では、評議会が最高審議機関であるかどうか明確でない。  

3 運営会議・部局長会
 ・国大協案では、大学における企画立案機能と実施機能を高めるために、「運営会議」と「部局長会」を位置付けているが、文部省案ではそのような位置づけはない。
 ・文部省案・国大協案とも、「運営会議」の権限等の性格付け、委員の選出方法が明確でない。
 ・国大協案は部局長会を始めて正式に承認しているが、文部省案は部局長会について明記していない。

4 運営諮問会議・監事
 ・文部省案では、運営諮問会議は、経営的視点から充実を図るとされているが、国大協案では、運営諮問会議は、学長の求めに応じて経営・教学について助言・勧告を行うことになっている。
 ・文部省案・国大協案とも、監事の選出方法が明確でない。特に経営の担当者(副学長・監事)が、どのような候補者から、誰によって選定され任命されるのかをはっきりさせる必要がある。

5 経営と教学
 ・全体として、文部省案では、組織を考えるに際し、経営への対応を特に強調している。国大協案では、経営機能と教学機能をともに重視している。

「目標・計画」について

1 長期目標
 ・国大協案が、「個々の大学は主体的に教育研究の長期方針を設定すべきである」として、長期展望の必要性を強調しているのに対して、文部省案では、長期展望という言葉は使われているが、長期展望の重要性、それに対する大学の自主性・自律性については言及されていない。

2 中期目標
 ・国大協案は、この最も重要と考えられる中期計画については、きわめて抽象的である。(中期計画は、教育研究の長期方針を踏まえ、大学の主体性をどのように確保するのか。各法人からの事前の意見聴取・協議、自主性の尊重義務等は文部省案の特例措置で可能か。主務大臣による中期目標の指示は、各大学の長期方針をどの程度尊重できるのか。)
 ・文部省案では、主務大臣(文部科学大臣)が中期目標を定める際、各大学に対する事前の意見聴取義務を課す等の特例措置を法令に規定するとあるが、これは特例法ではない(この点については、国大協案も同じ)。また、各大学と文部科学大臣の中期目標が相容れない場合の措置についても考えておく必要
がある。
 ・文部省案では、中期目標は、教育研究の非定量的性格を考えて内容等を検討するとしているが、どのような方法でこれを行うのか明確ではない。
 ・文部省案では、文部科学大臣による中期計画の変更命令に当たっては、各大学から意見聴取するとあるが、両者の意見が相容れない場合はどうするのか。調停機関のようなものの設置が可能か。
 ・中期目標・計画を設定し、予算・人員の要求を行う点については、一見現在の概算要求方式と大差ないようにも見えるが、全く異なるものであると考える。まず、中期目標は各大学が作成するのではなく、文部科学大臣が定めるとなっており、現行の方式とは根本的に異なる。最大の相違点は、中期計画終了時点における評価の存在と、それに伴う次期中期目標・計画の設定である。すなわち、現在の概算要求方式では、要求自体は通らなくても、既存の組織等は維持される。これに対して独立行政法人化後は、評価結果によっては、要求が通らないことがあるだけではなく、既存の組織が改廃される可能性もある。

「評価等」について

1 評価機関
 ・文部省案及び国大協案ともに、大学の自己評価および第三者評価機関の評価を尊重することを強調している。
 ・しかし、国大協案ではあまりにも多くの評価機関が並存することになり、どの評価も「評価」されないということにならないか。
 ・文部省案では、総務省に設置される「審議会」の位置付けがあいまいである。

2 評価方法
 ・文部省案では、大学の教育研究活動の多様性・長期性に配慮するとあるが、それに相応しい評価基準・評価方法は、誰がどのようにして決めるのか不明である。しかし、国大協案での評価は、活動の結果だけでなく、過程も考慮に入れてなされるべきとしている点が文部省案と異なる。
 ・文部省案では、「評価委員会」は、教育研究に関わる事項については大学評価・学位授与機構の判断を「踏まえる」ことになっているが、どのように踏まえるのかは不明である。教育研究のような「姿の見えにくいもの」の評価には最大限の注意が必要である。
 ・文部省案では、評価委員会は、教育研究に関わる事項以外について(例えば社会的有用性、経済効率等)は、独断で評価することになっているようにみえる。
 ・文部省案・国大協案とも、教育に関する評価のありかたがまったく見えていない現状を考慮に入れていない。

3 評価結果
 ・文部省案では、評価を行った結果のフィードバックの方法・内容が、極めて不透明である。
 ・文部省案・国大協案とも、評価結果に対する異議申し立てが認められていない。
 ・国大協案は、評価結果は公開の原則を強調しているが、文部省案はこれについて触れていない。

