国立大学の独立行政法人化に関する申入書

1.去る9月20日、文部省は「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を提示し、従来「反対」であった態度を転換して国立大学の独立行政法人化を進めることを表明しました。有馬前文相はその時の挨拶で、独立行政法人化の特例措置を前提とした上で「自主性・自立性の拡大」や「個性化の進展」などを利点として挙げています。
 しかし、現在の国立大学制度の分析や欧米諸国に比べて著しく低い公的財政支出の増額などについてはほとんど触れず、「独立行政法人化不可避」を唱えることに終始しています。一方、現在の中央省庁等改革推進本部などの論調を見れば、文部省の言う特例措置さえ実現の保証は無いことは明白です。
 今回の独立行政法人化は、25%国家公務員削減の数合わせを直接的な理由とし、国立大学に犠牲を強い、つまるところ国立大学制度の廃止を意味するものです。そもそも国立大学は「行政法人」ではありません。この独立行政法人化が強行されるなら、通則法による効率化・減量化の要求のもと、大学はますます疲弊し、その影響は私立を含む大学全体に及び、日本の高等教育・研究は危機にさらされるでしょう。
 東京大学職員組合(以下、東職と略)は、独立行政法人化に反対する立場から、有馬前文相の「挨拶」に強く抗議し、文部省の「検討の方向」を拒否します。

2.総長は8月11日に行われた記者会見で、「現在の独立行政法人化には反対」、「東大として...知性を持って主体的に対応していきたい」と述べています。今後もこの立場を堅持され、改めて文部省案拒否の立場を声明し全学的な討論を呼びかけることを期待するものです。大学が知性を持って主体的に対応することを示す時は今であると我々は考えます。

3.現在、文部省は各地区ごとに国立大学長会議を開催し、意見を集約しています。
 関東地方でも10月下旬に行われる予定だと聞いています。しかし、現在に至っても東大当局から一般の教職員に向けては何等の説明もなく、マスコミの情報に接するだけです。東職が9月8日の申し入れた会見についても、「8月記者会見で述べた見解にかわりはない」という連絡があるのみです。一方、他の国立大学では教職員を対象とした説明会、学長との懇談も開催されています。 国立大学の存続に関わる事柄だけに、東大の全教職員に対して情報を公開し、議論を起こすことが今こそ必要ではないでしょうか。また、学外に向けても事態の緊急性・重大性を知らせ、将来の高等教育・研究のあるべき姿についての意見を求めることも、大切だと考えます。

 以上の点を鑑み、以下の4点を要望します。3.と4.については開催の可否も含め、早急にご回答頂くよう、お願いするものです。


1.東京大学総長として、引き続き国立大学の独立行政法人化には反対の態度を堅持すること。
2.文部省が開催している「地区別国立大学長会議」において、文部省案による独立行政法人化反対の態度を表明すること。
3.国立大学の独立行政法人化問題に関する東職との懇談を早急に行うこと。
4.国立大学の独立行政法人化問題に関して、その情報を開示するとともに全教職員を対象とした説明会を開催すること。

1999年10月20日
 
東京大学総長 蓮實 重彦 殿

東京大学職員組合
執行委員長 小野 擴邦