『読売新聞』富山版2009年3月9日付

富大学長選考 学内外に波紋広がる
意向調査巡り対立


富山大学の学長選考で、教職員らによる意向調査の結果、最下位だった西頭徳三(さいとうとくそう)学長(70)が、選考会議で再任された問題が、学内外に波紋を広げている。一部の教員が文科省に選考に関する法改正の検討を求めるなど、選考のあり方そのものを問いかけている。(井上亜希子)

◆学内の反発

東京・霞が関の文部科学省に3日、「学長選考問題を考える会」世話人の小倉利丸教授や岡村信孝教授ら4人が訪れ、西頭学長の再任について異議を訴えた。

4人は、〈1〉文部科学相が西村学長を任命しない〈2〉学長選考会議に再選考を指示する〈3〉国立大学法人法の学長選考に関する規定を改正する――の3点を要請。規定の改正を求めたのは初めてという。

ただ同省は、「大学の自主性を尊重するのが原則。人物に問題がなければ任命する」と説明するにとどまる。学長は、大学側が文科省に上申し、文科相が任命する手続きだが、同省によると、これまで上申された候補が拒否されたことはない。新学長の任期は4月からで、西頭氏は「改革をやり遂げたい」と続投に意欲を見せている。

◆意向調査

問題の発端は、学内教職員らの投票による意向調査だ。意向調査は職位別に2回実施され、3候補のうち西頭氏はいずれも最下位だった。

だが、同大学長選考規則では「選考会議は、学長候補者の選考の参考とするために、意向調査を行うことができる」と記述されている。調査はあくまで「参考程度」という位置付けで、実際の選考過程で調査結果をどのように扱うかなど明確な基準はない。

今回の選考会議で、金岡祐一議長は「各委員がそれぞれ参考にしたのだろう」と述べる。一方、意向調査管理委員会の委員長を務めた小倉利丸教授は、調査の趣旨の一つに「人事権や学問の自由など大学の自治がある」と主張する。

文科省人事課によると、86大学法人の多くが意向調査を実施するが、位置付けは「参考程度」が大半。このため、意向調査と選考会議の結論が異なり、教員側が反発した例が全国的に相次いでいる。2005年に新潟大、07年には滋賀医科大などで訴訟にまで発展したが、原告側が敗訴。選考会議の結果が覆ったケースはない。

◆「改革」と法人化

国立大学は04年度に法人化され、西頭氏は05年、旧富山大と富山医科薬科大、高岡短大が統合した新しい富山大の初代学長に、最も規模が小さい旧高岡短大から選ばれた。

人文系の学部について「研究部」への再編を目指すなど、一連の改革はまだ道半ばだが、「改革が現場に周知されず、トップダウンで意思決定される」(富山大教授)と不満も強い。

法人化に伴い、学長には経営手腕も求められるようになった。そこで、従来の学内投票から、学外の委員も交えた選考会議で決定されるよう改まった。意向調査は法人化前の“名残”とも言える。

文科省人事課は「学長の選考が、外部から経営面でも判断されるようになり、意向調査とのねじれが生じているのでは」とみる。また、国立大学法人化に詳しい立命館大学の本間政雄副総長は「選考結果を巡る問題の根底には、学内自治として教員中心の秩序を求める勢力と、大学改革を進めようとする勢力のせめぎ合いがある」と分析している。