≪声明≫ 国立大学法人法(第30条ほか)すら蹂躙する文科省「国立大学法人の組織・業務全般の見直し」の違法性を告発する

 

2009314日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 

 

要約

現在、文科省は、「国立大学法人の組織・業務全般の見直しについて」方針の作成をすすめ、全国立大学法人に、これにもとづいて中期目標の原案を行わせようとしている。

しかしながら、国立大学法人全般の組織・業務の見直しを行うことは文科省の権限外である。また、今回の「見直し」の根拠とされる国立大学法人評価委員会の「視点」は適正な手続きを経ずにつくられた疑いがある。さらに、文科省が各国立大学法人の中期目標の原案作成に先立ち「見直し」方針を示すことは明確な法人法第30条違反である。

そもそも、第1期中期目標期間の業務実績に対する評価委員会の評価結果が出ていないうちに、それと無関係の「見直し」をはじめるということは、評価結果に基づく組織・業務の見直しという説明すら反故にするものである。我々は、文科省が「見直しスケジュール」を撤回し、国会と各国立大学法人に対して謝罪することを要求する。

 

 

1.       奇妙なラインを出現させた文科省「見直しスケジュール」

 

200925日、文部科学省高等教育局国立大学法人支援課は、「国立大学法人の組織・業務全般の見直しのスケジュール」(以下、「見直しスケジュール」と呼ぶ)と題する作業日程表をまとめ、流布した。これは、私たちがこれまで目にしてきた、国立大学法人評価委員会(以下、評価委員会)が20074月に決定した「中期目標期間評価のスケジュール案」(以下、「評価スケジュール」と呼ぶ)とよく似ている。

しかし、二つのスケジュールを見比べてみると、そこには、作成主体の違いだけでなく、内容上の大きな違いがあることに気づく。「見直しスケジュール」には、文科省の作業を示した段に、「評価スケジュール」にはなかったオレンジライン(矢印)が出現する一方、「評価スケジュール」の国立大学法人の段にあった「組織及び業務全般にわたる検討(次期中期目標、中期計画に関する検討)」が消えてしまっているのである。ここには、スケジュールの変更として片づけることのできない重大な問題が存在する。

 

2.       「国立大学法人の組織・業務全般の見直し」をする権限をもたない文科省がそれを行えば、通則法35条違反となる

 

「見直しスケジュール」が作成されたのと同じ25日付、文科省高等教育局国立大学法人支援課長永山賀久氏が各国立大学法人の「中期目標・中期計画担当理事」宛に配信した「事務連絡」(「国立大学法人の組織・業務全般の見直しについて」)によれば、今後、文科省は、評価委員会が128日にまとめたとされる「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」(以下、「視点」)に沿って国立大学法人の組織及び業務全般の見直し内容を作成し、「6月を目途に文部科学大臣から各法人にお示しする予定」だという。そして、やはり25日に作成された文書「国立大学法人の組織・業務全般の見直しについて」では、「各法人は、文部科学大臣から示される見直し内容を踏まえ、中期目標・中期計画の素案を作成する」こととされている。以上のプロセスを図示したものが「見直しスケジュール」のオレンジラインにほかならない。

だが、以下に掲げる法律の条文を読めばわかるように、国立大学法人法(以下、法人法)が独立行政法人通則法(以下、通則法)を準用することによって文科大臣に授権しているのは、条文に「当該国立大学法人」とあるように、個別の国立大学法人に関して、業務継続の必要性や組織の在り方などを検討し、所要の措置を講じることだけである。

 

独立行政法人通則法(〔 〕内は法人法における読替え。)

第三十五条 主務大臣〔文部科学大臣〕は、独立行政法人〔国立大学法人〕の中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人〔国立大学法人〕の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずるものとする。

2 主務大臣〔文部科学大臣〕は、前項の規定による検討を行うに当たっては、評価委員会〔国立大学法人評価委員会〕の意見を聴かなければならない。

3 審議会は、独立行政法人の中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人〔国立大学法人〕の主要な事務及び事業の改廃に関し、主務大臣〔文部科学大臣〕に勧告することができる。

 

 すなわち、個別の国立大学法人の組織・業務についてではなく、「国立大学法人の組織・業務全般の見直し」、国立大学法人全体に関して、それらの組織のリストラクチュアリングに関する一般的な方針を示すことは、通則法35条が予定していないことである。今回の国立大学法人支援課長の「事務連絡」や「見直しスケジュール」のオレンジラインは違法の疑いがある。

 

3.       「見直し」策定のプロセスが評価委員会の意見を聴くことなく進められていれば、通則法352違反となる

 

文科省「見直しスケジュール」の中では、「国立大学法人の組織・業務全般の見直し」は、評価委員会の「視点」という専門的観点を取り入れてつくったかのように描かれている。

ところが事実はそうではない。2008109日の国立大学法人評価委員会第24回総会において、「文部科学大臣の措置案」、すなわち今回の「国立大学法人の組織・業務全般の見直しについて」をつくる前段階の議論をお願いしたい、という提案が文科省からされ、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しに関するワーキンググループ」が設置されることになった。そして、この機関が3回の会合を重ねてまとめた「視点」が、2009128日の第25回総会に報告されたのである。

