若手研究者の就職難と待遇に関する質問主意書

                 2007年12月17日 衆議院議員 石井郁子

 この数年来、大学院博士課程を修了しても安定した研究職につくことができない若者が急増し、パートタイムのポストドクター(以下、ポスドク)や大学非常勤講師のような不安定で劣悪な雇用状態におかれていることが、「高学歴難民」「高学歴ワーキングプア」として社会問題化している。また、博士課程修了者のキャリアパスがますます不透明となるなかで、優秀な学生が研究者をめざす道を敬遠し、二〇〇三年度以降、博士課程への進学志願者数、進学者数とも減少するといった事態も生まれている。我が国の学術の発展とそれを担う人材の質・量の確保にとって、きわめて深刻な事態であり、この問題の解決は喫緊の課題である。

 そこで、以下のとおり質問する。


一、若手研究者問題における政府の責任について

1 第三期科学技術基本計画(以下、基本計画)は、「モノから人へ」 をキーワードに「優れた人材を育て活躍させることに着目して投資する考えかたに重点を移す」とし、とくに、若手研究者に対しては「意欲と能力を発揮できるよう根本的な対応に取り組む」とした。

 ならば、いま「高学歴難民」「高学歴ワーキングプア」といわれるなど社会問題化した若手研究者の就職難と劣悪な待遇を解決することこそ、基本計画の目標達成のためにも不可欠と考えるが、いかがか。

2 一九九一年に大学院生数の倍加を打ち出した大学審議会においても、大学院の教育課程や研究指導のあり方、教育費や施設・設備、規模、大学院生の経済的問題など、大学院がかかえる問題が指摘され、質的な面での抜本的な充実と改革をともなわないままに量的な拡大が進むならば、危機的な状況になることは危惧されていた。

今日問題となっている若手研究者の就職難と劣悪な待遇は、政府が、大学院生の量的な拡大にみあって、修了者の処遇をふくむ、大学院の質的な面での抜本的な充実と改革への支援を怠ってきたことにあると考えるが、いかがか。


二、若手研究者の深刻な就職難の解決について

1 博士課程修了者は年間一五九七三人(平成十八年三月)だが、そのうち約半数は就職できていない。九年間にわたって大学・大学院の高い学費を払って博士になっても就職先がないのでは、優秀な学生は博士課程に集まらなくなる。

政府としてこうした博士課程修了者やポスドクの就職難の実態をどのようにつかんでいるのか、詳しく明らかにされたい。また、若手研究者の就職難を解決するために、詳細な実態調査もふくめ、今後どのような施策を行おうとしているのか明らかにされたい。

2 若手研究者の就職難の原因の一つは、若手研究者が就ける常勤研究職の減少にある。たとえば、大学の本務教員数は、一九九八年から二〇〇四年の六年間に、一三五七一名増えたが、三七歳以下の若手教員数は一六三七名減っており、三七歳以下の若手教員の割合は二五・二%から二二%に減少している。平均年齢も一九七一年と比べると五歳上昇して四八・一歳となっており、民間企業の研究者の平均年齢三九.・ 五歳(二〇〇二年)と比べても非常に高くなっている。こうした事態がすすめば、多くの学問分野で後継者が不足し、学術研究の蓄積を引き継ぐことも困難となる。

基本計画では「助教の確保と活躍の場の整備がなされることが望まれ」 ているが、政府として常勤研究職の拡充のために今後どのような施策を行なおうとしているのか。

3 大学や研究機関の若手教員・研究者の採用抑制の原因の一つに、運営費交付金の効率化係数や人件費五%削減などの政府の方針のもとで、 国立大学法人や独立行政法人研究機関が退職者の不補充などの人員削減をよぎなくされていることがある。

(1)運営費交付金の効率化係数や人件費削減の方針を見直すべきだと考えるが、いかがか。

(2)大学や研究機関が若手の教員・研究者を増やすように、国立大学法人・独立行政法人研究機関の運営費交付金や私立大学の国庫助成を増額するなど、国の支援を強めるべきと考えるが、いかがか。

4 若手研究者の就職難を解決するためにも、企業による博士課程修了者の採用を増やす必要がある。

基本計画は「産業界においては、優れた博士号取得者に対し、弾力的で一律でない処遇を積極的に講じることが求められる」としているが、政府として企業による採用を促進するために具体的にどのような施策を行なおうとしているか。


