『高知新聞』2007年10月19日付

高知大 疑念深まる意向投票
ミスか不正か? 空白の10分


単純ミスか、それとも不正工作なのか? 次期学長選考の参考とするため高知大学(高知市曙町二丁目)が今月5日に行った学内意向投票の結果は、およそ理解しがたいものだった。開票後、同大大学院黒潮圏海洋科学研究科長の高橋正征氏(65)の獲得数が現職の相良祐輔氏(71)を41票上回ったことが確定。しかしわずか10分後、なぜかその差は1票にまで縮まっていたという。開票現場で一体何が起きたのか。作業にかかわった教職員ら複数の証言を元に、意向投票当夜の動きを検証する。(高知大学学長選考取材班)

■戻ってこい■

10月5日午後4時ごろ、朝倉キャンパス事務棟5階に、物部、岡豊を加えた3キャンパスでそれぞれ投じられた投票用紙が運び込まれた。

開票の場にいたのは学内の「意向投票管理委員会」の8人と事務局の秘書課職員ら十数人。職員が大きなテーブルに票を開け、票数を数えた。

結果は、「無効9,有効797」。各投票場での投票者数とぴったり合った。作業は候補者名の確認に移り、職員が「相良」「高橋」の山をつくった。

ここから両候補の票数え。職員が20票を1束にし、ゴムでくくって委員の手へ。「○○票、20票預かり。間違いなし」。各委員が手に取った束を「正しく20かどうか。全部同じ人かどうか」を確かめた後、色分けされ、頑丈な厚紙でできた2つの箱に入れた。

作業は順調に進み、開票から約1時間後の午後5時には高橋419、相良378の得票数を事務局と委員8人全員が確認。所定の用紙に各委員が判を押した。5時半までには委員全員が2つの箱と事務職員を残し、「やれやれ」と、開票場を後にしたという。

ほっとしたのもつかの間、6時すぎに委員の携帯電話が鳴った。「集計ミスがあった。戻って来られるか?」。事務局と委員長から相次ぐ呼び出しに、事情がよくのみ込めないまま、委員らは朝倉キャンパスへ取って返した。招集場所は開票の行われた事務棟ではなく、総合研究棟。この間に投票箱は事務局によって同棟に移され、金庫に保管されていた。

■整理しようと■

確定した票をなぜ事務局が開けたのか。17日の選考会議終了後の会見で、河本朝光事務局長らは「耐震工事のため、事務所を移している。小さな金庫に2つの箱を入れようとして約10分後に再び(票を)出した」とやや意味不鮮明な釈明。その過程で票が違っていることが分かったという。

事態を受けて全委員が集まったのは7時40分ごろ。事務局2人(1人は選考委員)が「金庫を開け、ミスが分かった」と説明した。委員からは「なぜ、委員長の立ち会いもないのに開けたのか」「あれだけ確認した票ではなかったか」などの疑義が挙がり、1時間以上議論が続いた。

「今度は徹底的に数え直した」とある委員。束を崩して1枚1枚同じ向きに机に並べ、裏表まで確かめた。その結果、高橋氏399票、相良氏398票。1票差になっていたという。 しかし、「最初の票」の正当性を主張する委員が多かった。異常を知って駆け付けた選考会議メンバーも交えて議論。「後の票」が確認された経過も含め、最終的に両方の数字を選考会議に出すことになったという。「長い夜」が終わったのは、午後11時近かった。 

二通りの数字とも高橋氏が上回っていることには変わりないが、学内には「41票差と1票差では大きく意味が違う」という見方が大半だ。さらに、選考会議が言うような「不正、あるいはミス」があったとすれば、最初の開票時と、委員解散後の空白の10分の2回のタイミングが考えられるが、「最初は衆人監視の下だった。あれだけの目があって、(空白の10分以外に)ミスや不正が行われたとは考えられない」という声が学内に渦巻いている。

「学長選考やり直せ」
学内で抗議行動続出


高知大学の学長選考会議が複数の疑惑を内包したまま現学長、相良祐輔氏(71)の再任を決めて一夜明けた18日、「選考結果は無効」とする同大の教授や教職員組合が、学長選考や学内意向投票のやり直しを求める署名活動に着手したり、緊急声明を発表するなど広範な抗議行動が始まった。教職員組合などは近く選考会議に質問状も提出する方針。人文学部や理学部の教授らも行動を起こす準備に入っており、不透明な学長選びの波紋が一気に広がっている。

高知大学長選をめぐっては、17日の選考会議が「出席者の過半数の賛成」という規則を満たしていなかった疑惑が出ているほか、それに先立つ学内意向投票で「不正またはミス」があったことが明らかになっている。

18日は同大の教職員組合が「学長選考会議の結論は断じて認めることはできない」とする声明を発表した。学内意向投票をやり直した上で、あらためて選考を行うよう選考会議に要求する。

また、人文学部の複数の教授らも「構成員の意向を無視した不当な学長選考の無効と不正行為の真相究明」を求める緊急アピールを発表した。同学部は早急に教授会を開き行動を起こす方針。理学部の一部でも同様の動きが広がっており、大学院黒潮圏海洋科学研究科の教授らは「不正の可能性があるとしながら意向投票の調査を行わないのはなぜか」「意向投票結果を覆すに足る選考根拠は何か」などの質問状を近く選考会議に提出する計画。 

さらに同日、「出直し選挙を実現する会」(発起人=菅野光公・センター連合教授会議長)も発足した。同会は選考会議の決定が「『議決には出席者の過半数の賛成がいる』とする選考規則に反しており無効」と主張。意向投票と選考会議の再実施を求め、学内外で署名活動を展開する。

一方、選考会議の事務を担当する河本朝光事務局長(文部科学省出身)は、「学長候補者の選考は選考会議が行う」とする選考規則を基に、17日の会議の正当性を主張している。