 このプロセスには幾重にも問題がある。まず、「国立大学法人評価委員会運営規則」(20051031日)はワーキンググループなる機関の設置について規定していない。当然、その設置根拠などについて出席委員から質問があってよいはずだが、そうした発言はなかった。また、ワーキンググループのメンバーの人選は、一任してほしいという野依委員長の発言があっただけであり、その審議事項、スケジュール、議事録等も一切情報公開されていない。事実上、評価委員会の「視点」は、文科省と一部メンバーのみの密室協議でまとめられたものであるといってよい。こうした運営は、議事録の公表、会議の公開などにより議事の公正性・透明性を確保することを定めた国立大学法人評価委員会のゥ規則に反している。

さらに、第25回総会における「視点」の扱いも不明確である。それが単なる報告事項なのか、総会における審議決定事項なのか、議事録が公開されていないため判然としない。すなわち、「視点」が法令上の根拠をもつ国立大学法人評価委員会の意見であることを示す証拠は、現在のところ何も存在しないのである。すなわち、文科省は評価委員会の正式の意見を聴取することなく「見直し」をすすめていることになり、法人法が準用する通則法352に違反している疑いがある。

 なお、このように重大な内容が審議されていた第24回総会の議事録が公開されたのは、第25回総会の後の313日のことである。委員のためではなく、外部に向けた情報公開を目的とするのであれば、少なくとも議事録は、次の会議が開かれる前に作成し、他の資料とともに公開するのが当然だと思われるが、ここ2年あまり、評価委員会の情報公開は極めて低調である。

 

4.       国立大学法人に、「見直し」を「踏まえて」中期目標の作成を求めているので、法人法30条違反となる

 

法人法は、文部科学大臣が中期目標を定める際、「あらかじめ、国立大学法人等の意見を聴き、当該意見に配慮する」(第303)ことを義務づけている。この規定は、通則法の枠組みを修正し、中期目標の実質的な作成主体を国立大学法人にするために設けられた措置であった。そして、(実際に大学側の意思が貫徹していたといえるかどうか疑問だとはいえ)各法人が中期目標の「素案」(原案)を作成するという運用上の工夫が行われてきた。

ところが、先に見たように、25日の文科省「国立大学法人の組織・業務全般の見直しについて」は、「各法人は、文部科学大臣から示される見直し内容を踏まえ、中期目標・中期計画の素案を作成する」(傍点は首都圏ネットワーク事務局)と述べている。「見直しスケジュール」でも、中期目標策定プロセスの起点は各国立大学法人の素案(原案)ではなく、それに先だって文科省が作成する「見直し」であることがはっきりと図示されている。

これらの措置は、国立大学法人の原案作成権限を前提とする法人法30条に違反する。さらには、大学の教育研究の特性に対する配慮義務を定めた法人法3条にも違反するといえよう。

 

5.       「見直しスケジュール」の撤回と謝罪を要求する

 

今回の「見直し」は、評価委員会による国立大学法人の業務実績の結果が確定していない段階に開始された。中期計画の達成状況を踏まえて、組織業務や次期中期計画の内容、それらと関連する運営費交付金のあり方を検討するというのが、従来の説明であった。今回の「見直し」は、この説明を反故にしていると言わざるを得ない。

以上のように、「見直しスケジュール」には数々の重大な疑念がある。加えて、ここで想起されねばならないのは、2003年における国立大学法人法審議過程で各大学の中期目標・計画策定作業に文科省が不当な介入を行っていたことが厳しく糾弾され、そしてそのことを踏まえた国会の附帯決議(とりわけ文末の参考に掲げる参議院附帯決議の五項・九項・十一項など)が採択されたということである。文科省はそうした歴史的経過を全く無視し、今度は法そのものも特別決議も公然かつ平然と蹂躙して大学への不当な介入を繰り返している。このことは、国権の最高機関である国会を文科省という一行政機関の下に置くものであり、法治国家の見地からも許されるものではない。

よって、我々は、文科省が「見直しスケジュール」を撤回し、国会と各国立大学法人に対して謝罪することを要求する。

 

以上

 

 

参考

参議院 附帯決議より

五、中期目標の実際上の作成主体が法人であることにかんがみ、文部科学大臣は、個々の教員の教育研究活動には言及しないこと。文部科学大臣が中期目標・中期計計画の原案を変更した場合の理由及び国立大学法人評価委員会の意見の公表等を通じて、決定過程の透明性の確保を図るとともに、原案の変更は、財政上の理由など真にやむを得ない場合に限ること。

九、国立大学法人評価委員会の委員は大学の教育研究や運営について高い識見を有する者から選任すること。評価委員会の委員の氏名や経歴の外、会議の議事録を公表するとともに、会議を公開するなどにより公正性・透明性を確保すること。

十一、独立行政法人通則法第三十五条の準用による政策評価・独立行政法人評価委員会からの国立大学法人等の主要な事務・事業の改廃勧告については、国立大学法人法第三条の趣旨を十分に踏まえ、各大学の大学本体や学部等の具体的な組織の改廃、個々の教育研究活動については言及しないこと、また、必要な資料の提出等の依頼は、直接大学に対して行わず、文部科学大臣に対して行うこと。