独行法反対首都圏ネットワーク

緊急声明
国立大学の独立行政法人化を求める有馬文部大臣提案を拒否する

(99.9.20 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局)

 有馬文部大臣は、9月20日、国立大学学長・共同利用機関所長会議において、国立大学を通則法の下に独立行政法人化する案を提示した。この案は、通則法を個別法によって幾つか修正を加えることで、反対をかわし、2000年の早い時期に、国立大学の独法化を確定しようとするものである。この案は、9月13日の国大協臨時総会で、すこぶる曖昧な形で提唱された「特例法」ですらない。通則法がひたすら貫徹する独法化である。第1に国立大学の独法化とは、国立大学制度の廃止に他ならない。これが提起されているのに、現在の国立大学制度についての分析は何もなされておらず、廃止の結論だけが一人歩きしている。第2に大学はそもそも「行政法人」ではない。元来独立行政法人の制度設計は、行政機関の企画立案機能と実施機能を分離し、後者の主として大量反復的な業務を効率的に行うことを目的として立案された。それが全く性質の異なる大学に適用され、このシステムに無理矢理大学をはめこもうとしている。第3に、独法化は最終的に民営化への道である。効率的業務の推進の行末には大学の企業化、アカデミック・ビジネスへの転進が待ち受けている。第4に、独法化は25%定員削減のための数合わせとして大学を犠牲にするものである。行財政改革の推進によって主として意図されているのは減量化であり、財政支出の減少である。国民に対して国がどのサービスを維持し、拡大すべきかの観点は希薄である。この結果が大学の独法化である。第5に独法化が日本の高等教育の未来像にどのような影響を与えるかが示されていない。大学の理念が何ら語られていない。私たちは、大学を破滅に導く、この提案を全国の大学が拒否することを訴える。

1.有馬文相提案は歴史的欺瞞
 有馬文相は、その挨拶において、あたかも、国立大学を文部省の統制下から外し、欧米のような独立の法人格を与えることが独法化によって達成され、大学の自由度は飛躍的に拡大し、大学の創造性が花開くかのような言辞を弄した。その際「通則法下の独立行政法人制度は大学の特性を踏まえたものではなく、そのままでは国立大学にふさわしいものと言うことはできない」と、通則法を否定して見せるにもかかわらず、国立大学は「国家行政組織の一部にとどまる限り、文部大臣の広範な指揮監督権が及ぶため、その自主性・自律性と自己責任には、自ずから限界があり」、「国家行政組織の一部ではなく、自ら権利・義務の主体となって、できる限り自らの権限と責任で大学運営に当たることが望ましく、その意味で、国立大学に独立した法人格を持たせることが適当である」と、国立大学に「独立の法人格」を与えることを推奨した。その具体例として、「欧米諸国においても、国立大学や州立大学を含め大学には、独立した法人格が付与されているのが一般的」として、あたかも、独立行政法人ではない、新たな大学法人制度を創設し、文部省の統制から解放し、大学の自由な発展を進めるかの姿勢を見せたわけである。9月13日の国大協第1常置委員会の「中間報告」で言う、「独立行政法人でもなく、私立学校法による学校法人でもない特別の法人制度」やそれに類するような新たな制度を暗示しているかのように見える。もしそうであるのなら、直ちに独法化を中止し、新たな大学制度の創設のための議論を呼び掛けるのが筋と言うものである。しかし、これは全くの見せかけに過ぎず、期待を持たせつつ、実際は、国立大学を独立行政法人に落し込む提案を出したに過ぎなかった。歴史に残る欺瞞である。

