国立大学の運営費交付金の競争的経費化に反対する

2007年6月6日 東京学芸大学教職員組合第64期定期大会

2007年にはいり,経済財政諮問会議や規制改革会議をはじめとする政府系の会議や財務省から国立大学への運営費交付金の配分にあたって成果主義的性格を強めよという声が強くあがった.さらに教育に関して政府系会議のとりまとめを行っている教育再生会議は6月1日の第二次報告において,大学・大学院の運営費交付金の配分について「教育研究の基礎的な部分をきちんと支える」と述べる一方で「@教育・研究面,A大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき大幅な傾斜配分を実現する」とも述べている.

文科省や財務省の試算を見れば明らかなように科学研究費補助金や特別教育研究経費など競争的資金の配分額に応じて運営費交付金を配分すると,教員養成系大学や地方の大規模でない大学は軒並み大幅に減額され,大学の存続が困難になる.私たちは以下のような点から,国立大学の運営費交付金の競争的経費化の動きに強く反対する.

1.本学のような教員養成系大学では課程認定のために学生数比で通常より多い教員が配置されているほか,多くの附属学校を必要としていることもあり,大学の運営費全体に占める人件費の割合は8割を超え,財政基盤はもともと弱い.大学教員が主に取得する競争的資金配分額に依拠する試算で教員養成系大学が下位に並ぶことになるのは当然のことと言える.文科省や財務省のような一律の指標での試算は無理がある.

2.教員一人当たりの年間研究経費は,教員養成系大学で平均59万円であり,これは全国立大学平均の283万円,大規模総合大学の422万円と比べて著しい開きがある(第60回総合科学技術会議資料).しかも研究経費に運営費交付金の占める割合が高い.そのような中で多くの教員は,特徴を生かし,教育と密接に関連した研究活動を展開しているのである.現状の格差をさらに拡大させることは,教員養成系大学の教員に研究をするなというようなものである.

3.運営費交付金の削減は,教育研究経費の削減や教員の不補充などに直結する.本学は,学生が自分の得意な分野を持ち,その専門性を高めて物事の本質的な理解に近づく道筋を学び授業を行う力を高めるという教育理念を掲げてきている.その理念は,教員の旺盛な研究活動,多様な教員集団の存在と切り離すことはできない.

4.既に2007年度において,地域手当の凍結という形で,本学の財政基盤の弱さが教職員 の待遇に現れている.運営費交付金の削減はさらなる待遇の悪化や労働強化につながる可能性が極めて高い.教職員の働く意欲や,優秀な教職員の確保にあたり深刻な問題が発生するであろう.

5.授業料を各大学で裁量できる範囲が拡大した.運営費交付金が削減されると,大学経営維持のために,授業料が値上げされる可能性が高い.ただでさえ,教員削減や教育研究経費の節約で勉学環境が悪くなりつつある中,授業料まで値上げされることは学生にとって大きな打撃となる.教育の機会均等を保証する観点からこれ以上学生に負担を負わせることは避けるべきである.

6.憲法23条で学問の自由が保障されている.学問の自由には,国が大学における教育研究の財政基盤を支えるとともに,その資金の使い道については大学が決める権利があることも含まれると考えられる.今回の運営費交付金の競争的経費化は,学問の自由を空洞化させるものである.

以上