声明

教職員の意向投票結果を覆し、天下り官僚学長の実現を強行した山形大学学長選考の不当性を訴え、その撤回を求める!

                             2007年8月13日

               全構成員の創意と合意を尊重する山形大学をつくる会

 山形大学の学長選考会議は7月26日、次期学長候補者に前文部科学事務次官の結城章夫氏を選出した。大学の監督官庁である文部科学省の最高官僚が退職直後に学長に就任することは、わが国の大学の歴史において前代未聞のことであり、「学問の自由」「大学の自治」の原則を歪める暴挙といわざるを得ない。結城氏は周知のように、つい最近まで事務次官として、新自由主義的な国家統制を強めた教育基本法改正や地方教育三法の成立に尽力した人物である。とくに教育基本法改正推進本部の事務局長を務め、政治問題となった「やらせタウン・ミーティング」の実施など改正に向けた世論づくりを進めた文科省官僚の最高責任者であった。その意味では、事実に基づく教育研究と「言論の自由」を本性とする大学に最も相応しくない人物であり、結城擁立に対して山形大学の教職員が反発したのは必然であった。また、今回の学長選考においては、学長選考会議が学内意向聴取投票の結果を覆して結城氏を選出したことをはじめ、以下に述べるように、その選考過程においても結城候補を優遇する措置が一貫してとられており、およそ公平・公正な選挙ではなかった問題点が指摘できる。山形大学の学長選考会議が今回の決定を速やかに撤回し、一般の教職員の意向に基づき選考をやり直すことを強く求める。
 安部内閣の教育再生会議は6月に、「国立大学は、法人化の趣旨を踏まえ、 学長選挙を取りやめるなど、学長選考会議による学長の実質的な決定を行うこととする。」を盛り込んだ第2次報告をまとめたが、今回の山形大学の事例はその方向を事実上先取りしたものと位置づけられ、全国の国立大学における今後の学長選考にとっても危険な動向である。さらに、前事務次官の学長就任は、天下り官僚による大学支配をさらに促進すると予測される。われわれは、 わが国の大学が官僚支配を排し、国民の学術の拠点として真に発展する見地から、大学構成員の意向が反映される学長選考を実現するたたかいをおこなっていくことを、山形大学をはじめ全国の国立大学の教職員に呼びかけるものである。

