独行法反対首都圏ネットワーク

熊本大教職組
「声明:国立大学の独立行政法人化に反対する」(10/18)
(1999.10.19 [he-forum 257] 熊本大学教職員組合の声明)

reform, he-forumの皆様

熊本大学教職員組合では、10月18日声明「国立大学の独立行政法人化に反対する」を発表しましたので、その全文をお送りします。

熊大教職組書記長 井上尚夫

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声明:国立大学の独立行政法人化に反対する

1999年10月18日
 熊本大学教職員組合

 文部省は,さる9月20日の国立大学長等会議において,全国の国立大学・大学共同利用機関を独立行政法人化することを正式に認め,そのために必要な特例措置等の案を公表した。今後は,国立大学協会など関係者の意見を聴取しながら検討を進め,来年4月までに結論を得る予定であるという。これは,「大学の自主性を尊重しつつ,大学改革の一環として検討し,平成15年度までに結論を得る」(行政改革会議最終報告,1998年11月26日)という政府本来の方針を大きく転換したものである。われわれ熊本大学教職員組合は,こうした政府・文部省の方針転換に対して,以下に挙げる問題点から断固として反対し,計画の白紙撤回を要求する。

大学とは無縁な制度
 本来,独立行政法人制度は,行政組織のうち企画立案機能と実施機能の分離可能な分野――許認可や検査検定業務のような「定型的な業務を大量に行う分野」を対象とすると予定されていた(行政改革会議最終答申,1997年12月3日)。しかし,現実に独立行政法人化が決まったのは,各省庁所属の試験研究機関・博物館・美術館(2001年4月から)や国立病院・療養所(2004年から)など,定型的業務ではないものが大半であり,独立行政法人制度は本来の趣旨と異なる分野に適用されようとしている。国立大学もその例外ではない。そもそも,大学は教育研究活動において企画立案機能と実施機能を分離することが不可能な組織である。また,7月8日成立の「独立行政法人通則法」は,主務大臣による「中期目標」(3〜5年)の決定・指示と「中期計画」(3〜5年)の認可,中期計画終了時に主務省の評価委員会と総務省の審議会による評価の実施(事業の改廃を含む)などを定めているが,このような短期的な評価による効率性の追求は大学の教育研究活動には不適切である。「中期目標」・「中期計画」への主務大臣の関与については,憲法違反の恐れがある(「学問の自由」に反する)とさえ行政法の専門家から指摘されている。こうした点をふまえ,国立大学協会が9月13日の臨時総会において,通則法に基づく独立行政法人化に反対の立場を確認したのは,きわめて当然である。  

特例措置が実現する保障はない
 独立行政法人制度は大学になじまないことが明白であるのに対して,大学の特殊性は個別法に特例措置を盛り込んで対処すればよいといった考え方が一部にある。9月20日に公表された文部省の「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」も,そうした理解から「大学の自主性・自律性」を確保するための特例措置を講じている。しかし,通則法の主要部分が組織に適さないにもかかわらず,通則法を適用したうえで個別法等で特例を設けるのは,明らかに法形式の濫用である。文部省の「検討の方向」でも,法令による各大学の業務の規定,主務大臣による「中期目標」の決定・指示と「中期計画」の認可,主務省の評価委員会と総務省の審議会による評価,企業会計原則の適用など,大枠は通則法のままとなっている。したがって,大学の自主性・自律性を十分確保しうるような特例措置が実現する保障はない。
 教職員の身分についても,公務員型が構想されてはいるが,中央省庁等関連法の国会審議・附帯決議を見れば,公務員型が継続する保障はまったくない。むしろ,財界の提言や政治家たちの公約からすれば,公務員型から非公務員型を経て民営化にまで進む可能性が高い。

設置形態を変更する論拠はない
 国立大学の独立行政法人化は,けっして大学改革の観点から構想されたものではない。その契機は,国家公務員の25%定員削減計画(2001年度から10年間で10%の削減,さらに独立行政法人化によって計25%の削減)にある。9月20日の国立大学長等会議における文部大臣あいさつでも,25%定員削減に対応する点以外に,国立大学の設置形態を変更しなければならない根拠は何ら示されていない。これは,定員削減の数合わせのために国立大学を廃止するものであり,国民が求める充実した高等教育と研究のあり方を構想する姿勢とはまったくかけ離れている。
 また,同じ文部大臣あいさつは,国立大学の独立行政法人化の意義として,大学が法人格をもち自主性・自律性が拡大することを挙げている。しかし,仮に大学に法人格が付与されたとしても,独立行政法人制度の枠の中に置かれ,前述の評価制度によって財政運営の効率化が追求される以上,自主性・自律性が拡大することなどはあり得ない。現時点でも日本の大学は競争的環境の中にあり,政府・文部省の誘導・干渉の前に大学の自律性は危機に瀕している。その結果,「大学の自律性に基づく多様化・個性化」のスローガン(大学審議会答申 1998年10月26日)とは裏腹に,大学間格差が拡大し大学の種別化が進行している。国立大学の独立行政法人化は,政府・文部省に対する大学の従属を制度化し,現在のこうした動きをより急速に推し進めるものとなろう。

高等教育を受ける権利を脅かす恐れ
 国立大学の独立行政法人化は,教職員の身分の不安定化,短期的な評価に適さない基礎研究分野の軽視,大学間格差の拡大,さらには大学の統廃合,学費の高騰など,数多くの重大な問題を惹き起こすであろう。これらは,けっして杞憂ではない。政府が高等教育改革のモデルとしたイギリスやニュージーランドでは実際に起こっている事態である。なかでも深刻なのは,大学間格差の拡大や大学の統廃合,学費の高騰である。地方居住者が高等教育を受ける機会は狭まり,低所得家庭の子弟の進学は困難となる。国立大学の独立行政法人化は,「教育の機会均等の確保への貢献」(大学審議会答申 1998年10月26日)という国立大学が果してきた積極的な役割を真向から否定するものに他ならない。

 われわれ熊本大学教職員組合は,このような国立大学の独立行政法人化を大学構成員の責任として断じて認めることはできない。われわれは,日本国民・人類全体の発展に貢献できる大学の創造にひきつづき鋭意努力するとともに,独立行政法人化のもつ危険性を広く国民に訴えながら,全国の大学・学術・文化・教育・医療関係者と共同して反対運動を進めていくことを表明する。


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