『高知新聞』2007年10月18日付

高知大学長 選考会は相良氏再任
学内「規則違反で無効」の声


高知大学(高知市曙町二丁目)の国立大学法人移行後初の学長選考が17日行われ、理事や学部長、学外有識者で構成する「学長選考会議」(議長=篠和夫農学部長)は次期学長に現学長の相良祐輔氏(72)を決めた。しかし同氏の得票は5票で、「出席者(10人)の過半数」という同会議の規則を満たしておらず無効という指摘が続出。今回の学長選では「学内意向投票」をめぐる不透明性も明らかになっており、選考のあり方が厳しく問われる結果となった。(高知大学長選考取材班)

意向投票開票にミスか不正も

学長選考会議は相良氏と同大大学院黒潮圏海洋科学研究科長の高橋正征氏(65)の2人を候補者に非公開で行われ、終了後に篠議長らが会見して結果を明らかにした。それによると、同日は学外の1人が欠席したため10人で審議を行い、議長を除く採決の結果、5対4で相良氏の再任が決まったという。しかし同会議の規則には「議決には出席者の過半数の賛成がいる」というくだりがあることから、同日夜になって関係者から「5票では過半数に達していない」という声が続出。関係者の一部は、18日にもそのアピールを行動に移す構えを見せている。

同会議のメンバーは、現学長が指名した県内企業や病院の経営者ら4人の学外有識者と、理事や学部長ら学内の7人(うち3人は学長指名)。

会見で同議長は、学内意向投票では高橋氏の得票が上回っていたことを説明。さらに意向投票の開票で「ミスあるいは不正が行われた可能性」が否定できず、二通りの得票数(いずれも高橋氏が上回っていた)を参考にした上で現職を選んだことを明らかにした。

学内意向投票は、10月5日に教職員893人を対象に実施。806人が投票し、朝倉キャンパスの事務棟で即日開票された。選挙管理委員会が確認した投票結果は高橋氏419票、相良氏378票、無効9票で、事務局が各候補ごとに票を金庫に保管。ところがその約10分後に事務局と選挙管理委員の1人が「票を整理するため」に金庫を開け、一束(20票)分の票数が食い違っていると指摘した。選挙管理委員を再招集して数え直したところ、高橋氏399票、相良氏398票の1票差になっていたという。

これについて選考会議は「票の管理がずさんというそしりを受けても仕方がない」と前置きし、「事実確認のしようがなく判断がつかない。集計ミス、あるいは不正な票の差し替えのどちらもあった可能性があるので、二通りの数字をベースに議論した」などと説明した。

同会議の審議は2時間半にわたり、「経営基盤のさらなる強化のため、改革の中身や方向性が重要」などの意見が交わされたという。意向投票については、学内から「(高橋氏優勢の)結果を尊重すべきだ」との強い声もあったという。次期学長の任期は来年4月から4年間。

密室の逆転劇  大学厳戒態勢 構内取材拒否

次期学長に相良祐輔氏の再任を決めた高知大の学長選考会議に際し、大学側は報道陣の構内への立ち入りを認めないなど異例の“厳戒態勢”を敷いた。会議後の会見でも審議の経過など詳しい説明はなく、いわば密室での学長選びに終始した格好となった。

「大学構内に報道は入らないでほしい」

日ごろ高知大を取材している報道陣を出迎えた大学側の第一声はこれだった。選考会議が始まる午前10時前には、同大秘書課の職員が会議が開かれる総合研究棟の玄関口で数社の報道陣の前に立ちはだかった。説明の言葉は、「選考会議のメンバーらをカメラで撮られると肖像権が問題になります!」。

会議が終わる2時間半後まで、秘書課職員は玄関に立ったまま。「建物内に入られると選考情報が漏れる恐れがある。建物の運営上も問題」と報道陣を拒絶し続けた。

午後4時半から篠和夫選考会議議長らが開いた記者会見では、高橋正征氏の得票が相良氏を上回っていた学内意向投票の結果を報告。さらに集計のミスまたは不正を明らかにし、報道陣からはその内容について質問が集中した。

会見に同席した河本朝光事務局長は、「不正に票が差し替えられた可能性は?」との質問に、「故意に(票の)束が入れ替えられた可能性も否定できない」と言いつつ「どっちが正しいか今更検証しようがない」。

ミスや不正を突き止めずに2種類の投票結果を認知したこと、会議のメンバーからも投票やり直しを求める声は出なかったことなど、ずさんな選考過程が次々と明らかに。意向投票の結果と学長選考会議の結論が食い違った点について、選考会議内の具体的なやりとりの説明もなかった。

意向投票を覆した学長選考会議は、その過半数を現学長が指名する。メンバーを高知大は明らかにしていないが、高知新聞の調べによると、学内が▽農学部長▽人文学部長▽理学部長▽教育学部長と3人の副学長で計7人。学外は関裕司・ニッポン高度紙工業会長(17日は欠席)▽西山彰一・宇治電化学工業社長▽藤原健男・テレビ高知相談役▽細木秀美・医療法人仁生会細木病院理事長。この日、相良氏は松山出張のため午後3時ごろ大学を出発。学長のコメントを求める報道陣に、篠議長らは「存じ上げてない」「出張は前々から決まっていた」と繰り返すだけだった。