『読売新聞』2008年3月5日付

大学講義 ネットで公開…情報の質向上、特色PR狙う


大学の講義をインターネットで無償公開する活動が広がっている。「知の拠点」として社会貢献するとともに、大学の特色をアピールする狙いもある。

公開しているのは、講義の簡単な概要や教員が配る資料、講義風景のビデオなど。ネットにつなぐ環境と意欲さえあれば、誰でも本物の大学の講義の内容を学ぶことができる。ただ正規の教育とは違い、単位は取得できず、教員に質問もできないのが原則だ。

こうしたオープンコースウエア(OCW)の取り組みの火付け役は、米マサチューセッツ工科大(MIT)。2001年に構想を発表、昨年までに1800コースの講義を公開した。月に100万件以上のアクセスがあり、6割は米国外からだ。

日本でも、05年に東京大や慶応大など6大学が連絡会議を発足させ、翌年4月に推進団体「日本オープンコースウエア・コンソーシアム(JOCW)」ができた。加盟校は17大学に増え、公開された講義は700コースを超える。

本来、授業料を払った学生が受ける講義の内容を無償で公開するのは、ネットの「知的情報」の質の向上に、大学が貢献する必要を感じているからだ。

JOCW代表幹事の福原美三(よしみ)・慶大教授は「玉石混交の情報があふれるネット上に、学問の最先端を担う大学自身が品質を保証した情報を発信する意義は大きい」と話す。

公開する素材や手法には大学の個性が出る。例えば東大は、小柴昌俊・東大名誉教授ら各分野の世界的な権威による連続講座などを売りにする。好きなキーワードで東大とMITの講義の関連素材を集める検索システムや、音声ファイルをボタン一つでダウンロードする仕組みがある。東工大は290を超える講義資料や講義計画を公開、利用者アンケートの送信も可能だ。

京都大は先月、ノーベル物理学賞を日本人で初めて受賞した湯川秀樹博士の自筆論文などを公開したところ、アクセスが8倍に急増した。医学部が教育用に撮影した臓器移植の手術ビデオを見て、海外から研修医が応募する例もあった。

OCWは、ネットを通じて世界の大学が特色を競う場でもある。英語での情報発信が増える中、京大はあえて日本語にこだわる。土佐尚子・学術情報メディアセンター教授は「英語で内容の浅い情報を提供しても国際的な評価は得られない。学問的な深みと蓄積を備えた本物を、あえて日本語で発信して勝負したい」と意気込む。(片山圭子)

[大学の講義を体験できる主なサイト]

◆MIT

http://ocw.mit.edu/ocwweb/web/home/home/index.htm

◆JOCW(日本の各大学へリンクがある)

http://www.jocw.jp/index_j.htm

◆OCWC(21か国の加盟団体の紹介とリンクがある)

http://www.ocwconsortium.org/index.php