独行法反対首都圏ネットワーク

国立大の法人化 自治と自律性が守れるか
(1999.8.31 熊本日日新聞 社説)

 国立大学を国の直轄から、独立した行政法人へ衣替えすることを視野に入れた、設置形態見直しの論議が活発化してきた。文部省は、この問題を本格検討するため有馬朗人文相の私的懇談会を発足させ、国立大学協会でも内部検討が始まっている。
 国立大学の独立行政法人化については、四月に閣議決定した中央省庁改革推進大綱で、大学改革の一環として検討するため、当初予定より五年先送りして二○○三年までに結論を出すことにしていた。しかし、両者それぞれの協議が進めば、予定より早く法人化の是非についての結論が出そうだ。
 独立行政法人化は、国の行政機関のうち企画立案部門以外の現業やサービス部門などを切り離し、経営感覚を持った別個の法人とすることによって、効率性を高め、行政組織のスリム化を図るのが狙い。
 大学に競争原理が導入され、現場の裁量権も拡大されるなど法人化のメリットは理解できる。
 先の国会で成立した独立行政法人通則法によると、所管大臣が三〜五年程度を見通した中期目標を設定し、運営自体については法人の自主性や自律性を尊重する。目標の達成度については所管省に設置された評価委員会が評価を行い その結果を次の目標設定に反映させるなどとしている。
 ただ、これが大学にも適用された場合、主として効率性優先の観点から教育研究実績が評価され、業務継続の必要性や組織のあり方の見直しを迫られることにもなりかねない。
 大学関係者に法人化反対論があるのはこのためである。文部省も「教育・研究は効率性の観点になじまない」と当初は反対の姿勢であった。
 文部省が法人化の検討に踏み切ったのは、国家公務員定数を二○○一年から十年間で二五%削減するという政府方針が示され、約十二万五千人もの教職員を抱える国立大だけを聖域とするのは困難と判断したためである。
 法人化すれば定員削減の対象外となる。このまま反対を続けて二五%のカットを受け入れるよりも「傷が浅くて済む」という思惑が文部省にあったことは否定できない。
 しかし、このような「損得」が優先する、公務員削減の数合わせのための論議であってはならない。日本の大学はいまや、学生の学力低下や十八歳人口の減少など、かつてない厳しい環境にある。大学の将来が、いかにあるべきかこそ問われるべきであろう。
 国立大の独立行政法人化を進めるのであれば、少なくとも大学の自治と独立性がこれまで以上に守られなければなるまい。また、大学の運営方針は、各大学が自主的に決定すべきである。教育研究の長期方針を打ち出す自由度も確保されなければならない。
 そのためには、通則法をそのままの形で適用するには無理がある。
 例えば通則法は「法人の役員は所管大臣が任命する」とある。大学の自治を守るには、まず学内に最高意思決定機関(評議会)を設置して学長選考が実施されるべきであろう。独自の業績評価機関も設置したい。通則法を修正する立法措置が必要だ。
 国立大九十九校をすべて法人とするのか、数大学がグループ化して法人化するのかも検討課題となる。
 文部省の懇談会、国大協とも拙速な結論を避け、十分な論議を尽くすべきである。


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