緊急声明

国立大学附置研究所・センター長会議
平成21年11月26日

行政刷新会議によって行われている平成22年度概算要求事業仕分けに関しては、各方面から既に様々な意見表明がなされていますが、私たち国立大学附置研究所・センター長会議は次のように意見表明をいたします。

事業仕分け自体は、積年の予算編成の硬直性を是正し、予算の仕組みを公開の場で討論し、メディアを通じて国民の前に開示するという画期的な手法として高く評価できる側面もあります。しかしながら、学術研究や高等教育のような国家百年の基盤に関わる予算を、節約や効率性という観点だけで切り捨てるようなことがあれば、大きな禍根を将来に残すことになるのは明らかです。しっかりとしたグランドプランに基づいた議論が必要です。資源もなく、国土が狭く人口の多い我が国の将来は、科学技術の優位性を維持し「知的創造立国」できるかどうかにかかっているということは広く国民的コンセンサスになっているところです。国立大学法人は効率の向上に努めていますが、我が国の科学技術予算及び高等教育予算の対GDP比は先進国の中でも最低のランクにあり、決して潤沢な予算が組まれているわけではありません。

国立大学の附置研究所およびセンターは、大学の中で主として「知の創造」を担う機関として設置されており、学部・研究科とともに我が国の学術の発展に大きく貢献してきました。大学の中で高等教育の一環を担いつつ、学術研究人材を最先端の研究現場を通じてじっくり育成するという独自の役割を担い、我が国の学術の多様性や深み厚み広がりを支える人材を輩出してきたと自負しております。もし、大学の研究・教育活動が今回の仕分けによって万が一大きく制約を受けるようなことになれば、日本の将来の国際競争力を支える研究開発力や人材育成に支障を来し、欧米のみならず、科学技術や人材の育成に格段の力を入れ近年目覚ましい成果をみせている近隣諸国にも大きく後れを取ることになると危惧します。国立大学法人に措置される運営経費は、「知的創造立国」の基盤を維持するための投資であり、短期的な経済効率だけから判断して削減することがどのような結果を招くか慎重に考慮する必要があります。我が国の将来に希望をつなぐ、賢明な学術政策の推進を願うものです。

1.運営費交付金について

運営費交付金については見直しという判定がなされました。国立大学法人化後、大学の運営の効率化のために様々な努力が積み重ねられ、現在でも継続的な改革改善がなされているところですが、国立大学法人化後の運営費交付金マイナスシーリングの中で、学術研究の継承発展や人材育成への支障が顕在化しつつあります。ぜひとも各大学における改革への自助努力を支援し、国立大学であるからこそなしうる多様な研究教育活動を発展させる方向での見直しを願うものです。法人化後、法人間の競争が強調されるあまり,法人の枠を越えた共同研究活動を担保する仕組みに関する議論が後回しになった感があります。これを是正し、国公私立大学を問わず、特化した分野において先端的な研究活動を行っている研究所・センターを広く全国に開かれた共同利用・共同研究拠点として認定することによって、我が国の学術研究の推進にリーダーシップを発揮できる新制度が導入されました。これは大変革であり、うまく運用することによって、先端的研究の画期的な発展が実現できます。しかしながら、その新制度の趣旨の裏付けとなる十分な予算措置は実現しておらず、まさに「仏作って魂入れず」となるおそれなしといえません。これは一例ですが、もし運営費交付金の見直しが行われるのであれば、このような改革に支援の手が届くような見直しが行われることを願っています。

2.特別教育研究経費について

事業仕分けにおいて、運営費交付金の中で特別教育研究経費については縮減と判定されました。一部には、科学研究費補助金や他の競争的プロジェクト研究経費と重複があるのではないかという誤解があるようです。特別教育研究経費は、新たな研究ニーズに機動的に対応し、各大学等の個性に応じた教育研究基盤を充実させるための基盤的経費であり、個々の研究者や研究グループの研究に対して交付される競争的研究資金とは全く性格を異にするものです。我が国の将来を支える学術研究を進めるためには、新たな教育研究ニーズに対応し、各国立大学等の個性に応じた意欲的な取組みを重点的に推進することが不可欠です。とりわけ、特別教育研究経費により大規模基礎研究の推進や新たな研究分野・領域への挑戦など各国立大学法人における学術研究を進めることは、喫緊の財政的危機や、環境に対する脅威を取り除き、次世代の社会をより安全で豊かなものにするためにも重要です。特別教育研究経費は、多様で深みのある学術研究・人材育成にとっての不可欠な基盤的経費であり、その縮減は大きな活動の制約につながります。

3.人材育成について

研究は人材に尽きると言って過言ではありません。国内外問わず、世界中から優秀な研究者を集めることが、我が国への知識・知力集積をもたらし、大きな研究成果を生み、そのことがさらに我が国の求心力を高め、さらに優秀な人材を引き寄せ多様な人材を育てていくという好循環を生みます。今回の仕分けでは、若手研究育成事業については縮減とされました。予算制約が強まっていくなかで国立大学法人は、人材育成への投資だけは減らないよう様々な努力を積み重ねてきました。明治期以来の日本の近代化の成功という歴史の教訓に反して、高度な専門知識と知力をもった多様な人材の育成をおろそかにすることは、我が国の将来に重大な結果をもたらします。にもかかわらず、人材育成に関して、他の項目と同列に縮減の判定が下ったのは残念でなりません。長期的な視野での政策推進を願うものです。