『陸奥新報』社説 2007年6月28日付

国立大交付金「格差広げる財務省配分案」


国立大学への補助金である運営費交付金の配分について、財務省が競争原理を導入する姿勢を見せていることに対し、地方大学と各都道府県知事が一体となって交付金のこれ以上の減額阻止に向け声を上げていこうという動きが全国に広がり始めているようだ。

財務省の配分試案はあくまで試案だが、政府の経済財政諮問会議や教育再生会議などが研究成果に応じて配分すべきと主張しており、財務省にとっては「追い風」となっている。近い将来こうした試案が実行に移されれば、地方大学は切り捨てられると言っても過言ではないだろう。

弘前大学がある本県も安閑としてはいられない。弘大の遠藤正彦学長はこのほど三村申吾知事を訪ね、運営費交付金など基盤的経費の確実な措置を国に求めることへの支援を要請したという。県や県議会は、弘大と協力して国への働き掛けを強めてほしい。

財務省試案は、研究内容の提案などによって決まる科学研究費補助金(科研費)の配分割合を基にまとめたものだ。それによると、全国87大学のうち、地方大学や教育系大学を中心に全体の85%に当たる74大学が減額となる。そのうち、50大学は半額かそれに満たない交付額となる。

弘大もその中に入り、68・7%の減額となる。弘大の2007年度予算は約360億円だが、うち運営費交付金は約118億円だから、試案に当てはめると約81億円が減額される勘定だ。これでは弘大関係者ならずとも危機感を抱かざるを得ない。

東北では、東北大を除き弘大、岩手大、秋田大、山形大、宮城教育大、福島大の6大学が50%以上の減額に含まれる。半面、旧帝大グループの東大や京大など13の大規模総合大学は増額となる。

大学への競争原理導入をはなから否定するものではない。日本の大学や大学院の質を高め、国際競争力をレベルアップしようという教育再生会議などの狙いは理解できるが、問題は大学の評価基準の在り方だ。

科研費の割合だけで交付金を決める財務省の試案では、理工系や医学系が優遇され、研究成果が目に見えにくい人文系の研究分野が冷遇されることにもなりかねない。カネになる実学的研究分野だけが重視され、人文系の基礎研究がなおざりにされることを心配する声も少なくない。

一律に競争原理を導入すれば、あらゆる面で既に優位に立つ旧帝大グループなど大規模総合大学と地方大学の格差は拡大するばかりだろう。そうした事態は避けなければならない。

弘大など地方大学は教育・研究に限らず地場産業や地元経済に多大な役割を果たしてきた。文部科学省の試算では、弘大の経済効果は約406億円、雇用創出は約6万8千人とされる。

こうした「尺度」を加味せず、科研費だけで交付金を決めるのであれば、地方大学が衰退するのは目に見えている。「教育再生」にも逆行することになろう。「教育は国家100年の大計」とも言われるが、高等教育の場にも格差が広がるのは、ごめん被りたい。