 山形大学学長選考の経過と問題点は、以下の諸点にまとめられる。
 第一に、経済財政諮問会議などが提言した国立大学法人の運営費交付金の傾斜配分や統廃合の喧伝に象徴される地方国立大学の「危機」に対して、仙道富士郎現学長(医学部出身)や嘉山孝正医学部長が過剰なまでの反応を示し、文科事務次官の招聘を策動したことである。仙道学長は昨年11月に医学部長や文科省出身の田村幸男理事(総務財務担当)と共に、当時現職の結城事務次官を訪ね学長就任を要請したと伝えられる。彼らは、地方国立大学が結集しネットワークをつくりその存在意義を政府や社会にアピールする道を選ばず、 ひとり山形大学が抜け駆けして次官を招聘することで文科省と強固なパイプをつくり生き残りをはかる道を選択した。結城氏の出身である山形東高校同窓で、かつ現文部科学副大臣の遠藤利明衆議院議員(山形1区選出。自民党山形県連会長)とのパイプも結城擁立の背景にある。学長−理事−本部事務が結城擁立の中枢となり、東日本における癌治療の主導権を確立するために重粒子線治療施設の設置をねらう医学部(付属病院を含めると全有権者数の約3分の1を占める)が結城支持の主力となった。さらに、教職大学院設置をめざす地域教育文化学部の一部や東高出身者などが支持にまわった。危機を煽り立て目先の利益誘導をはかることで、天下り官僚候補の支持基盤が固まった。
 第二に、仙道学長が学長選考のあらゆる過程に介入し結城候補を優遇する措置をおこなったことである。まず、4月23日の第1回学長選考会議で、前回の学長選考日程と比べて約2ヶ月遅らせた日程を決定した。これは、結城氏の事務次官辞任(当初6月下旬を予測。実際には延長国会終了後の7月6日付で辞任)の後に学内意向聴取投票の公示日(7月10日)が来るように日程調整をはかった結果である。同時に同会議は、山形大学学長選考等規則を改定し、意向聴取投票の得票数を非公開(学長選考会議委員にも各候補の票数を知らせない)とし、上位3名の名前を抽選順で学内外に知らせるのみとした。これは、事実上意向聴取投票の意義を喪失させる暴挙であり、天下り官僚候補として反発が予想される結城氏の得票1位が確実ではないための措置であったとみられる。つぎに、5〜6月上旬の各学部からの「学長候補となるべき適任者」 の推薦にあたって、仙道学長は各学部長や評議員及び懇意にしている教員らに結城氏の推薦を求め、同氏の経歴や推薦理由などの資料を配付した。そして、 「第一次学長候補適格者」を審査・認定する場であった6月11日の第2回学長選考会議では、政府の職員などの地位にある者は不適格とする、学長選考等規則に定めた適格条項の審査をおこなわず、当時現職ゆえに事務次官辞任の時期とその確約を表明していない結城氏の資格を不問に付したまま第一次選考を通した。さらに、延長国会終了翌日の7月6日に結城氏が事務次官を退官し山形に来る時間的な余裕ができたことを受けて、1回のみテレビ会議方式でおこなうと決定していた学内での公開討論会をキャンパス毎に合計4回おこなうことに変更した。このように、選考日程・学部推薦・第一次選考・公開討論会・ 意向聴取投票という学長選考制度の根幹をなす全ての手続きにわたって、結城氏を優先させる異常な審議や規則改定がおこなわれたといわれる。
 注目すべきは、これらの過程における仙道学長の一貫したイニシァチヴである。山形大学の場合、現学長は学長選考会議委員ではなく、次期学長の推薦権も持たない。しかし、仙道学長は同会議の庶務を担当する本部事務(総務)を通じて学長選考会議の日程や議事を事実上コントロールできる位置にあり、各学部長・評議員らにも根回しをおこない、結城氏の学長就任を実現するためのあらゆる工作を周到に進めた。仙道学長に結城支持を要請された学部長・評議員及び一部教員が、困惑しながらも結城学長就任後の学部の利害を考えて推薦を表明したケースがみられ、結局、全6学部のうち、医学部・地域教育文化学部・理学部・人文学部の4学部が結城氏を推薦するに至った(医学部以外は他の候補も推薦)。仙道学長は「結城候補を山形大学長に推薦する会」の発起人として他の多くの理事とともに公然と名を連ねた。さらに公示後においても仙道学長は、事務次官退官の挨拶という名目で結城氏を連れて各学部長・評議員と面会している。これらの一連の行為は、実際には拒否しにくい権力関係ないし組織関係を前提とした、学長による特定候補の選挙活動にほかならなく、パワー・ハラスメントにも相当する不当な行為である。
 第三に、学長選考会議の学外委員が結城当選に深く関与し、審議過程はもちろん、県内の世論づくりにも大きな影響力を行使したことである。学長選考会議委員は、学外委員7名(県内の学識経験者・企業人・マスコミ関係者など)・学内委員7名(6学部長・付属病院長)からなり、議長には学外委員の坪井昭三氏(元山形大学長。医学部出身)が互選された。学外委員は、仙道学長の選任による。仙道学長・医学部長の根回しにより、審議において学外委員のほとんどは一貫して結城学長実現のために動いた。注目されるのは、坪井議長が株式会社山形先端医療研究所の会長であり、同社は医学部の総意に基づき「世界最先端『重粒子がん治療施設』の建設を目指して」設立されたことである。ともに医学部出身の学長選考会議議長・現学長および医学部長はいずれもこの構想の推進者であり、彼らによる結城氏擁立は国立大学初めての同施設の概算要求実現を主なねらいとしたという情報も流れている。つぎに、学外委員の寒河江浩二氏(山形新聞社編集局長)は、医学部及び参加している学長選考会議で得た情報をしばしば学内公式発表よりも早く山形新聞紙上で報道し、結城学長実現が決定的とするイメージを県民に浸透させる役割を果たした。彼は、選挙期間中に結城氏の天下り批判を書き山形新聞に投稿した山形大学教員の原稿にクレームをつけ削除改訂させるなどの言論への介入=編集活動もおこなった。