三、若手研究者の待遇の改善について

1 文部科学省の調査(二〇〇七年発表)によると、大学・ 研究機関に雇用・採用されているポスドクは、一五四九六名いるが、その約半分は外部資金などで雇用され、社会保険への加入率は六割弱で、 日々雇用であったり、週当たりの勤務時間が常勤の四分の三に満たないなど、不安定な雇用状況にある。とくに大学のポスドクは社会保険加入率が四三%と独立行政法人の八三%と比べてもきわめて低い。大学のポスドクの原資は、さまざまな競争的資金・外部資金によることが多く、 その場合は労働条件も部局にまかされ、不透明な場合が多い。こうした現状を改善する必要がある。

(1)年収や社会保険の加入状況も含めたポスドクの雇用条件を政府が詳細に調査する必要があると考えるが、どうか。

(2)ポスドクの社会保険加入率が低い現状について、政府としてどのように認識しているのか。国が大学に対し、ポスドクの社会保険加入を促進するような措置をとるべきと考えるが、どうか。

2 本来、ポスドクは研究の担い手であると同時に、さらに優秀な研究者に成長することが期待される若手研究者であり、それにふさわしい雇用条件を保障すべきである。

(1)政府として経済的に自立を可能にするポスドクの雇用条件の基準を示すべきだと考えるが、いかがか。

(2)ポスドクを雇用する側に、ポスドク期間終了後のキャリアパスを保障する責任があると考えるが、いかがか。

3 大学の専業非常勤講師(主に大学の非常勤講師を職業としている人)は、約三万人と推測されており、大学教育の重要な担い手になっている。しかし、非常勤講師組合の調査によると、平均年齢は四五歳で、 平均担当コマ数は九・二コマをもつにもかかわらず、平均年収は三百六万円で、二百五十万円未満が四四%をしめ、職場の社会保険の未加入が九六%にのぼるなど「高学歴ワーキングプア」といわれる劣悪な待遇となっている。

そこで、国公私別における?高等教育における非常勤講師(本務校あるなしを区別して)への依存の実態(人数、コマ数)、賃金などの労働条件、研究・教育条件(研究室、研究費、コピー費、学会出張費、図書館利用など)、専業非常勤講師の生活実態、について調査を行うべきと考えるが、いかがか。

4 大学非常勤講師の劣悪な待遇を抜本的に改善するために、政府が二〇〇四年度の予算で行った私学助成における非常勤講師補助単価の五〇%引上げを確実に非常勤講師給に反映させるよう各大学に促すべきと考えるが、どうか。

また、均等待遇の立場から、私学助成における非常勤講師補助単価のさらなる引上げ、社会保険加入の拡大をはかる必要があると考えるが、どうか。


四 博士課程大学院生への経済的支援について

1 我が国の大学院生は、諸外国と比べて学費が高いうえ、奨学金も貧困なために、学費を稼ぐためのアルバイトによって研究に集中できないことが多い。全国大学院生協議会の調査によると、大学院生の約六割が「収入の不足により研究に支障をきたしている」と答えている。欧州の多くの国は、学部から学費は無償となっており、米国も、大学院生の約四割が生活費相当分の支援を受けている。大学院博士課程在学者が同年齢の者と同程度の収入が得られるよう経済的生活を保障すべきである。

基本計画には「博士課程(後期)在学者の二割程度が生活費相当程度を受給できることを目指す」こととされており、当面早急に実現を図るべきである。

(1)生活費相当程度の支援を受けている在学者の現在の実数、在学者中に占める割合はどうなっているのか、明らかにされたい。

(2)基本計画にある「在学者の二割程度に生活費相当程度を受給できること」の実現のために、今後、どのような施策を行なおうとしているのか、明らかにされたい。

(3) 大学院生を対象とするフェローシップ、ティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタント、無利子奨学金と返還免除枠、国立大学の学費免除枠、私立大学の学費減免制度支援について、現在の対象となっている人数と在学者に占める割合、今後基本計画期間中にそれぞれについて、どれだけ充実させるのか、明らかにされたい。

2 基本計画は、若手研究者に対して「優れた資質や能力を有する人材が、博士課程(後期)進学に伴う経済的負担を過度に懸念することなく進学できるようにすること」の必要性を指摘している。

そこで、博士課程在学者全員の授業料免除へと踏み出すべきだと考えるが、どうか。さらに、給付制奨学金の導入、私立大学院生への直接助成制度創設を実現すべきだと考えるが、どうか。

以上