『神奈川新聞』社説 2007年7月9日付

国立大交付金 成果主義一辺倒では困る


国立大学の運営の根幹をなす「運営費交付金」。その配分見直しをめぐる議論が起きている。政府の経済財政諮問会議で、民間の議員が運営交付金を各大学の研究実績に応じて傾斜配分する「競争原理」の導入を求めたことがきっかけとなった。

世界の主要大学に比べ、日本の大学・大学院教育は劣っているのではないか―。成果主義の導入を求める背景には、国立大学の現状に対する、こうした経済界の懐疑のまなざしがある。しかし、交付金の配分見直しと、大学改革による国際的な競争力の底上げという差し迫った課題を直接結びつけようとした今回の発想自体に、もともと無理があった。

現行の運営費交付金は、教職員数などの規模によって配分額が決まる。国立大学の収入の半分近くを占める最大の収入源で、二〇〇七年度予算には約一兆二千億円が盛り込まれている。この現状の中に成果主義を強引に持ち込めば、交付金の大幅削減を強いられた大学は運営そのものが立ちゆかなくなるからである。

財務省が先に発表した試算でも、運営費交付金を従来の配分方法に競争的な原理を加味して見直した場合、増額となるのは東大や京大など十三校のみで、残る七十四校は減額になると結果が出ている。横浜国立大学でも、〇七年度交付金約八十六億一千万円が、二割減の約六十九億五千九百万円に減額される試算となった。

国立大学への補助金は、研究提案の内容などに応じて配分が決まる科学研究費補助金と、各校の教員の人件費や研究費などに充てられる運営費交付金が二本柱。後者の運営費交付金は自治体の予算に例えれば、いわば義務的経費の枠組みに入るだろう。そこにメスを入れられては「大学の存亡にかかわる」と、国立大学側から猛反発が起きたのも当然だ。

議論の火付け役となった諮問会議は、見直し推進派の財務省と反対派の文部科学省の正面衝突を避ける形で、競争原理の全面的な導入をひとまず見送った。

国立大学の再編統合も絡んだ今回の混乱は、日本の経済成長に国立大学がいかに貢献できるかという戦略問題を、交付金の配分ルール見直しという、狭い土俵に押し込めて議論しようとしたところに原因があったといえる。

今後は義務的経費の性格が強い交付金の増減をアメとムチにして国立大学間の競争を促そうとする乱暴な手法はやめ、当事者である大学関係者も含めた新しい土俵で長期的な戦略を練るべきだ。

一方、国立大学側も「これで当座、嵐が過ぎた」と受け止めてはなるまい。経済界の誤解を解くような研究実績と、その成果の発信、地域社会への貢献など、国立大学の存在感を一層高める継続的な努力が求められていよう。