 こうした、大学執行部及び学長選考会議学外委員総ぐるみの、いわば「結城選挙」が展開された一方で、山形大学の医学部以外の教職員の多くは「天下り官僚学長NO!」を掲げて多面的な活動をおこなった。「全構成員の創意と合意を尊重する山形大学をつくる会」は、医学部を除く5学部の教職員有志により結成され、かつて山形大学で取り組んだ国立大学法人化反対運動や「山形大学憲章案」づくりの経験とネットワークをも活かしながら、反結城の取り組みを進めた。本会は、教授会や教育研究評議会における実質的な審議の保障など「学問の自由」「大学の自治」の原則を尊重した諸施策を具体的に掲げた加藤静吾候補(元副学長・前理学部長)の支持を訴えた。会のニュースを7号まで発行し、政府・文科省の高等教育政策の危険性や学長選考手続きの異常性、結城氏の所信と見解の欺瞞性などを分析し、医学部を含む全構成員に配布し今回の学長選に関する認識を広める活動を進めた。山形大学職員組合は、特定候補支持は打ち出さなかったが、意向聴取投票の得票数非公開などをはじめとする学長選考会議決定の不当性を訴える署名活動や公開質問状の提出などの取り組みを粘り強くおこなった。マスコミへの情報提供もおこなった。こうした運動を基盤に、5〜6月にかけて医学部を除く5学部教授会は得票数公開を求める意見書等を2度にわたり採択し学長選考会議に提出した(工学部は教授会日程の関係で1度)。この結果、公示後の7月11日の学長選考会議(持ち回り) 決定により得票数公開化を勝ち取った(但し、規則を従前に戻す再改定ではなく「経過措置」によるという重大な問題点がある)。公開討論会の場では教育研究の現場を知らない結城氏の官僚的体質を暴露した。選挙戦の終盤では、支持を得つつあった加藤候補自らが小山清人候補(現工学部長)への一本化を呼びかけ、中島勇喜候補(現農学部長)をも含む3候補の共同により、反結城票を結集するための取り組みをおこなった。めまぐるしい情勢の転換のなかで、 多数の教職員が継続的に協力・支援をしてくださった。
 7月25日の学内意向聴取投票の結果は、投票総数809(有効投票数798)、小山候補378票、結城候補355票、加藤候補56票、中島候補9票、であった。「はじめに結城ありき」の異常な選考過程と執行部総ぐるみの「結城選挙」という逆境のなかで、山形大学構成員の多数意思が「天下り官僚学長NO!」にあることを示す結果となった。しかし、翌26日の学長選考会議は、上位3候補に対するヒアリングと意見交換の後、委員の無記名投票をおこない、小山候補4票(学内委員3票・学外委員1票、推定・以下同)、結城候補10票(学内委員4票・学外委員6票)の結果により結城氏を「学長候補者」に決定した。構成員の多数意思を無視した選考に対して、小山候補・加藤候補は直ちに抗議声明を出し、今後の法的措置の検討を表明し、学長選考会議に対して結城学長選定の撤回を求めている。山大職組も抗議声明を出すとともに、意向聴取投票の結果を覆した理由について学長選考会議に公開質問状を出し、問い糺しているのが現状である。

