『高知新聞』社説 2007年12月28日付

【学長選考混乱】 疑念は晴らさなければ


高知大の現学長、相良祐輔氏の再任を決めた十月の学長選考をめぐり、学内意向投票で票のすり替えがあったとして、同大教授らが刑事告発に踏み切った。また、対立候補の同大大学院黒潮圏海洋科学研究科長の高橋正征氏が選考無効の確認を求める民事訴訟を起こした。

本来、学内で解決するべき学長選考問題が自己解決に至らず、司法の場に持ち込まれること自体、相当に異常だ。県民が不信感を持っていることも否めない。ここは司法にゆだねるのもやむを得まい。

学長選考は教職員による意向投票結果を参考に、学内外のメンバーで組織する学長選考会議が選考することになっている。ところが、その開票作業に「ミスまたは不正があった」ことを選考会議は認めている。

開票では高橋氏が四十一票上回っていたが、開票事務終了後、事務局職員二人が金庫から票の入った箱を取り出したところ、高橋氏の箱に相良氏の票の束(二十票)が混入していたという。投票管理委員を再招集して数え直したら一票差となった。

選考会議は二通りの結果を“公認”した上で、相良氏を次期学長に決定したのである。

告発した教授らは、最初の開票作業で多数の委員と職員が四度は票数確認しており、混入はあり得ないという。そして、人為的な票のすり替えがあったとする。訴状も「事務局職員が投票管理委員会の指示や了解なしに金庫の鍵を開ける行為が規則違反」との指摘だ。

確かに、そうした指摘は県民の疑念と重なる。一方で、何度も票数確認しながら最初の投票結果を正式結果だと主張できない投票管理委の脇の甘さも否定できない。

さらには、二通りの結果を“公認”した選考会議のあやふやな姿勢も理解し難い。

国立大学法人化後、意向投票結果が選考会議の判断に反映されず、民事訴訟に至った例がある。文部科学省の事務次官経験者が学長に選ばれ、天下り批判を受けた山形大も学内民意が尊重されなかった。

法人化で学長の権限は大きくなり、選考会議のメンバーを「身内」で固めることも可能なだけに意向投票が覆されても不思議ではない。

ただ、意向投票と違う結果を出すなら納得のいく説明を果たすのが筋だ。司法判断がどうなるか不明だが、大学側の選考運営の未熟さ、説明不足が混乱に拍車を掛けたことだけは間違いないだろう。