「人事」について

1 学長の選出
 ・国大協案では、評議会の議による基準にのった学長の選出とされているが、文部省案では評議会による実質的な学長選挙とされていて、どのような方法が「実質的」なのか明確でない。

2 教職員
 ・文部省案では、教員人事は原則として教育公務員特例法を前提に、適用すべき範囲を検討するとあるが、極めて曖昧な表現である。「原則として」が何を意味するのか、また「適用範囲」の限定が何を意味するのか明らかではない。
 ・国大協案では、「人事の方針・基準等の設定において、学長・学部長が必要に応じて方向性を示すことができるようにする」とあるが、これが現在のやり方をいかに変えようとするのか意味が不明である。
 ・文部省案では、法人間の教員の流動性を促進するための方途を検討するとあるが、各大学の業務の規定や給与の個別的制定などによって大学間の格差が生じた場合、このような流動性を確保することが可能なのか、どのような法的整備をするのか明らかでない。
 ・文部省案で、中期計画に人員・人件費の効率化目標を記載するとあるが、これについてどのような評価が行われるのかが明確でない。独立行政法人化しても、実質的に、予算・人員は国家公務員と同じ率(以上)の削減が行われる可能性がある。

3 監事等
 ・監事等の人事については、国大協案では「大学が定める基準に従う」としているが、文部省案では明確でなく、主務大臣の任命となるように見える。

「財務」について

1 高等教育の財政基盤
 ・国大協案は、高等教育に対する財政基盤を、少なくとも先進諸国の水準に高めるべきであると明言しているが、文部省案は国立大学の教育研究業務に対する財政配分は、定性的・長期的視野から考え、安定した財源の確保が必要であると述べているにとどまっている。

2 運営交付金
 ・文部省案において、運営交付金の積算については今後工夫するとあるが、どのような工夫なのか、明確でない。実質的な大学の格付けにならないような工夫が必要である。
 ・各大学の自助努力による経営収支の向上があったとき、運営交付金はどのように変わるのか明らかでない。

3 授業料等
 ・文部省案は、授業料等の取り扱いについて今後検討するとしており、極めて曖昧である。国大協案は、授業料等については言及していない。
 ・経営の不安定化、大学間格差の拡大、授業料の値上げ等の悪影響を避ける方策を明記すべきである。特に授業料の値上げは、教育の機会均等の原則に触れるものである。

4  国立学校特別会計制度
 ・国大協案では、国立学校特別会計制度の維持が必要としているが、文部省案では不明である。また、過去の借入金の扱いをどうするのか明確でない。

5 職員定員
 ・国大協案は、定員未充足への配慮を求めているが、文部省案はこれには触れていない。

6 施設設備
 ・文部省案では、施設設備は長期借入金で賄う必要があるとしているが、現実には、銀行からの長期借入金が見込める大学とそうでない大学が現れることが考えられ、ここでも大学間の格差が拡大する可能性があり、今後も財投が利用できるようにすべきである。
 ・現在の施設設備の状態をそのまま引き継いで法人化されることは、大学間の格差を拡大することになる。

7 土地建物
 ・文部省案・国大協案とも、現行の資産維持を前提とすべきとあるが、これは現在の格差が今後も継続されることを意味する。

8 企業会計原則
 ・文部省案・国大協案ともに高等教育の性格を尊重し、教育研究の特性をふまえて企業会計原則の適用の範囲について検討する等としているが、どのように検討するか、不明確である。

9 納税義務
 ・文部省案のとおり、現行どおり原則として国・地方税とも納税義務がなく、また、寄付金については全額損金算入を維持すべきである。

10 大学の財政的自主性
 ・国大協案のとおり、財務運営面においても、文部科学大臣による中期目標・計画の設定・認可が大学の自主性を制約する要因とならないよう充分な配慮が必要である。各大学の長期計画に基づく中期計画を実現する方向で財政運用がなされるべきである。



事務連絡    
平成11年10月20日
各部局庶務担当係長 殿

総務部企画広報室長
勝股 正一

「国立大学の独立行政法人化問題に関する文部省案と国大協案の比較検討(第一回討議内容)」について

 このことについて,別添のとおり各部局長へ別途送付済みですが,教職員への周知の徹底をお願いします。
 また,千葉大学ホームページに掲載されています「学長メッセージ」でもお願いしてあるとおり,この問題については全学的な検討をお願いいたしたく,ご配慮方よろしくお願いいたします。

本件照会先:企画広報室企画係(内線2016,2017)



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