『徳島新聞』社説 2007年6月22日付

国立大交付金 これでは地方切り捨てだ


国の補助金である国立大学の運営費交付金の配分方法を、各大学の努力と成果に基づくように見直すことが、今年の「骨太の方針」に盛り込まれ、閣議決定された。

教職員数など大学の規模で大枠が決まる現行の画一的な配分をやめ、研究成果に応じて傾斜配分する競争原理を導入しようという狙いだ。

徳島大や鳴門教育大など地方の中小規模の大学は、運営の基礎となる経費が大きく減るとみられ、経営が立ち行かなくなる心配がある。

歳出の削減を「錦の御旗」に、地方の大学の切り捨てにつながるような方針は賛同できない。国は成果主義導入を再考すべきだ。

地方の国立大学が果たしてきた役割は教育と学術研究にとどまらず、地域の医療や経済への貢献、人材育成など幅広い。競争原理や成果主義を前面に出した大学改革は、こうした機能を損なう恐れがある。

国は本年度内に新たな配分の方向性を出すとしているが、慎重な取り組みを求めたい。

徳大は「地域の中核的役割が果たせず、安定的運営が成り立たない」として、学長名で交付金の堅持を求める緊急声明を出した。

徳島県の飯泉嘉門知事も県議会で「徳大や鳴教大の存続が危ぶまれ、県内経済、県民の暮らしに影響を及ぼす」との強い危機感を表明。四国知事会や近畿ブロック知事会で見直しを求める緊急提言を文部科学省に提出した。それぞれ議会や自治体、経済界などと連携し、運動を強力に進めてほしい。

財務省が科学研究費の配分実績に基づいて交付金を試算したところ、増額になるのは東大や京大など十三大学で、徳大など二十四大学は減額率が五割未満、鳴教大や東京芸大など五十大学は五割以上となった。明らかに旧帝大などが優遇され、文科系や単科大学が不利となっている。

文科省は「交付金を25%減額すれば、大学は機能停止し、50%なら即破たんする」と憂慮している。

徳大では二〇〇六年度の予算総額約三百六十七億円のうち、42%の約百五十五億円が交付金で、鳴教大は〇七年度予算約四十三億円のうち、79%の約三十四億円に上る。減らされる金額によっては、大学の運営ができなくなる。

国立大の交付金は〇四年度に独立行政法人化したときから、毎年1%の削減が課せられている。

このため、徳大では産学連携の推進による競争的資金の獲得に力を入れるなど、各大学とも独自の収入源確保に努めている。そうした最中での配分方法の変更は性急すぎる。

地方の景気回復が十分でない中、学ぶ機会が地方に限られる学生も少なくない。また、地場産業への技術支援などに大きな役割を果たす知的機関もほかにない。そうしたことにも、配慮すべきだ。

国立大学協会では「競争が重視されると教育の質が保てない。成果の見えやすい分野ばかりが評価され、基礎研究や自由な発想による研究は軽視されてしまう」と懸念する。

文科省が群馬、弘前、三重、山口の中堅国立大四校をモデルに地域経済への波及効果を試算した結果によると、一校当たり四百億円から七百億円の効果と最大九千人の雇用を生み出している。大学が立ち行かなくなった場合には、地域への悪影響は計り知れない。

安倍内閣は「教育再生」を最重要課題に掲げている。あまりに効率優先の改革では逆に、日本の高等教育を駄目にする。