平成21年12月9日

〜 国家百年の計における国立大学再生を 〜
(共 同 声 明)

中国地区国立大学長会議

鳥取大学長 能 勢  隆 之
島根大学長 山 本  廣 基
岡山大学長 千 葉  喬 三
広島大学長 浅 原  利 正
山口大学長 丸 本  卓 哉

財政状況が厳しい我が国において,平成22年度予算の編成に向けて,新たな手法である行政刷新会議による「事業仕分け」は,国民に対して透明性を高めるという観点から意義のあるプロセスであると認識しております。

しかしながら,行政刷新会議ワーキンググループの事業仕分け評価結果では,大学関係の基盤的経費,学術・科学技術振興予算など高等教育機関としての大学が果たすべき役割・機能が衰退するような根幹に係る予算の削減や見直し等が提案されております。今回の事業仕分けについては,当面する予算削減の視点と即効性の観点から議論され,また,国立大学への事実誤認もあります。地方において未来社会を担う人材育成と人類の発展に資する科学研究を推進し地域貢献を使命とする高等教育機関の責任者として,資源の乏しい我が国においては,「人材」が国の基盤をなし,その人材育成を支えているのは国立大学です。明治期以来の我が国の高等教育施策の根幹をなし,国の発展の原動力となっているのは周知の事実です。

このままでは,とりわけ地方国立大学の衰退が危惧されます。そこで,以下の要望について,政府責任者として国家百年を見据えた長期的な視点に立ち,国立大学のこれまで果たしてきた役割・実績や重要性をご認識いただき,内閣として政治主導のご判断をいただきますよう強く要望いたします。


【人材育成の確保】
国立大学は,教育の機会均等を担う公共的性格の下で,優れた教育を提供し人材の育成に寄与しています。地域になくてはならない優れた資質を有する教員,医師,法曹人の養成も大事な役割であります。特に地方国立大学においては,比較的低所得者層の子弟を多く受け入れて教育の機会均等に大きく寄与しており,昨今の経済不況の中にあって,その役割とともに地域社会からの期待も一層増しています。

ワーキンググループの評価結果に基づく事業仕分けにより施策が行われると,各国立大学の教育研究水準の低下や優秀な学生の確保・育成・輩出が損なわれ,地域における高度人材育成の中核拠点が崩壊しかねません。このことは,地域が期待する教員・行政・企業・医療現場などで活躍する優秀な人材育成,高度で先進的な医療の提供,地域企業等への研究成果の還元にも大きな影響を与えることとなります。


【基盤研究の推進】
国立大学は,高度な学術研究や科学技術の振興を担い,国力の源泉としての役割を担ってきました。特に地方国立大学は,地域へ安定的かつ持続的に大きな経済効果を発揮しており,大学の研究による「新しい産業の創出と地域産業・地域文化の活性化」という地域の未来に繋がる経済基盤の創出や安心安全社会の実現という重要な役割を果たしています。

第3期科学技術基本計画の中で科学技術の戦略的重点化として,基礎研究の推進の重要性が謳われています。第4期においても,引き続き基礎研究の充実・拡充の方向で議論がなされていると承知しております。人類の英知を生み知の源泉となる基礎研究は,その研究成果が人類社会の課題解決に資するとともに,長年にわたる地道な研究活動の成果により日本人研究者がノーベル賞を受賞されたことは周知の事実です。

ワーキンググループの評価結果に基づく事業仕分けにより施策が行われると,学問分野を問わず,基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど,これまで積み上げてきた我が国の国立大学の研究基盤が歪みを生じ,やがては根底から崩壊することが危惧されます。その結果,地域や国全体の経済成長の衰退,さらに国際競争力の低下に繋がり科学技術創造立国としての価値がなくなることとなります。


以上のように,中国地方の各国立大学では,世界水準の教育研究活動を推進するとともに,地域の特色を活かした教育研究や地域のニーズに応えるための様々な取り組みを積極的に展開しています。これらの取り組みの基盤的経費である国立大学運営費交付金の毎年度の減額に対して,各大学では教育研究経費の削減,人員の効率化を図りながら懸命な経営努力に邁進しているところであります。

選挙時の民主党の政策文書には「世界的にも低い高等教育予算」や「国立大学法人に対する運営費交付金の削減方針」の「見直し」との記述があり,また,これまでの国会審議においてもこの方針に沿った対応がなされたものと承知しております。

国立大学法人の果たしてきた役割や重要性をご理解いただくとともに,内容について再度精査いただき,教育研究基盤確立のため,内閣として政治主導の判断をいただきますよう強く求めます。