『毎日新聞』福岡版2008年10月3日付

イチおし@大学:九大ブランドの「九州大吟醸」 地域の環境保全に一役


04年の国立大学の法人化を機に、大学の個性や研究成果のアピール手段として、全国で「大学ブランド商品」開発が盛んになっている。九州大(本部・福岡市東区)は05年度から純米大吟醸酒「九州大吟醸」を扱う。学生が製造から販売までかかわり、売り上げの一部を環境保全活動に充てるのが特徴だ。「飲めば飲むほど、緑が増える酒」と関係者はアピールする。【長谷川容子】

フルーティーな味の「九州大吟醸」は、香りが強い食前酒タイプの「しずく搾り」と、九州の濃い味付けの料理に合う「手づくり」の2種。粋なデザインのボトルは500ミリリットル入りと1800ミリリットル入りがあり、値段は1200〜5000円。

05、06年度に製造した計2万本は完売。07年度は1万2200本が売れた。08年度は1万本をやや下回りそうだが、「卒業生や退官する教授への贈答品、教官の出張時のおみやげ用に喜ばれています」。企画した同大大学院農学研究院助教、佐藤剛史さん(34)は話す。佐藤さんの知人を通じて米国のスシバーに置く話も持ち込まれ、手続きを進めている。

酒造りのきっかけは、02年に九州大の学生と教員がNPO法人「環境創造舎」を作ったことだった。当時大学院生の佐藤さんは設立の中心メンバー。福岡都心部からの移転が進む伊都キャンパス(同市西区)周辺の森の環境を守ろうと活動するうち、地元の酒造メーカー「浜地酒造」の常務、浜地浩充さん(42)と知り合った。

環境保全に役立つ酒の製造、販売に共同で取り組むことにし、同NPOが伊都キャンパス近くに水田を借りた。周囲は酒米の産地。農家の協力で学生が酒米を育てる。収穫後は、同社が昔ながらの製法で酒を仕込み、学生はこうじ作り、ろ過などの作業を手伝う。

「既製品に九州大のラベルを張るのではなく、付加価値を付けたかった」と佐藤さん。農学部3年、長瀬拓也さん(20)は「ものができるまでには、いろんな人がかかわっていることを実感します」と話す。

商品は学内生協のほか、福岡市の百貨店、JR博多駅や福岡空港など酒造会社のネットワークを通じて販売。売り上げの5%は同NPOの活動費とし、伊都キャンパスと周辺の竹林伐採後の空きスペースにヤマツツジの株を植えるなどの費用に充てている。この夏には、03年に植えたヤマツツジが赤い花を咲かせ、学生たちを喜ばせた。

佐藤さんは「酒造りを通じて、大学と地域が一緒に環境を守ろうとすることに意義がある。『九州大吟醸』は、両者をつなぐ架け橋的な存在」と息の長い活動を念頭に置く。

5年目を迎えて物珍しさも一段落した中、今後のPR方法が課題だ。来年4月には1、2年生が六本松キャンパス(同市中央区)から伊都キャンパスへ移り、学生の間で認知度が高まると関係者は期待する。汚染米転売問題などで最近、食の問題への関心がますます高まっていることも追い風という。

浜地さんは「うちの日本酒の場合、『原料がはっきりしていて安心感がある』と最近は需要が高まっている。『九州大吟醸』は、学生が製造から販売までかかわり、トレーサビリティー(追跡可能性)も確かだ」と話す。

みんなで仕込み作業を打ち合わせる11月、売り込みのアイデアを出し合うことにしている。

==============

■ことば

◇大学ブランド商品
食品加工品や野菜、米、肉など種類はさまざまで、酒類を扱う大学もある。神戸大や新潟大は日本酒、鹿児島大や島根大は焼酎、東京大は泡盛、京都大と早稲田大は共同開発でビール、同志社大はワインを手がけている。九州大は昨春、大学ブランド商品を販売する大学を集め、全国初のシンポジウムを開いた。