2.文部省案は、「特例法」ですらなく、通則法が貫徹する
 文部省案は、どこから見ても、通則法を適用した上での、個別法或いは法令での特例規定の案に過ぎない。
 第1に、独立行政法人が「行政の一端を担い、公財政支出に支えられることに伴う国としての必要最小限の関与は避けられ」ないことを理由として、根幹に据えられたのが、1)主務大臣による中期目標の指示、中期計画の認可、2)主務省に置かれる評価委員会の評価、3)中期目標終了後の主務大臣による検討と所要の措置なのである。つまり、通則法の基本規定は見事に貫徹する。もし上のように言うのなら現行の国立大学制度も同時に「行政の一端を担い、公的財政に支えられている」が、何故独立行政法人とは異なり、そのような強い統制下に置かれていないのかを考えてみるべきである。理由は、それが大学であるからである。この一事を取ってみても、独法は大学には全く適しないことが言える。
 従って、この提案自体には、有馬文相自身の言を借りて、「通則法下の独立行政法人制度は大学の特性を踏まえたものではなく、そのままでは国立大学にふさわしいものと言うことはできない」という結論を与える以外にない。
 例えば9月13日に国大協で第1常置委員会の議論として出された、「国立大学法人法」や「大学独立行政法人特例法」といった文言は、影も形も見い出せない。通則法の基本規定を特例法で乗り越えるものでもないのである。
 従って、文部省案は、結局のところ、「ジュリスト」(99年6月1日)で提起された「藤田論文」路線の焼き直しである。個別法或いは法令での特例規定でお茶を濁そうとしながら、通則法の基本規定は変わらない。これでは、大学は学問研究と教育の府として生き続けることはできない。
 個別法での特例規定について、検討事項として挙げられているものについて具体例を示そう。例えば、中期目標を主務大臣が作成する際に、事前に大学の意見を聞く、大臣が中期計画の変更命令を出す場合は、事前に大学から意見聴取するとなっている。また、文部省が来年度に設置しようとしている「大学評価・学位授与機構」が、教育研究に関わることは判断し、大臣の中期目標の設定、中期計画の認可、毎年度及び中期目標期間終了後の評価、中期目標期間終了後の大臣による検討と措置の際には、評価委員会は、それを踏まえて意見表明、評価するとなっている。さらに第三に、学長の任免を大学の申し出に基づき大臣が行うという。
 一つ目は当然のことである。しかし、主務大臣が中期目標を指示し中期計画を認可する主体であることに変化はない。二つ目については後述する。三つ目は一定の譲歩があるが、これによって現行の各大学の学長選考方法が保障されるわけではない。
 教員人事は、「原則として教育公務員特例法を前提に、適用すべき範囲を検討する」となっており、全面適用でさえない。また、教育公務員特例法そのものが存続するのかどうかも定かでない。学長選考に関しても、「評議会により実質的な学長選考が行われるよう、検討する」のであって、教育公務員特例法が全面的に適用されることを約束してはいないのである。これは従来の選考形態が実質的に変わることを明示している。
 憲法に定める学問の自由とそれに基づく大学の自治は、教育公務員特例法による教員の身分保障を実定法上に規定することで担保されている。この制度の存続と全面的適用は大学が大学であるための不可欠の条件なのである。
 今回の「検討の方向」に即する限り、通則法が全面的に適用され、実質的に大学自治の原理はほとんど破棄される。大臣による違法行為の是正措置、立ち入り検査、など、大学への文部科学省の強い統制権限は、通則法通りである。

3.評価システムと財政措置によって、大学は文部科学省の極めて強い統制下に置かれる
 結局、大学は文部科学省の完全な統制下に置かれる。従来、事務職員組織の人事権が、最初は本部事務局の幹部人事から始まって、今や一般職員の人事異動まで、事実上文部省人事として扱われるようになってしまったが、それに加えて、概算要求時の隠微な誘導により、大学内の意志に反する政策的な組織変更などが推進されていた。独法化によって、ついには、教育と研究にも、その統制は及ぶことになる。中期目標・中期計画の設定、認可という事前統制に加えて、事後の二重、三重の評価システムとそれに連動した財政措置がこれを可能にする。これらの権限は、実際は文部科学省が持つ。「大学評価・学位授与機構」自体が、大学審答申によって創設されようとしており、いかなる意味でも「第三者機関」ではないし、この機構自体が独法化されるから、一層文部科学省に従属した機関になる。この機関による評価によって、研究教育の内容が決められ、その評価によって、資金の配分が決まり、或いは、大学の改廃さえもが決められるようになる。更に総務省の評価委員会としての「審議会」の意見表明、事業の改廃に関する主務大臣への勧告が加わる。このことは文部省提案では明示されていないが、重大な問題である。
 実際、既に2000年度の概算要求で、大学の研究教育の基礎的経常経費の制度である積算校費制度が改悪され、従来の単価基準を、例えば、教官当積算校費については、「修士講座・非実験」に単一化して揃えるなどの措置が取られようとしている。この結果、自然科学系の研究室が受け取る基礎的経費は、従来の額のほぼ5分の1に激減する。光熱水料さえ支払うのに困難な状況が現出しよう。ところが、この措置で、巨額な金が浮くわけで、これを文部省は「大学(高専)分」として、彼らの裁量で配分できるようになる。これが、有馬文相が言うところの「教育研究に対する適正な評価に基づく競争的資金」として、評価に基づき配分される。飢餓状態の下での競争が強いられることになる。そこには、凡そ自由な研究と教育の環境は存在しない。そもそも独立行政法人に政府から交付される運営交付金自体が、このような「競争的資金」を推奨するシステムの下では、競争的資金そのものであり、各大学は、この取得のために熾烈な競争に走らざるを得ない。こうして、大学は文部科学省の統制下に置かれ、互いに資金獲得のために競争するようになり、ついには、アカデミック・コミュニティーから企業的経営体に変容する。むしろこの変容を促進するために評価システムは機能しよう。

