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国立大学に市場原理の波
文相、法人化を表明
(1999.9.20 日本経済新聞夕刊)
有馬朗人文相は、20日、国立大を国の行政機関から分離し、独立行政法人とする方針を表明した。国家有為な人材を養成する機関として発足した国立大も、大衆化、少子化などの時代の流れにより、存在理由が揺らいでいるのも事実。しかし大学関係者は「法人化は何のための手段なのか。公務員定員削減の帳じり合わせにすぎない」と文部省の対応に官僚の「組織防衛」の思惑を感じ取り、不信感を募らせる。法人化の行く手には大学の統廃合、授業料の値上げなど厳しい市場原理の先例が待ち受けるのか-明治以来、120年あまり続いた国立大の歴史は大きな転換点を迎えた。(一面参照)
▼ 文部省に組織防衛の思惑
「効率性の追求は学問研究になじまない」。政府の中央省庁等改革推進本部の方針に抵抗し、法人化に反対してきた文部省の態度の変化は何を意味するのか。
2年前、東大医学部の有志が「病院の事務職が文部官僚の腰掛けポストとなっている」と法人化容認論を打ち出した際に、不快感を表明し、論議の鎮静化に躍起となった同省。しかし、2010年度までに公務員定数25%を削減する政府方針を機に、国立大学改革の論点が、定員削減の「手段に変化」。大学関係者の目には「文部官僚が国立大の事務職ポストを押さえる人事ローテーションの確保を目指し、条件闘争に転じた」と映っている。
蓮見重彦東大学長が「結局、行政改革は官僚の独り勝ち」と述べるのには、こうした背景がある。
▼ 大学の「信用力」に格差
有馬文相はこの日、法人化により「教職員の配置、予算執行、教員の給与などで大学の自由裁量が増す」メリットを強調したが、これを額面通り受け止める大学人は少ない。
現在、授業料や企業からの受託研究費は国立学校特別会計に計上されているが、法人化後は、企業会計原則が適用され各大学の収入となる見通し。先端の工学研究や付属病院を持つ一部の大学は確かに潤うが、人文、教員養成系大学は、民間からの外部資金は期待しにくい。地方の新設大学は現物出資される資産の評価も低く、大学の「信用力」格差は歴然としている。赤字国債の増発で危機にひんする政府財政を考えれば、国費{運営交付金}による赤字補填には限界があり、「授業料の値上げは避けられない」との見方も出ている。大学同士の合併や学部の再編が加速し「カネにならない学問は淘汰されてしまう」との悲観論も一部大学から出ている。
▼ 盛り上がらない世論
「大学の自治と叫んでも国民の理解は得られるか」。安易な単位の認定、学生の学力低下・・。18日に盛岡市で開いた全国大学高専教職員組合の集会で、「国民の批判は我々に向けられていることを認識すべきだ」との問題提起がある教官から出された。
国立大学協会がこのほどまとめた法人化の条件案も、特例措置をめぐる立法技術論に終始しており、納税者に向けたメッセージは欠落している。法人化に潜む問題点や、自己改革の姿勢をどう市民に訴えるのか。大学人の見識が問われている。