独行法反対首都圏ネットワーク

信濃毎日新聞記事と社説(9/21/99、朝刊)
(1999.9.21 [he-forum97]信濃毎日新聞記事・社説)

国立大学の法人化問題
学長に「条件闘争」の声も
文部省案どこまで―焦点
自民文教族有力議員「国立大学は全て私立に」

 文部省が二十日、大学の自治を尊重する特例措置を設けて、国立大学を独立行政法人にする案を学長らに示した。大学側の不安は根強いが、学長たちの間には「行政改革の流れの中で、条件闘争に転換せざるをえない」との声も出始めた。国立大九十九校の行く末はどうなるのか。着地点は、まだ見えない。
 「文部省案はとんでもない内容だ。法人化を前提にしている」
 「そういう言い方をしていて、世の中の理解が得られるのか。国立大に都合のいいことばかり言っていては、もはや理解してもらえない。現実的に考えるべきではないか」
 この日、文部省案が示された後で開かれた学長懇談会。文部省と歩調を合わせるように、条件闘争を認める意見が上がった。
 「もう絶対反対と言っても仕方ない。戦術を練る段階にきている」とある学長は胸の内を明かす。
 文部省幹部も「国立大学協会は委員会で法人化される場合の条件をまとめたことで、土俵の上に乗った。全体で意見がまとまらなくても、ある程度コンセンサスを得られたら法人化を決断する」と話す。
 既に焦点は、文部省案がどの程度認められるかに移った。
 十六日、有馬朗人文相が太田誠一総務庁長官と昼食を共にし、案を事前に説明した。聞き終えた太田長官が口を開いた。
 「何を特別扱いにしてもらいたいのか、柱をしっかりした方がいいんじゃないでしょうか」
 大学の特殊性を考慮した文部省案は人事、財務などあらゆる面に及ぶ。文部省は「要望がすべて認められる可能性は低い」とみて今後、項目ごとに重要度を検討する方針だ。
 教育行政に大きな影響力を持つ自民党。文教族の有力議員は「国立大学はすべて私立大にする。いきなりやると混乱するから、まず職員の身分を非公務員型にした独立行政法人にする」と強調する。
 文部省案では、職員の身分は公務員型。文教部会の幹部は十七日、事前に説明した文部省幹部に「一体、どこを改革するんだ。こんな内容では通らない」と声を張り上げた。
 二十一日の自民党総裁選後には、内閣改造が予定されている。元東大学長で大学への理解が深い有馬文相が退任する場合は、大学にとって一層厳しい情勢になる可能性もある。
 「進も地獄、とどまるも地獄ですよ」と、ある学長はつぶやいた。

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信濃毎日新聞社説 (9/21/99) 
国立大法人化 禍根を残さないために

 文部省が国立大の独立行政法人化を条件付きで受け入れる案をまとめた。法人化した場合、大学にも効率性を重視する考え方が持ち込まれる。進め方次第で高等教育にとってメリットにも、デメリットにもなり得る。禍根を残さないよう、しっかり詰めなくてはならない。
 独立行政法人は、国が直接の主体となって実施する必要のない業務を行政組織から切り離すものだ。予算の使い方などで裁量が広がる半面、コスト削減などの努力を迫られる。効率化の計画を、管轄する大臣に報告し評価を受ける。
 これを国立大にも適用しようとの論議は、行政改革の流れで出てきた。政府は二〇〇一年から十年間で国家公務員を二五%減らす方針だ。約一二万五千人の教職員を抱える国立大に手を付けないで達成は難しい。数合わせ、との批判もある。
 これまで文部省は、「教育・研究水準の低下につながる」と反対してきた。今回、法人化を受け入れる案をまとめたのは、「条件闘争」への転換といえる。
 法人化の是非は、一概には結論づけにくい。高等教育にとってプラス、マイナス両面が考えられるからだ。
 今回、文部省は大学の自主性、自立性の拡大を強調した。管理が緩み、大学が独自に学科を設けたり、予算を配分できるようになるのは、確かに悪くない。
 かねがね国立大は、改革の必要性を指摘されている。勉強しないまま安易に卒業していく学生、講義で学生を引き付ける努力の足りない教員、研究水準の低さなど課題は多い。裁量が広がって各大学が個性を発揮できれば、活性化につながる可能性はある。
 一方で、不安もぬぐえない。何より気掛かりなのは、法人化に伴う「効率重視」の発想と大学の教育・研究活動の兼ね合いだ。能率だけで測れるわけではない。すぐに成果は出なくても大事なテーマはある。長期的な視点を持ちにくくなるようだと、高等教育がゆがむ。
 文部省は法人化の前提として▽学長の任免権を実質的に大学側に認める▽効率化の中期目標を大臣が定める際、前もって大学の意見を聴くよう義務付ける ― といった特例措置を挙げた。一定の歯止めではある。ただし、政府や与党がどこまで認めるかは不透明だ。「効率」に振り回される恐れも消えはしない。
 論議の進め方には問題はないか、点検する必要がある。「これからの大学像をどう描くか」の視点から、文部省として検討を尽くしたのかどうか。そこが問われる。行政スリム化のための法人化の流れに対し、''守り''の姿勢では展望を開きにくい。
 独立行政法人に移行するとすれば、高等教育の在り方を大きく変える節目になる。国立大の存在意義をどう考えていくのか、国は私学も含めて高等教育にどうかかわるべきか、大学や教員の業績評価はどうあるべきか ― など、多角的な論議を深める機会にすべきだ。


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