『西日本新聞』社説 2007年6月12日付

競争原理だけでいいのか 国立大交付金


国立大学に国が支出している運営費交付金の配分を大学の研究成果や実績に応じて見直すと、全体の85%にあたる74大学の交付金が減額されるという。

国立大学法人への交付金のあり方見直しを検討している財政制度等審議会に、財務省が提示した試算である。

この試算によると、地方の国立大学はほとんどが交付金を減額されることになる。大幅に減額される大学が経営危機に直面するのは必至で、地方から国立大学が消えることにもなりかねない。

文部科学省では、試算どおり配分されれば半数以上の47大学が経営が成り立たなくなる、とみている。

そのまま具体化されることはないにせよ、地方の国立大学にとってはショッキングな試算である。

過去3年の科学研究費補助金(科研費)の配分割合に応じて交付金額を算定すると、交付金が増えるのは東大、京大など大規模な総合大学を中心に13大学しかない。九州では九大を除いた8大学は軒並み減額される。大分大と福岡教育大に至っては8割以上の減額となる。

運営費交付金は総額で年間約1兆2000億円に上る。現行制度では特別教育研究経費(交付金全体の約7%)を除いては学生数や教職員数など規模に応じて一律に配分されている。大学の収入の45%を占め人件費や施設維持費、光熱費などに充てられる大学運営の基盤的経費だ。

交付金見直し論は政府の経済財政諮問会議や財政当局から出てきた。一律配分を改め、研究成果や実績に応じて重点配分し、学術的に国際競争力を持つ大学を育てるのが狙いという。

同時に、配分の「選択と集中」によって、大学にコスト意識や競争意識を植え付け、大学運営の効率化や大学の再編・統廃合を促す狙いもありそうだ。

国立大学といえども、競争原理やコスト意識が不可欠なことは言うまでもないが、大学の価値は研究の成果だけで測れるものではない。

もちろん、先端科学の研究を重点支援するのは国家戦略として必要だ。しかし大学は自然科学・技術分野の高いレベルの研究拠点であると同時に、哲学や数学、芸術、歴史など基礎的学問の研究・教育の場でもある。地方では、大学が地域の文化や人材育成を担う拠点となっていることも見逃してはならない。

そうした視点から、教育系大学が担う教員養成機能や、地方大学と自治体や地元企業との共同研究や社会人教育、地域医療の実績など地域貢献度も、交付金配分の評価基準にするよう提案したい。

成果主義に基づく競争的配分は時代の要請でもあろうが、それが地方の大学の切り捨てにつながるようなことがあってはなるまい。

そのためにも、地方の国立大学に一層の経営努力と地域に役立つ大学に向けた改革が求められるのは、当然だろう。