 われわれは、今回の学長選の結果をふまえて、以下の諸点を提起したい。
 第一に、国立大学法人法の本質が今回の山形大学学長選にあらわれたことをふまえ、その問題点を追及し法人法を廃止するたたかいを強化することを呼びかける。学長選考会議が学内意向聴取投票の結果を覆して第2位の候補を学長候補者に選定したことは、新潟大学・滋賀医科大学の例(ともに訴訟中)があるが、山形大学においても今後の学内運営に深刻な混乱を来すと予想できる。とくに今回、監督官庁たる文科省事務次官の学長就任を山形大学の教職員の多数が拒否したことを、政府・文科省は重く受けとめるべきである。山形大学の教職員は法人化の締め付けのなかにあっても、教育研究の真の発展のためには「学問の自由」「大学の自治」の原則が守られることが大切であり、それを侵害する恐れがある天下り官僚学長を選択しなかった。これは、特筆すべき結果といえる。その意味で、学長選考の廃止などを盛り込んだ教育再生会議第2次報告は、大学の教育研究現場の意向に逆行するものであり、われわれはその見直しを強く求める。また、学長選考会議が最終的に学長候補者を決定する権限を盛り込んだ国立大学法人制度は、その本質が同会議委員数の過半を制すれば、現場の多数の教職員の意向には関わりなく次期学長を決定できるという、 いわば「少数者」による大学支配システムの実現にあることがあきらかであり、とくに今回の山形大学学長選においては、学長による学長選考過程への一貫した介入と同会議委員への周到な根回しが顕著であり、辞める学長が次期学長を事実上選定できる学長選考システムとなっていることが、つぶさに実証されたといえる。この点は、法人法成立の際の参議院附帯決議の四「学長選考会議の構成については、公平性・透明性を確保し、特に現学長が委員になることについては、制度の趣旨に照らし、厳格に運用すること」という条項の趣旨に違反するものと言わざるを得ない。この意味で、われわれは、欠陥が多く教育研究の現場に混乱をもたらす国立大学法人法の廃止をあらためて強く訴える。
 第二に、山形大学学長選を先例として、天下り官僚による大学支配がますます進む危険があり、その進展を阻止するたたかいを呼びかける。結城氏は、仙道学長らの学長就任要請を受けて、事務次官在職中にもかかわらず「推薦されることに同意した」ことを公開討論会の場で認めた。同時に、公開討論会における天下り批判に対して、結城氏は「これは人事当局の斡旋ではない。予算を背景に押し付けているものではない。仮に押し付けがあるならば拒否すればよい。選挙で選ばれて学長になった場合は、みなさんの選択になる。したがって、天下りには該当しない」と公言した。「押し付けがあるならば拒否すればよい」とは、パワー・ハラスメントの加害者が使う常套句であり、実際には拒否しにくい権力関係のなかで自己を正当化する典型的な言い回しといえる。さらには、意向聴取投票の結果、結城氏は選挙ではついに選ばれなかったのであり、氏のレトリック自体も破綻したといえる。その意味では、結城氏は、学長選考会議からの学長就任要請を辞退すべきであった。結城氏は、なお山形大学学長選考会議により選ばれたと主張するであろうが、一般の教職員の立場からすれば「押し付けられた」結果に他ならない。天下り官僚学長は大学の自主性・自律性を侵害するとするのが山形大学構成員の多数意思であり、今回の学長選考会議の決定は、参議院附帯決議の三にある「政府や他法人からの役員の選任については、その必要性を十分に勘案し、大学の自主性・自律性を阻害すると批判されることのないよう、節度を持って対応すること」という趣旨に抵触するといえる。社会的にも今回の学長選の結果は広く報道され、結城氏の学長就任は、たとえ現行法制上は違法とならなくとも一般常識的には天下りに他ならず、文科省官僚が国立大学役員(今回学長もはじめて対象とされた)を天下り先として確保=植民地化していくことをますます促進させるとする批判が高まっている。今回の山形大学学長選考会議の決定は、学内外のこうした批判に到底耐えうるものではない。われわれは、意向聴取投票を覆して結城氏を学長候補者とした山形大学学長選考会議決定の撤回を求めるとともに、今後の山形大学において官僚支配の横行を許さず「学問の自由」「大学の自治」の原則を守り教育研究を発展させることを宣言する。そして、全国の国立大学における今後の学長選において、文科省官僚による大学支配の進展を阻止するたたかいを多くの大学人・市民の連帯のもとで進めることを呼びかける。
 第三に、法人法の廃止や天下り官僚学長による大学支配=文科省の直轄大学化に対するこれらのたたかいは、結局のところ、国立大学法人化の基底にある、財界の要求を背景とした政府・文科省の新自由主義的な高等教育政策の路線全体に対するたたかいとしておこなっていく必要があることである。山形大学をはじめ地方国立大学は、地方にあって高等教育の機会均等を保障し、かつ、わが国の長期的かつ基礎的な学術研究体制の一翼を担う高等教育機関として役割を果たしてきた。旧帝大クラスに有利な競争主義的な大学政策の誤りを指摘し、地方国立大学間のネットワークを強化し、相互交流をはかることでそれぞれの研究教育の発展をはかり、国民にその存在意義をアピールする取り組みを地道に継続していくことが求められる。ひとり山形大学だけが文科省にすり寄ろうとする今回の天下り官僚学長の選択には、未来はない。結城氏が仮に学長に就任した場合には、地方国立大学から選別淘汰=競争主義による改革を進め、学内部局組織の統廃合はもちろん他大学との統廃合をも模索し、文科省路線を地方に貫徹させる役割を果たそうとするであろう。これに対して、多くの地方国立大学と連帯し、旧帝大中心の国大協をも改革し、競争主義による大学間の分断と統廃合化を進める政策動向を批判し、ひろく国民の高等教育・学術研究の裾野を守り発展させていくたたかいを進めていく必要がある。われわれは、山形大学の学内はもちろん、学外の多くの方々とともに、これらのたたかいを進めていくことを、ここに声明する。