独行法反対首都圏ネットワーク

社説 国研を国家的視点で再編せよ
(1999.8.23 読売新聞)

 国立試験研究機関(国研)の独立行政法人への準備が進んでいる。国研の再編・統合は、二十一世紀の日本の科学技術の研究基盤を強固にするものだ。
 ところが独立行政法人化への過程は、各省庁ばらばらに検討されており、外部にはまったく伝わってこない。国研は、大学や特殊法人の研究テーマとも密接にかかわっている部分が多く、一つの省庁、一つの国研だけの問題ではないはずだ。
 だが、このまま進めば個別省庁の枠から一歩も出ない改革になってしまい、単に看板の掛け替えに終わる恐れが大きい。
 独立行政法人が目指すのは、業務の適切な運用で効率をあげることである。国研職員の身分は国家公務員だが、役員の公募や任期途中の交代もできるし、給与は業績に応じて反映させることができる。予算の流用・繰り越しや積み立ても認め、会計は企業と同じ会計原則とする。
 さらに、三年から五年の中期目標を設けて事業を実施し、研究評価システムの導入と情報公開を義務付けている。事業の継続の必要性や民営化の可否についても、不断の見直しをしなければならない。
 効率化への運営は、法律が施行されれば曲がりなりにも実行されていくだろう。間題は、国研の統合・再編が行われず旧研究体制がそのまま残ることだ。
 これまでの国研は各省庁に付属し、省庁別の行政目的に応じて研究するのが役割だった。だが研究が発展するにつれ、行政目的の範囲を超える場合もある。それを行政規定で縛れば、研究の自由度は失われ新しい発見や成果にも結び付かなくなる。
 近年の研究テーマは多岐に広がり、個別の省庁の枠内では収まらない研究内容が多くなっている。バイオテクノロジーの研究が、科学技術庁、農水省、厚生省など五省庁にまたがることを見れば明らかだ。基礎と応用研究の境界があいまいになり、基礎から実用に移る時間も短縮されてきた。
 こうした状況を見れは、国研だけでなく既存の特殊法人なども視野に入れながら、研究分野別に省庁の枠を超えた再編・統合をしなければならない。その趣旨は、昨年夏に出された科学技術会議政策委員会の提言にも盛り込まれていた。
 ところが、省庁枠内だけの護送船団方式で法人化へ向かっている省もあるなど、国家百年の計の視点がどこにも見えない。
 たとえば通産省工業技術院では、十五の国研を一つの独立行政法人にまとめる案をすでに作成している。農水省も傘下二十九の国研を、いくっかのグループごとの独立行政法人にまとめる構想を具体的に検討しているが、外部との情報交換はない。
 本来なら、国研を抱えている省庁が集まり、あるべき研究機関の構築について英知を結集するべきだが、そぅした機運はまったく出てこない。科学技術会議にも調整機能がないのは明らかだ。
 政府・行政機関に当事者能力がなければ頼みは政治の場しかない。政治家は、国研再編にもっと目を向け、研究機関の改革に積極的な取り組みを見せてもらいたい。


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