『日経ネット関西版』2008年2月18日

神大・阪大に美容外来、国立大も「美の追究」──研究・教育蓄積に期待


神戸大学、大阪大学が昨年、相次ぎ美容に関する外来をスタートした。女性にとり美はいくつになっても最大の関心事の1つ。人気のアンチエイジング(抗加齢)医療やプチ整形などを軽い気持ちで受ける人も増えているが、なぜここに来て国立の大学病院が美容外科なのか。病院側、患者の声を交えて探ってみた。

湊川神社に程近い神戸大学付属病院。各診療科の前には高度な医療を求めて常に患者が座って待っているが、対照的にひっそりとしているのが昨年10月に設置されたばかりの美容外科。患者のプライバシーに配慮して待合用のいすは目立たない場所にあるが、全国的にも注目が集まるホットな診療科だ。

理由は国立大学病院として初の独立した専門の診療科だから。責任者の一瀬晃洋講師は「大学として美容外科を正面から位置づけた。美容医療は偏見や誤解も少なくないが、ニーズは高いので安心して受診できるようにしたい」と話す。保険は利かず自由診療なのは美容クリニックと同様だ。医師3人とスキンケアの技術員らで構成し、予約が満杯になるなど順調なスタートを切った。

美容外科の位置づけは日米で大きく異なる。米では大学の研究・教育体制が確立しているが、日本は「需要は急増しているのに指導的役割を担う医療機関がほとんどなかった」(一瀬講師)。優れた技術を持つ医師も多いが、技量不足によるトラブルも少なくない。

国民生活センターが集計した美容医療にかかわる2006年度の相談件数(全国)は1253件で、2年連続で20%以上増えた。大阪府消費生活センターの中尾いずみ相談担当主事は「20―30代の女性からの脱毛やしみ・しわ取りなどに関する訴えが多い」と指摘する。一瀬講師は「大学で教育・研究をしっかり実施し、実績を作ればこうした状況も変わっていくはずだ」と話す。

東京都内に住む60代の佐藤聖子さん(仮名)は国立大というブランドに安心を感じた1人。昨年末に神戸まで出向きしわを目立たなくする手術を受けた。「手術の効果だけでなく、万一の場合の危険性も説明してくれた」と話す。

大阪大学付属病院では昨年6月に「美容医療相談外来」が誕生した。矢野健二教授や美容クリニック院長を務めた経験を持つ高田章好准教授らが月1回、トラブル相談などに応じている。1時間までで料金は3万1500円だ。

相談患者には手術や画像検査などは実施せず、症状に合わせて適切な医療機関を紹介している。高田准教授は「トラブルや後遺症に限らず、セカンドオピニオンとして手術前に相談してもらってもよい」と話す。

大学が美容医療を強化する動きの背景には、生活の質を重視する社会の流れがある。見た目を重視するのもその1つ。高田准教授は「かつては傷が残っても病気が治ればよいという風潮があったが、今では患者も医師も美に対する関心が確実に高まっている」と話す。

神戸大では診療科開設にあたり周囲から「大学がやる必要があるのか」といった声も出たが、容姿が心の健康に影響しており医学的意義も高いことや教育システムを確立する重要性などを説明、理解を得たという。

さらに医療経済が専門の川渕孝一・東京医科歯科大学教授は「国から大学への資金が減らされる中、大学病院は来院患者をいかに増やすかに知恵を絞っている。多様化する患者ニーズを取り込む動きは今後も続く」とみる。神戸大と阪大の動きは関西圏の他大学にも影響を与えそうだ。
(大阪経済部 長谷川章)