4.大学の自律性が失われる
 有馬文相は、独法化によって大学の自主性・自律性が拡大することをメリットとして挙げている。国からの運営交付金の使途の弾力化などが、ある種のメリットであるとしても、本質的な大学機能の喪失と取り替えていいことでは到底ない。全く次元のちがうことである。その上、大学内での上からの管理は、「学長のリーダーシップ」の名目で強化される。複数の副学長、事務局長も入る運営会議など、管理強化は、大学審答申の路線をなぞって行われる。「個性化の進展」ということで、大学が、教育重視の大学、研究重視の大学と類型化される。元々、独法化した場合に各大学が受け継ぐ、土地建物、その他資産は、旧7帝大を頂点に、大学間格差が極めて大きく、「経営的」観点から見ても、直ちに大きな問題を生じよう。その場合には、その条件によって、類型化が進められ、大学の統合と再編、廃止などの措置も進む。これが、「自己責任と自律性」の名で求められるわけである。独法化によって、大学の内的自律性の喪失は進む。上からの目標、計画、評価、資源配分が、それを強制する。
 とりわけ、評価システムが大学の外と上から実施されることが大学の内的自律性に与える打撃は大きい。大学は教員個人の知的探求への内的衝動を基礎にして本質的には,維持されている。外的評価によって賃金や研究費が増えることが主要な動機となって研究と教育が進めらてはいない。独法化は大学を内面において破壊する。

5.25%定員削減政策の数合わせで国立大学制度を廃止すべきではない
 国立大学の独法化は、25%定員削減政策の強行によって、強制されている。
 有馬文相は、「本来、独立行政法人化の問題は、「大学改革の一環として検討」するものであり、これを実現すべき大学の設置形態としてふさわしいかどうかという観点から検討すべきであり、国家公務員の定員削減問題とは、切り離して検討を進める必要があると考えております」とこれを認めつつ、「しかしながら、」と言って、独法化を進めている。
 しかし、25%定員削減政策は、国立大学制度の廃止の理由たり得るだろうか?それが国立大学制度の廃止をもたらすことに優先することではあり得ない。国立大学制度を廃止して、「独立行政法人」型の大学制度を創設するとすれば、それは明治以来の大学制度の根本的変革を図ることになる。その結果として、公立大学、私立大学も含む日本の大学制度も変わらざるを得ない。その際日本の大学制度をどのようなシステムにしようと考えているのか、全体構想の検討の提起さえない。仮に、有馬文相の言うごとく、国立大学を、文部省の統制下から解放し、「欧米の大学のように、独立した法人格を持つ大学にするべきだ」とするのなら、国立大学制度をもっと自由で、創造的な場にするための検討をこれから深める時ではないか。明治以来100有余年にわたって形成されてきた歴史的な財産である国立大学制度を定員削減の犠牲にする愚はやめねばならない。

6.公的財政の充実は語られていない
 定員削減の背後には、国家の財政状態の問題がある。そうだとすると議論は一層真剣でなければならない。有馬文相自身、大学の充実が「大学に対する十分な公的資金の投入があって始めて可能」と言い、「我が国の高等教育・学術への投資が欧米諸国に比して著しく低い状況にある」(欧米諸国の2分の1から3分の1程度)という年来の見解を述べ、「国が果たすべき役割には大きなものがあると考えている」と言いながら、公的財政支出の増大策については、何ら具体的に語っていない。「公的資金の充実」一般や、「欧米の一部の大学の巨額の基金」の例、「教育研究の適正な評価に基づく競争的資金の充実」を説くだけである。国立学校会計制度の存続についての言及もない。
 そもそも、大学における学問研究と高等教育は、社会の基礎をなす人間の文化的営みであり、それなくして文明化された社会は継続的に存在することはできない。これらの文化的施設と事業を維持し、発展させるには、社会がこれへの相当な額の財政的支援をせずには、不可能である。ところが、独法化は、究極的には、国家の財政的支持の撤退を意図しており、これを単純に推し進めれば、大学は死滅することになる。大学への公的財政支出の問題は極めて重要な事柄と言わねばならない、これへの明確な回答を有馬文相はなすべきである。

 私たちには、大学の存立に関わる根底的な問いが突きつけられている。沸騰する議論を今必要としている。文部省提案を拒否することが、その出発点である。

独立行政法人化反対首都圏ネットワーク事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷7−3−1
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