『朝日新聞』2007年10月14日付

受験生争奪が激化、東大も全国各地で合同説明会開く


大学の受験者争奪戦が、ここ数年で様変わりしている。従来はどっしりと構えていた東京大が、旧帝大や有力私大と組んで全国各地で説明会を開き始めた。京都大は9月、立命館大と合同で初めて九州に乗り込んだ。強敵の相次ぐ「来襲」に危機感を募らせる地方では、近隣の大学同士がスクラムを組み、「地盤固め」に余念がない。
 
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「東大は世界のトップランナーになれる人材を求め、かつ育成します」

8日、神戸市中央区であった東大主催の進学説明会。高校生ら約300人に、大型スクリーンから小宮山宏総長が呼びかけた。東大と京大、九州大、岡山大など国立10大学が机を並べ、個別相談に応じた。

東大は2年前から全国で合同説明会を始めた。今年は神戸のほか、高松、東京、名古屋、金沢、札幌ですでに開催し、11月に福岡で開く。

「地方での説明会は幅広い地域の受験層を掘り起こす足場。海外の大学への進学を目指す優秀な人に『日本で学んでからでも遅くない』と訴える機会でもある」と、東大の渡辺省三・本部入試グループ長は話す。

東大生に占める首都圏出身者の割合はほぼ半数。「日本の最高学府」として、もっと幅広く学生を集めたいという思いが東大には強い。河合塾教育情報部の服部周憲(しゅうけん)部長は「アジアの優秀な留学生が日本を飛び越して米国に行き始めたことへの焦りが東大には強い」とみる。04年度に国立大が法人化され、研究成果などの実績が従来以上に求められるようになったことも背景にある。

東大主催の説明会には他の旧帝大や早稲田大、慶応義塾大も参加する。しかし、ある国立大の入試担当者は「東大ばかりが目立つ。様々なチャンネルを持たないと埋もれてしまう」と漏らす。

京大は9月30日、福岡市内で、立命館大と合同で進学説明会を開いた。「京都で学ぶ」という題の公開討論では、九州出身の京大生が約250人の参加者を前に京都の魅力を語った。

「東京に比べて、時間の流れがゆったりしている。個性的な学生も大勢いて刺激になります」

両大学は昨年初めて合同説明会を東京で開いた。京大が主催して関西以外で説明会を開いたのも昨年が初めてだった。今年、会場を福岡にしたのは「九州には東京指向の生徒も多い。京都ブランドを早いうちに受験生に意識付けて西日本を固めたい」(京大入試企画課)との思いからだ。攻めの姿勢を見せる東大を意識せざるを得ない。

神戸大も一昨年から東大主催の説明会に参加しているが、それとは別に今年は東京、名古屋、広島、岡山の4会場で単独の説明会を開く。入試広報室の西橋英夫コーディネーターは「東大が攻めてきたのは相当のインパクトがあった。それ以上に努力しないと」。

京大と合同説明会を開く立命館大は昨年、東大にも「メンバー入り」を申し込んで認められ、今年も東大主催の説明会に4回参加する。入試担当者は「国立大との併願者を引きつける絶好のチャンス」。有名国立大と組むことで、ブランド価値の向上もめざす。

一方、地方の大学は危機感を強める。九州、中四国、東海北陸などの大学は、国立大同士で「地域連合」をつくり、昨年から各地で合同説明会を開き始めた。

広島大や香川大などでつくる「中四国連合」は今年、岡山と高松の2会場で説明会を開催。生活費が安いことや、地元企業だけでなく大企業への就職実績も高いこともアピールした。香川大アドミッションセンターの真鍋芳樹教授は「中四国の大学にとって受験生の流出は共通の課題。複数の大学と協力して、まずは足場をきっちり固めたい」と意気込む。

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入試事情に詳しい河合塾教育情報部の服部周憲(しゅうけん)部長の話 東大がドンと構えていられなくなったのは、アジア諸国の優秀な留学生が日本を飛び越して米国に行き始めたことも背景にある。東大さえも動き出したとなれば、他大学がピリピリするのも当然だ。近くの大学同士が連合を組み、地元を固めたうえで他地域にも目を向ける動きは加速するだろう。04年度に国立大が法人化され、卒業生の進路や研究成果といった実績が今まで以上に求められるようになった。私学も含め、優秀な受験生の争奪戦はますます激しくなる。