独行法反対首都圏ネットワーク |
独立行政法人化「よい方向へ議論を」
西塚学長に聞く
([he-forum 180] 神戸大学学長インタビュー)
神戸大ニュースネットより
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◎【単独インタビュー】
独立行政法人化「よい方向へ議論を」
西塚学長に聞く
今年の夏から、国立大の独立行政法人化へ向けての動きが一気に加速している。今月二十日に文部省は、大学の自治を尊重する特例措置を掲げたうえで、独立行政法人化を容認する案を初めて公式に、全ての国立大の学長らに示した。昭和二十四年の新制大学開始以来の大変革ともいえる今回の動きについて、神戸大の西塚泰美学長に聞いた。(インタビューは九月二十四日午後、本部学長室で。聞き手=栃谷亜紀子記者、撮影=堀江悟カメラマン)【9月28日 神戸大NEWS NET=UNN】
▽今回の動きをどう捉えるか
国の財政問題、経済状況と絡んで出てきた問題だが、本来大学の独立法人化は、理念としては別のもので両者を一緒に論ずることは出来ないと思う。独立法人化の問題は日本の国立大学を国の機関から切り離すという非常に大きな変換であるので、あまりに性急にことを運んではならない。独立法人化の概要が最近九月二十日に文部省から提示されたばかりで、内容については不明瞭な点も少なくない。独立法人化が避けられないとすれば、その内容をよく検討し、その利点が活かせるように修正し、運用することが重要で、今議論は始まったところだと思う。法人化の具体的な内容が決定しないうちに賛否を決めることは出来ないが、大学は将来に向けて何が正しいのかを判断し、自主自立の教育、研究を行う場であるということは変わってはならないと考える。
▽神戸大学としての具体的な対応
現在の大学に問題点が多いのは確かであろう。法人化は財政問題から出てきた議論ではあるが、いずれにせよ悪い点は改めるきっかけであると捉える。今年の七月頃から学内でも、副学長や学部長、また法学部の行政専門の教官などを交えて状況を分析しながら検討を重ねている。今、大切なのはこの議論を大学にとって良い方向へ進めること。学内の意見をよく聞いた上で、法人化の原案のどういう点にどういう改良を加えればよいのか、検討を進めていきたい。
具体的には――
大学の使命は教育研究や優れた後継者の育成。これが侵されてはならない。今の独立法人化の通則法ではこの点に問題が少なくない。何よりも重要なことは、大学が人事権を保持し、大学人が評価システムを構成するということだと思う。
▽法人化した場合、国立大の財政は
日本の現状では、国の助成がなければ大学の経済基盤は非常に弱い。国の支援がなくなれば教育と研究そのものが充分にできなくなる可能性がある。教育研究は国の存立を左右する国家事業であるともいえるので、国の充分の支援が必要であり、国民の理解が得られるようにしたい。
民間に財源を求めることは――
日本にはアメリカのように、大型の財団や企業が大学に財政援助するということがない。そのような社会背景や基盤を整備し、大学の教育研究の必要性を社会が認めるような理解を得なければならない。そういう意味でも大学はこれからもっと「社会の目」を意識しなければならなくなると思う。
▽初めての転換期
そもそも大学の始まりは、中世イタリアの場合、学生がお金を出して教師を雇うという自然発生の形態だった。日本の国立大の場合は成り立ちが違ったが、現在では日本の経済状況が苦しくなり、大学の財政を支えられなくなったというのが背景にある。日本の大学はこれまで閉学したことがなかったが、これからは事情が変わると思う。アメリカでは一九六〇年から一九八〇年までの間に約百二十あまりの大学が財源がなく閉学したと聞いているし、欧州でも例えばドイツでは過去において約半数の大学が色々の事情で閉学に追い込まれたようだ。
今の日本の状況はかつての欧米の大学が幾度も経験してきたことのように思う。大学の歴史が何百年もある欧米に対し、日本はまだ百年あまり。明治以降、国と大学との関係が初めて問われる事態で非常に大きな転換期だと思う。現時点の日本でこれが正しいかどうかは歴史が判断するだろう。
▽大学の課題、問題点
日本の国立大学がこれまでのシステムに安住してきた面は否めない。一度教授になったらその地位に甘んじて「独立法人化に反対」という主張のみ通そうとしても、社会の理解は得られないし、通用しない現状にある。
努力すれば研究費を得ることができるなど、成果の多い大学や教官には財政的な支援が多く、反対に成果の少ない大学は支援が得られないということも今後は充分あり得るだろう。これには評価の方法や内容という問題が当然関係し、評価者自身も社会の目にさらされることになる。
しかし「性急に成果を出せ」といったような、プレッシャーは問題であり、また教育や研究の場に競争原理を持ち込むべきではない。大学では一人一人に自由な発想が出来ることが重要でそこに学ぶすべての人々にチャンスを与える場でありたい。